第8話 見えてしまう
第8話を読んでいただきありがとうございます。
ここから物語の流れが大きく変わります。
これまでの“当たり”が、ただの偶然ではないとしたら——
その答えに、少し近づく回です。
その日は、帰るつもりだった。
もう十分だと思っていた。
如月レイナと再会して、少し話して。
それだけで、今日という日は出来すぎている。
「……帰るか」
黒沢恒一は、スタンドの階段を降りかける。
だが——
足が止まった。
次のレースの出走馬が、モニターに映る。
馬の名前。
騎手。
オッズ。
ただの情報。
いつもなら、何も感じない。
それなのに。
「……あ?」
頭の奥が、わずかに疼く。
違和感。
あのときと同じ。
コンビニで、あの数字が浮かんだときと——
似ている。
「……なんだこれ」
視界が、少しだけ歪む。
モニターの文字が、揺れる。
次の瞬間。
“それ”は来た。
⸻
——7番。
——頭。
——2着、11。
——3着、4。
⸻
「っ……!」
思わず、手すりを掴む。
はっきりと見えた。
数字。
順番。
意味。
「……嘘だろ」
息が荒くなる。
さっきまでなかった情報が、頭の中にある。
しかも、妙に“確信”がある。
間違っていない、という感覚。
(……またかよ)
6億のときと同じ。
理由はない。
でも、わかる。
「……7、11、4」
小さく呟く。
心臓が早い。
これは何だ。
ただの勘か。
それとも——
「……試すか」
気づけば、足が動いていた。
⸻
馬券売り場。
人が並ぶ。
ざわめき。
紙幣を握る手。
その中に、自分がいる。
6億持ってる人間が、数千円の馬券を買おうとしている。
「……バカみてぇだな」
苦笑する。
だが、やめる気はなかった。
確認したかった。
これは本物か。
それとも、ただの偶然か。
「……7の単勝と、7-11、7-4、三連単……」
自然に口が動く。
自分でも驚くほど、迷いがなかった。
⸻
レースが始まる。
ゲートが開く。
馬が一斉に飛び出す。
歓声。
地鳴りのような音。
恒一は、動けなかった。
ただ、見ている。
心臓の音だけがうるさい。
(……来るのか)
直線。
先頭争い。
「7……!」
思わず声が出る。
7番の馬が、抜け出す。
そのまま——
ゴール。
「……」
息を止める。
後続。
2着。
「11……」
3着。
「……4」
完全一致。
⸻
静寂。
世界の音が、消える。
「……当たった」
口からこぼれる。
震える。
手が、足が、止まらない。
「……なんだよ、これ」
理解が追いつかない。
偶然じゃない。
これは——
「……見えてる」
そうとしか思えなかった。
⸻
「……黒沢」
不意に、声。
振り向く。
そこには、レイナがいた。
「……すごい顔してるけど」
「……ああ」
うまく言葉が出ない。
レイナが近づいてくる。
「当たったの?」
「……ああ」
「やっぱり」
少しだけ笑う。
「言ってたもんね。“来る”って」
「……」
返せない。
これは、そんなレベルじゃない。
“来る”とかじゃない。
——知っていた。
⸻
「……なあ」
気づけば、口に出していた。
「お前といるとさ」
「うん?」
「……見える気がする」
レイナが、少しだけ真顔になる。
「何が?」
「……結果」
沈黙。
風が吹く。
遠くで歓声が残る。
「……それ、本気で言ってる?」
「ああ」
即答だった。
冗談じゃない。
これは、現実だ。
⸻
レイナが、ゆっくりと息を吐く。
「……じゃあさ」
「ん?」
「次も、当ててよ」
その目は、さっきまでと違っていた。
興味。
好奇心。
そして、少しの期待。
「……」
恒一は、空を見上げる。
さっきの感覚は、もう消えている。
あの“見える感じ”。
今はない。
「……わかんねぇ」
正直に答える。
「でも」
少しだけ、言葉を続ける。
「また来る気はする」
⸻
6億円の当選。
競馬の的中。
そして、レイナとの出会い。
バラバラだったものが、繋がり始める。
偶然じゃない。
もう、そう思うしかなかった。
「……これ、なんなんだよ」
答えはない。
だが——
確実に言えることが一つある。
黒沢恒一は、
“見えてしまった”。
第8話を読んでいただきありがとうございました。
ついに“見えてしまう”力がはっきりしました。
6億円の当選、競馬の的中——
すべてが繋がり始めています。
ただし、これはただの幸運ではありません。
力には必ず、何かしらの意味や代償があるはずです。
次回は、その“違和感”がさらに強くなります。
少しずつ、この力の正体に近づいていきます。
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