後編『彩の彩り(さいのいろどり)』
クレイジーサイコレズ
とても素敵な言葉だと思うんだ。
あれから五年の月日が流れたーー。
当時はそれなりに騒がれた事件も、
数年経てば皆、頭の中に留まる事はなく
まるで何事もなかったかのように
またあの子のいない1日が始まる。
私は社会人となり、アパレル関係の職に就いた。
そういえばあの子と
私の服の好みは驚くほど同じだった。
当時もあの子に新しい服を見せて来て着させて
一緒に遊びたくてバイトをしてたんだっけな…
……結果、あんな末路を辿ってしまったが…。
社会人になると同時に、実家を離れ
夢の一人暮らしを始めた。
本来は《二人で楽しく暮らす》のが夢だった。
今日も彼女は『ある場所』に向かう。
5年間、1日足りとも欠かさずに。
綺麗な花束を一つ買って
警察署の目前にあるビル……
を通り過ぎる。
向かうは愛しい人の眠る、市大病院ーー。
沢山の管に繋がれた彼女は
長年陽の光を浴びていないせいか、
元より白い肌がさらに白くなり、
命の儚さを物語っていた。
そう、彼女ーー虹村 彩花の
親友ーー彩 千紗夜は
5年前、自殺を図った。
世間は彼女の自殺を面白おかしく取り上げた。
『彼女は親友に依存していた。』
『親友と連絡が取れないだけで騒いだ。』
『親友と連絡が取れないだけで自殺を図った。』
確かに全て事実であり、嘘であった。
『依存していたのは彼女だけではない。』
『実際に親友の危険を察知していた。』
『親友を見つけ助けるためだけに、
自分の命を捨てた。』
他人のために命をかける。
そんなのただの綺麗事だった。
実際にそんな綺麗事を
何の迷いもなく出来る人間はそうそういない。
ただ彼女だけは本気で命をかけた。
彼女にとって彩花は『他人』ではなく
『唯一無二の親友』だったから。
千紗夜にとって彩花のために命をかけるのは
悩むまでもない当然のことだったのだ。
他者から見れば、血のつながりのない
親友だって『他人』だというのに…
彼女は親友に依存していたが、
それは真っ直ぐで純粋なドロドロとした黒いもの
その純粋さは誰も真似出来ない。
その純粋さに魅せられたのが彼女の親友だった。
その純粋なまでの愚直な感情が
自分1人に向けられて
正気出いられるはずもなく彼女自身、
自分の歪んだ想いを自覚していた。
元より愛されたがりな彼女にとって、
同じ愛されたがりのこの子は
飢えた獣の目の前に出された小動物のよう
自分が愛せば愛してくれる。
自分が愛されれば愛せる存在だった。
狂おしくも歪んだ愛情を一心に注ぎ注がれた。
自分達は酷く愛に餓えていたのだ。
ギブ・アンド・テイクの成り立つ関係。
彼女は自分を誰よりも何よりも愛した。
だからこそ自分も彼女を信頼し心を託し
深く愛することができたのだ。
できたのに……彼女に裏切られたのだ。
彼女が目を閉ざしてから、
自分の心には彼女に与えるはずだった
愛で埋まり鉛のように重苦しい。
5年もの長い時間を眠り続ける彼女ーー
医師の話しでは、
目覚めることを拒絶しているらしい。
彼女のことだ、
目覚めた後の家族が面倒なのだろう。
彼女を傷つけ続けそれでも彼女の望む愛を
唯一与えられる憎たらしい存在。
『ねぇ、なんで』
悲しげな表情はドラマの名シーンのようで
「なんで、私を置いていっちゃったの?」
「なんで、目を覚ましてくれないの?」と
続くのだろうと誰もが思うであろう。
……だが彼女はそんなこと言わない。
『なんで、私から逃げたの?』
その言葉は命の恩人に向けるべきものではない
と普通の考えを持つものならそう思うだろう。
だが、彼女は親友が同様、
《普通の考えを持たない特殊な人間》だった。
彼女は自分が《サイコパス》
というものだと理解していた。
理解していたからこそ、親友にはその事実を伏せ
自分から離れられないように依存させたのだ。
何故なら、彼女だけが自分が
人間であると自覚出来る唯一だったから。
彼女だけは愛せる。
逆に言えば彼女以外愛せないのだ。
大好きだった祖父が亡くなった時も
涙が流れなかった。そういう人間なんだ。
こんな化け物を愛してくれる人はいない。
そう思って諦めていた矢先、
見つけてしまったのだ。
自分と同じように何かを諦めた目で、
世界に絶望し、それでも尚、愛を求める存在に
こんな化け物でも受け入れてくれる
寛大で暖かな存在を…彼女は見つけてしまった。
それからはそれを
手に入れるために好かれるように努力した。
元より演じる事は誰よりも得意だった。
初めて彼女の笑顔を見た時、胸が跳ねた。
もしかしたら自分はずっと前から
親友に《恋》をしていたのかもしれない…
『ねぇ、起きてよ…』
そう言えば彼女は起きてくれる気がして
毎日必ず声をかける。
ピクリと握っていた手の指が動いた気がした。
やはり家族が邪魔だな…
彼女の目覚めに家族との再会はいらない。
と今日ここで確信した。
『千紗夜だけが《誰からも愛される私》
じゃなくて《本当の私》を愛してくれたね。
…結構、本性隠すのは上手い方なんだけど
何故か千紗夜にはバレちゃうんだよね、昔から。
私の残酷さに気づいたのも千紗夜くらいなんだよ〜?』
頬をつつくも何の反応も返ってこない。
『その残酷さごと愛するって何なの?
どれだけ愛情深いの?
私、千紗夜への愛で溺れそうなんですけど〜?』
勿論、返事はない。
『…やっぱり、千紗夜は私と同じくらい残酷だ。
どれだけ私が千紗夜を大事に大切に、それこそ
唯一無二と思っていること知ってるくせに、
なんで私を《独り》にするのさ、』
そこで初めて自分が泣いてることに気づいた。
『はやく目、覚ましてよぉ…も、
私、大人になったんだよ?
これからは千紗夜を苦しめる
全てから守ってあげれる。
ちゃんと二人で住む檻も用意してあるからね?
大丈夫。バレないように囲ってあげる。
千紗夜昔、私と二人で楽しく
幸せに暮らしたいって言ってたもんね!
千紗夜の願いは私が叶えるから…
貴女は私に『依存』してくれればいいの。
愛してくれれば何も要らないから、
そしたら絶対に離さないから(離れないでー)』
『……ねぇ、目を開けて?』
何十回、何百回
告げたかわからない言葉を今日も吐く。
白いベッドの上の彼女が
薄く目を開けて微笑んだーー。
END
最終章、これにて終了。
前編では1番頭ぶっ飛んでるサイコパスは
千紗夜でしたが、本当に1番危ないのは
親友の彩花でした。
彼女たちの愛は
《友愛》か《恋愛》かーー…
彼女たちでさえ、わからない。




