魔獣拾いました
小野瀬きらり。東低魔術大学に通う防衛学科一回生。本来、防衛学科は魔人や魔獣の脅威から市民を守る馬術自衛官の育成機関であるはずなのだが、彼女はその職を正義の魔法少女と信じ込み、魔術自衛官を目指している。決して大きく外れているのではないのだが、少しずれている。
彼女はお気楽で、明るく、ゆるふわ大学生代表のような存在だ。いや、実際のゆるふわ大学生は計算したうえで演じていることの方が多いかもしれないが、彼女は天然もののゆるふわである。
今日は雨にもかかわらず、鼻歌を歌いながらルンルンで家へと帰る。
「ふんふんふーん。うん・・・?」
きらりはゴミ箱の隅で何か白いものが動いてるのを見つけた。
ちっちゃい動物かな?でも、まんまるで手も足もない。触ってみようかな。
「つんつん。」
指で突っついてみると、白い物体はびくっと動いた。どうやら生きているようだ。だとしてもこんな生き物は今まで見たことがなかった。
「わぁ!おもしろい!もっと触っちゃおう!」
調子に乗って何度も何度も指で突っつくきらり。そのたびにびくっ、びくっと謎の物体は動く。すると、その白い物体は突然きらりの方へ顔を向けて叫んだ。
「いい加減にしろーーー!!何度も何度も突っついて!くすぐったいだろうが!!」
「わぁ!しゃべった!」
その謎の白い生物は甲高い声で叫びながら、その場をぴょんぴょんと跳ねる。それにしてもかなり跳ねる。自身の大きさは約30cmというほどなのだが、その生物は軽く1mほどはジャンプしている。
「ん・・・・あ!ややや・・・やっちまった!人間に見つかっちまった!おりはもうダメだ!人間に殺される運命なんだー!!」
慌てふためく謎の白い物体。つぶらな青い瞳で、小さい耳、ウサギのような口を持ち、小さい角がある。ウサギのような猫のような謎の生物だ。
それを見たきらりはこう思った。
「か、かわいいいい!!!きみ何て名前なの!?」
「何だよ人間。お、おりの名前か?おりの名前はモコモコだ。こう見えても魔獣だぞ!クリニタスっていう立派な魔獣だ!お前なんて簡単にぶっ殺せるんだぞ!」
素直に名乗る小さな魔獣。だが、どう見ても人間を殺せるような力を持っているとは思えない。
「モコモコかー。じゃあモコちゃん。雨に濡れちゃって可愛そうだから、家に連れて帰ってあげるよ!」
「は、話を聞けよ人間!おれは人間と慣れ親しんだりなんかってわーーー!!!」
きらりはモコモコを抱きかかえた。
「モコちゃん本当にかわいいね。私が飼ってあげるよ。」
「何勝手なこと言ってるんだ!魔獣が怖くないのか!?」
「だって、きらりは魔獣を退治する魔法少女になるんだもん。魔獣なんて怖くないよ。それにしても、魔獣ってこんなに可愛かったら、きらり退治なんかできないよ。」
「ふざけんなーー!!離せーーー!!ぶっ殺されたいのかーーー!!」
「離さないもん!モコちゃんはもう私のものなんだから。」
きらりは力強くモコモコを抱きしめる。モコモコは逃げようと暴れるが、逃げられない。女の子が抱きしめる力にも及ばない魔獣が果たして人を殺せる力を持っているのどうか。疑わしい所である。
モコモコは逃げることを諦め、素直にきらり宅まで運ばれた。
~~~・・・・~~~
「さぁ、お家につきましたよー。まずは汚れた体を洗わなくちゃね。」
きらりはモコモコをお風呂場へと連れていき、シャワーをかけた。
「あち、あちちち!何だよこれ!」
「動かない!じっとしてて!」
モコモコはきらりに押さえつけられ、黙ってシャワーを浴びるしかなかった。
モコモコの汚れを洗い流すと、モコモコの体はさらに白くなった。そこでドライヤーで乾かすと、名前の通りモコモコな体へと変貌した。
「すっごい綺麗になったよモコちゃん!」
きらりは手鏡をモコモコの前へと持っていき、綺麗になった体を見せる。
「なぁ・・・えっと・・・きらり?だっけ?」
モコモコは鏡越しできらりと目を合わせて話し始めた。
「ううん。私の名前は斉藤さんだよ。」
「斉藤さん!?誰だよそれ!?さっきから自分のこときらり、きらり言ってたじゃんか!」
「そうでした。ばれちゃった。」
「何なんだよ一体・・・。それにしても、どうしておりなんかにきらりは優しくしてくれるんだ?」
「だって、雨に濡れてかわいそうだったし。」
「でも、おりは魔獣なんだぞ。魔獣は表の世界じゃ嫌われてるっておりのいた世界では聞いてたぞ。」
「そうだね。私の友達の未来ちゃんだったら、すぐに退治しちゃうかもね。でも、なんだかほっとけなかったしさ。モコちゃんはどうしてきらりたちの世界にやってきたの?」
モコモコは少し下をうつむいて、悲しそうな顔をした。
「来たというか、追放されたんだよ。おり、口悪くて仲間たちと仲良くできてなかったし。おりはさっきも言った通り、クリニタスって魔獣でさ。クリニタスは仲間たちと合体して強くなり、他の魔獣を襲う、肉食の魔獣なんだ。でも、合体するときは仲間たちとの気持ちの統一が必要なんだけど、おりはどうしてもみんなと合わなくて、いつも喧嘩ばっかり。ついには追放ってわけさ。」
「へぇー、そうなんだ。でも大丈夫!モコちゃんにはもうきらりがいるから!」
モコモコはきらりを見つめる。その瞬間、モコモコは泣き出した。
「うわぁぁぁぁ!!」
モコモコはきらりの膝の上に飛び込んだ。恐らく、今までかなり辛い目に遭ってきたのだろう。それもあり、モコモコの心にはきらりの優しさは響くものだった。
「よしよし、お腹空いてない?」
「ん?でも、おり肉食の魔獣だぞ。食べたことあるのは魔獣の肉だけだ。」
うるうるとした目できらりを見つめる。
「そっかぁ。あ!ソーセージがあるよ!」
「なんだそれ?うまいのか?」
きらりは冷蔵庫の中からソーセージを持ってきた。 モコモコが食べやすいように小さく切って、お皿に乗せる。
「これがソーセージというやつか。」
モコモコは不安になりながらもソーセージを口に入れた。
「う、うめぇぇぇぇ!!何だこりゃ!魔獣の肉より全然うめぇじゃねぇか!!」
「よかったぁ!」
「こんなうまいものが表の世界にはあるなんて!おり、表の世界来てよかったかも!」
モコモコは嬉しさのあまり、先ほどよりもさらに高く跳ねる。
「元気になったみたいでよかった!これからモコちゃんはきらりと一緒だよ!」
「おう!一緒だ!一生ここにいる!」
こうして、きらりとモコモコの共同生活が始まった。




