賽は投げられた。
駅の階段を一気に駆け上った。
間に合え!婆様が葉月ちゃんを傷つける言葉を吐く前に…間に合ってくれ!
大きく肩で息をし、コンビニの周りを見渡した。
まだ、理香さんは来ていない。
すぐにウィンドウ越しに、コンビニの中へ目をやった。
…婆様がいた。
葉月ちゃんは…?
・
・
葉月ちゃん…
婆様に…なにか言われたのか…くそっ!
これ以上…なにも婆様には言わせない!
その時、葉月ちゃんの声が
「私は高宮 葉月です。ウェンデイじゃありません!」
震えながらも、彼女はしっかりと婆様を見ていた。
葉月ちゃん…
あの婆様の目を見て、話が出来る人を始めて見た。
君はやっぱり…すごい。
「そう…あなたの価値よ。小国とはいえ、豊かな地下資源と温暖な気候に恵まれ、ヨーロッパではリゾート地としても有名なウッドフォード国のあなたは正統な後継者、そして世界最大の企業グループである久住グループの血もその体に流れる…あなたは尊い血筋なの。名門、そして権力を欲する者にとってはあなたを誰もが欲しがるわ。」
「何を…言っているんですか?例え、私にその血が流れていたとしても、私自体はなんにも力はないんですよ。」
誰も…そう俺も含めて…そうやって婆様を真っ直ぐに見る人間はいなかった。みんなどこかで、婆様の権力の大きさに、初めから頭を垂れていたんだ。ましてや…婆様の意見に刃向かう人など皆無だった。
「ほんとわかっていないわね。女は血筋なの。その尊い血を後の世代へと繋げるのが仕事。王家にしろ、久住のような名門にしろ、同じように人の上に立つものは、庶民と同じでは威厳がないの。成り上がりはお金で、庶民と差をつけ、ひれ伏せようとするけど…庶民が本当にひれ伏すのは、尊い血筋の者にだけ。あなたにはそれがあるの。」
血筋か…まったく…この人は
華族の血筋を引く由梨奈は、久住本家の嫁に選ばれ、そして俺は本家に子供がいないからと、久住の血を引くものから、幼い男の子という理由で、攫われるように本家に連れてこられた。
婆様は、どんだけ翻弄される人を作るつもりなんだ。
いい加減にしろ!葉月ちゃんまで巻き込むのなら、俺は絶対、婆様を許さない!
怒りで震える体で 、足を前に出した。
「それ…いいです。私はいりません。」
えっ?…今、葉月ちゃんは婆様の話を否定した?!
ピンポン~♪
俺がコンビニ入ろうとして鳴った軽快な音に、誰も気づかないでいる。
誰もその音よりも、あの久住 華子に視線を合わせて、堂々と対峙している葉月ちゃんに、みんなは気にとられている。
クスッ…思わず口元が緩んだ。
婆様は初めてだろうな。自分の意見に真正面から否定されたのは…
庶民がひれ伏したくなる血筋か…。
血筋なんて、バカばかしいと思っていたが…。
この状況は…笑える。
どう見たって、尊い血筋とやらの威厳に、婆様が押されている状況だな。
まぁ、ひれ伏すような人じゃないから、ここまでだな。
あとは俺が、彼女を守る盾に、そして刃になる。
まだ準備が整っていない中、どこまで婆様を追い詰められるかわからないが…
「婆様。あなたこそわかっていない。」
賽さいは投げられた。
「…久住さん…。」
俺を見た、葉月ちゃんが泣いている。安心して泣いている。
「昨日の今日でカッコ悪いけど…でも…」
理香さんから電話を貰った時…。
カッコつけの俺は、昨日あんな事を言って、どんな顔をして君に、会ったらいいのかわからなくて、一瞬、理香さんが先に行ってくれたら助かると思ってしまった…ほんと俺はカッコ悪い。
でも、駅へと走るうちに、心の中は、ただ…君を…
「君を守りたいから…カッコ悪くてもいいや思ったんだ。」
君を好きな気持ちは、諦めきれるものじゃない。でも、10年前とは違う。結ばれないと、側にいてくれないと不安で堪らなかった恋とは違う。
君が好きだから…ただ君が好きだから…君を守りたい。
「間に合ったかい?葉月ちゃん。」
葉月ちゃんは大きな声で「はい!」と言った。
その元気を、そして笑顔を、君の幸せを守る。
だから…俺は今、婆様に刃を抜く。
婆様のその価値観には、もううんざりです。これ以上、その価値観で人の人生を振り回すのなら…俺は許さない。」
「どういう意味?」
「言葉通りです。久住 華子さん。」
「樹?!」
「あなたを久住から、追い出す。」




