火山はひやまと読む 第四話 人と物
「確認って・・・何をすればいいの?」
この性格から察するに、未来は18年の人生で彼氏は作ったことはないと思われる。よって、彼氏、彼女が一体どういう行為をすればいいのかが未来には見当もついていない。
「何って、いつも通りでいてくれればいいよ。」
いつも通り。そのいつもなんて存在しない。未来はどうすればいいのかと訴える目で咲花を見た。
「リラックス、リラックス。いつも通りでいいんだからな。未来ちゃん。」
咲花が「未来ちゃん」と呼んだことに未来はぶちぎれそうになった。しかし、ここで怒ればわざわざプライドを捻じ曲げてまで咲花に協力を要請したことが水の泡となってしまう。未来はなんとか怒りを鎮めた。
「まぁ、別に二人が付き合ってたところでおれは諦めないけどさ。」
この一言に未来はぶちぎれた。と言っても、かなり静かな怒りであった。普段から大人しく、クールな未来はあくまで平静を装う。
「はぁ?あなた何を言っているの?昨日、私に彼氏がいるなら諦めるって言わなかった?それとも気が変わったわけ?」
「いや、おれは未来ちゃんにふさわしいと判断すればと言ったはずだぜ。おれの基準としては、背が高く、イケメンの細マッチョでいかにも真面目で賢そうな人だったけど、実際は背は標準。顔は男か女か見間違えそうなくらいの中性的な顔立ちでヒョロヒョロでいかにも平凡って感じの男だ。おれが付け入る隙はいくらでもあると見た。」
「うるさいな。僕もそうなりたくてそうなってるんじゃないんだ!ていうか、未来ちゃんは僕のものだぞ!人の彼女を奪おうだなんて何考えてるんだ!」
咲花の今の言葉は未来に自らの誠実さをアピールするための発言だ。正直なところ、火山が未来を狙うことに関してはどうでもいい。
「出たよ、彼女は僕のもの発言。おれが一番嫌いな考え方だな。言ってみろよ。彼氏持ちを狙うことの何が悪いんだ。」
そう言われると、はっきりと反論の言葉がうまく出てこなかった。
「だいたい、彼女は僕の物とか、私の彼氏を取らないでとか、人は所有物じゃないんだぞ!それともあれか?お前は将来子供ができたときに、子供は親の物だとか言う理由で、進路や就職先を親が勝手に決めてもいいって思っているのか?違うだろ。人間は物と違って自分の意思があるんだから、誰かの思い通りになっていいはずがない。人間が所有物だとかいう考え方は奴隷制度が無くなった時点で滅びてんだよ。それなのに社会的な風潮から彼氏持ち、彼女持ちを狙うやつがいかにも悪者扱いされて、たまったもんじゃねぇよ。彼女を奪った?彼氏を奪われた?何を言ってんだか!?男女が交際を始めるときは双方の同意がなければ始まらない。何も彼氏持ちの女を狙ったやつが女の気持ちを無視して、強制的に交際を始めたわけじゃないだろ。全ては女がどちらの男がいいかを天秤にかけただけの話だ。奪われたんじゃない!捨てられたんだ!それなのに捨てられた側の人間は手を出してきた側がいかにも悪いと判断する。彼氏や彼女を失った原因は恋人に対し十分に奉仕できていなかった自分にあるというのにな。もしおれに彼女がいて他の男が手を出してきたとしても、おれは怒ったりはしない。怒るやつは自分に自信がなく、彼女が自分を捨てるかもと恐れているみっともないやつだけだ。自分の度量も彼女のことも信用できないやつだ。これを聞いてもお前はおれが未来ちゃんに手を出すことを拒むのか?」
咲花は何も言えなかった。というか、火山の考えに心を打たれた。
「すまん・・・・ぼく、大河内さんとは付き合ってない。」
ここまでの思いを持ちながら、騙そうとしている自分が恥ずかしくなり、思わず本当のことを言ってしまった。
「ちょっ・・・何を言ってるの。」
「そ、そうだったのか!全部演技だったのか!嫌だな未来ちゃん。そんなことまでしておれを遠ざけようとしてたとは。」
未来の計画が全て無駄に終わってしまった。その途端、未来は立ち上がって咲花に手の平を向け、呪文を唱えた。
「トニータルリ・アングィス。」
その呪文に咲花も火山をきらりも背筋が凍った。なぜならこの呪文は知らない人はそうはいない伝説の呪文だったからだ。「トニータルリ・アングィス」この呪文は数百年前に表の世界に現れた凶悪な魔獣を退治したと言われる大魔法使い、古賀仙座衛門が唱えた雷蛇を召喚する呪文であったからだ。現世においてその魔法を使える者はいないとされ、今ではこの呪文はおとぎ話の中でしか出てこない。その呪文を未来は唱えたのだった。が、当然使えるはずもなかった。手の平から「ぽすっ」と空気が発射されただけであった。しかし、それだけでもかなりのものだ。普通なら何も起きることはないのだから。
とにかく、咲花は未来がどれほど自分に対して怒っているのかは理解できた。
「今すぐ消えなさい。」
大それた魔法を唱えて、不発に終わる行為はかなり恥ずかしい思いをするものなのだが、それ以上に怒りが大きいようで、何とも感じていないらしい。
咲花はその場をそそくさと立ち去った。




