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キスをする5秒前~kiss.kiss.kiss~  作者: 夏野 みかん
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樹・・・会う。

「あはは…」


乾いた笑いを出すと、葉月ちゃんは

「よ、よくある事ですよ!こんなこと…えっと、丸山君、それ私が買うから…」

そう言って、呆然として固まった俺の手を引きながら


「あがります!!お疲れ様でした!」と叫び…俺に…


「ちょっと、コンビニの前に待っててください。」と言って微笑み、バックヤードに引っ込んだ。


あぁ…どうしてこんなことに…

どうして…こうカッコ悪いところばかり見られるんだ。

酔っ払って、結婚を迫り、挙句の果てに…キスをしようとしたり…

それも…汚れて破れたスーツに…おまけに片方の靴をなくした姿でだ。

そして…とどめがこれだ。


27の独身男がコンビニで…堂々と「会計!」と言って、女性の…あぁぁ!もういいや!ゴムじゃないぶん、良かったと思うべきだろうなぁ…彼女に、そんなものを買うところを見せたと言うだけでも、また理香さんの右フックが飛んで来そうだからなぁ…あぁ、でもダサイ。


葉月ちゃんにとって俺のイメージって…残念な男なんだろうなぁ。

なんだか…もう今更気取ってもしょうがないってことか…


大丈夫ですか…久住さん?」

慌てて出て来たのだろう。お団子頭が少し崩れていた。


「うん、大丈夫だよ。ごめんな、迷惑ばかりかけて…、どうしてこう、カッコ悪いところばかり、葉月ちゃんに見せる羽目になるんだろうなぁ、情けないよね。」


「…そ…そうでも…な…いですよ。」


…そうでもあるんだ…。やっぱり…


「でも…久住さん、あの時…」


「えっ?」


「…整った久住さんの顔は…あの時人形みたいに表情が無くて…涙だけが…あぁ、人間なんだと思わせて…それがすごく切なくて…」


「…葉月ちゃん…」


「だから…今みたいに、困ったり、驚いたり、笑ったり…表情があるほうがいいです。」


俺は…そっと手を伸ばし、彼女の崩れた髪を撫で付けながら

「俺…なんか嬉しい。いつもどこかで、俺の前に立ちふさがる人に向かって、俺は完璧じゃなきゃ…立ち向かえない。と思って、どこか本当の俺らしさをなくしていたのかなぁ…。

本当は俺は…どうしようもなく、喜怒哀楽の激しいガキなのに…何事にも動じない男を気取ってさ…」


「あ、あの…」


「うん?」


真っ赤な顔で、俺を見上げ…

「あの…人目があるので、あの…ここで…頭を撫でられるのは…ちょっと恥しいかなぁ…なんちゃって…」


「えっ…?!ああぁ…ご、ごめん!行こうか!!葉月ちゃん!!」


「あっ…はい!!」


自然と俺と葉月ちゃんは手を繋ぎ、西口へと走った。

なんだか…楽しくて、いつの間にかさっきまで、会社であれほどイラついた事を…忘れ、俺は笑っていた。女性の前で…夜を誘う笑みじゃないて、子供のように声を立てて笑い…無くしていた何かを見つけた気がしていた。


だが…それは…あっという間に…崩れた。



たった一言…


「樹…?」


後ろから俺を呼ぶ声に…ゆっくりと振り返り、葉月ちゃんを俺の後ろにやり…その人を見た。


その人は…呆れたように

「昼食会は…出なくても良いと入ったけど…仕事中に会社を抜け出し…こんなところで女性と…」

と言って、葉月ちゃんへと視線を向けたが…俺はその視線をこちらに向けるように、嫌味を込め


「昼食会に参加の必要がないとのことだったので、すこし早めの昼食を取ろうと駅まで来たら、友人と偶然あったんですよ。…会長。」


会長はふっと笑うと…

「そう…でも、まぁ良かったわ。樹はまだストーカーのように、結婚を来月に控えた弟の許婚に、言い寄ろうとしているんじゃないかと、心配していたのよ。そうやって…公の場で手を繋ぐほどの仲の方が…いらっしゃるのなら安心ね。…あなたお名前はなんて仰るの?」


俺は落ち着けと…言い聞かせながら…

「会長…彼女を久住家の魑魅魍魎の世界へ、誘わないで頂きたい。そっとして頂けませんか。」


「あらあら…ひどいわね。名前ぐらい。…じゃぁ彼女を調べても…よくって?」


この婆様は…もう70過ぎだというのに…よく頭も、口も回るものだ。どうする?…ここで隠しても、きっと会長秘書の野田が調べるだろう。だが…巻き込みたくない。葉月ちゃんが…この笑顔をなくすようなことになったら…


「あ、あの…」


俺の後ろから、顔を出すと、葉月ちゃんは…

「挨拶は当然ですよね。すみません、失礼しました。私、高宮 葉月です。」と言って、頭を下げた。


「は、葉月ちゃん…。」


「樹…どうやら、幼い容姿だけど、彼女のほうが大人だわね。」そう言って、笑うと


「ねぇ、高宮さん…金曜日にうちにいらしゃらない、内輪でパーティをするの。野田…、高宮さんに…住所と電話番号を…」


「会長!葉月ちゃんは…!」


「樹…彼女が来たほうが…あなただって助かるでしょう。妙な疑いを…私や…秋継に持たれないためにも…ね。」


「俺は…なんにも、疑いを持たれる事はありません。」


「…それは行動で示すほうが確実よ。」


強く握り締めて俺の手を、小さな手がそっと触れ、俺に微笑むと…

「…わかりました。私、お伺いします。」


彼女は…そう言って、満面の笑みで婆様に答えていた。




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