葉月・・・慌てる。
「…で…」
と言って、理香さんはコーヒーを一気に飲むと私に言った。
あれから、私は久住さんの手を引いて、
(まずは、理香さんに…バイトの件で謝って…。店長に言い負けしない方法を伝授してもらって、夜勤を撤回させないきゃ!!)…と理香さんの職場へと勇んでいったのだけど…
なぜだか…私が来るのを待っていたかのように、理香さんは、オフィスの前で私の腕を掴むと、オフィスの一室に引っ張り込み…一通り聞き…今に至っている
でも…その度に…青くなったり、赤くなったりした私は…しおしおだ…。
『任せてください。今の久住さんの手も、10年前の久住さんの手も…絶対離しませんから!』と、力いっぱい頷いたあの…力強い私は…もういなかった。
く、久住さん…乗り越えなくてはならない壁は、強靭ですと、横の久住さんをチラリと見たが、それよりも今の状況に、久住さんは…呆然とした顔で…
「えっと…理香さんは…あの…」
「えっ…なに…」
語尾が…上がってるよ、理香さん…
「…弁護士さん…だったんですか?」
「あぁ…一応なぁ…」
「…刑事事件専門…?」
「…企業法務専門…!」
「…ですか…」
「おまえ…今、何を思った…」
空気が…今、ピリッとしたよ~、な、なにか…言わないと…
「り、りかさん!!あの…」
ポンポンと私の頭を理香さんは叩き、目を細め…
「まぁ…夜勤の件は、丸山から聞いていたから…もうすでに手は打っている。」
丸山君…
丸山君は理香さんの手下だったんだね。長いものには巻かれると言い切る丸山君だもんね。
「だがなぁ…葉月。」
「えっ?…は、はい。」
そう言って、理香さんは、胸に手をやって…小さな声で「うっ…」と言うと
「あたしは…悲しかったよ。まさか…葉月が…あたしと大吾がいない時に…こそこそと…動くようなことをするとは…胸が痛い。」
あぁ…ごめんなさい。つい、お金に目がくらんで…すぐに【やりません】と言えなくて…ご、ごめんなさい。」
「ほんとに…悪かったと思っているんだなぁ?」
「は、はい!」
「じゃぁ…落とし前をつけてもらおうか。」
「へっ?おとしまえ?」
「いやいや…弁護士費用(法律相談料、着手金、報酬金、支払時期、支払方法等)だ。悪かったと思っているんだろう?本来なら、店長にちょっと話をつけてやった件は、料金が発生するが…金を持っていない葉月に、金でどうこうは言わない。だが…ちょっと頼みがある。」
「頼み…ですか?私に?」
「…と言うか、お前らにだ。」
と言って、理香さんは私とそして…久住さんを見た。そして…にっこり笑うと…
「久住家のパーティに、あたしと大吾も連れて行け。」
「はっ?」
「…理香さんが好き好んで、そんな場所に行きたいと…思えないんですが…どうして?」
理香さんは、久住さんの問いに…
「まぁ…そう通りなんだけどなぁ…」と言うと、それぞれのカップにコーヒーを入れながら
「取りあえず熱海より…いいからだよ。…いいかい?あたしらが行っても?」
なにがなんだかわからない久住さんは、困惑気味に理香さんを見ていたが、大きく息を吐くと
「理香さんが何を考えて、そういうのかはわかりませんが…葉月ちゃんの為には、理香さんやジョセフィーヌさんが一緒のほうが安心ですから、構いません。」
久住さんの返事を聞いて…理香さんは
「ありがとな。」と言ってスマホを出し、すばやく番号を押して電話をかけると…
大きな声で…
「おい!大吾!…ちゃっちゃっと電話に出ろよ。」
《理香ちゃんは、もうせっかちなんだから…》
「今日は7秒ぐらいか…まぁ…今日は大事な話しがあるから許してやる。」
《何を言ってんだか…でも大事な話って?》
「金曜日は…久住のところのホームパーティに行くぞ。」
《えっ?!い、嫌よ。私…人が多い所はダメなのを知っているくせに…》
「熱海…」
《…熱海?…》
「熱海に行かなくて済むぞ。それとも…行きたいのか?それなら…無理には誘わないが…」
《り、りかちゃん…》
「決まったな!一応、実家に戻って服を持って来いよ!じゃぁなぁ…」
《り、理香ちゃん!り…》
プー・プー・プー・・
「大吾もズゲェー楽しみだって言っていたぞ!」
…聞こえてたよ。理香さん。ジョセフィーヌさんの悲痛な声が…
でも、なんで…そんなに久住さんのところのパーティに行きたいんだろう?ああいう場所って、1番嫌っているのに…なぜ?
ぁ…あ…あぁっ!!!
「あ、あ、熱海だ!!!!」
突然、叫んだ。私に…久住さんは引きつった顔で、私を見て
理香さんは…
「そう、熱海だ。」と言って、ニヤリと笑った。




