第48話 灯火
ここまで読んでいただきありがとうございます。
第48話では、これまで積み上げてきたものが
少し違う形で現れ始めます。
活動が軌道に乗り始めた中で、
レイナの中にも新しい変化が生まれます。
それは技術や環境ではなく、
もっと内側にあるものです。
気づいてしまった感情。
それが、音として形になっていきます。
配信を始めてから、少しずつ変化が出てきていた。
数字は派手ではない。
けれど、確実に伸びている。
コメントも増えた。
名前は知られていない。
それでも、“この人の歌をまた聴きたい”という声が、少しずつ増えていく。
「……増えてるね」
レイナが画面を見ながら言う。
「だな」
恒一も短く返す。
派手な喜びはない。
でも、確かな手応えはあった。
灯が、少しずつ広がっている。
そんな感覚だった。
⸻
曲作りも続いていた。
以前よりも、ペースが上がっている。
何かが変わってきていた。
ある日。
レイナはノートを開いたまま、ペンを止めていた。
「……」
言葉が、自然と出てくる。
考えているというより、浮かんでくる。
でも。
書きながら、少しだけ違和感を覚える。
「……あれ」
手が止まる。
書いた歌詞を見る。
そこにある言葉。
優しさ。
安心。
隣にいる存在。
「……これ」
自分で書いたのに、少し戸惑う。
今までの曲とは違う。
明らかに。
少しだけ、胸がざわつく。
その夜。
一人でベッドに座りながら、もう一度歌詞を見返す。
「……なんでこれ書いたんだろ」
小さくつぶやく。
思い出す。
沖縄の夜。
静かな海。
あのときの言葉。
“知ってる”
短い一言。
それだけなのに、すごく楽になった。
倒れたときもそうだ。
気づいたら、そこにいた。
当たり前みたいに。
ずっと。
「……あ」
その瞬間。
すっと、何かが繋がる。
理解してしまう。
「……そっか」
小さく笑う。
でも、その顔は少しだけ困っていた。
「……これ、ダメじゃん」
気づいてしまった。
自分の気持ちに。
⸻
翌日。
恒一と顔を合わせる。
「おはよ」
「おう」
いつも通りのやり取り。
なのに。
少しだけ、違う。
目が合う。
すぐに逸らす。
ほんの一瞬のズレ。
「……どうした?」
恒一が聞く。
「え?」
「なんか変じゃね?」
「そんなことないよ」
すぐに返す。
でも、少しだけ早かった。
「そうか?」
「うん」
それ以上、会話は続かない。
妙な沈黙。
レイナは、自分でもわかっていた。
さっきまで普通だった距離が、少しだけ変わっている。
自分の中だけで。
でも、それがどうしても気になる。
⸻
その日の夜。
新曲のデモができた。
「これ、どう?」
レイナが言う。
ギターを構える。
「聴く」
恒一が短く答える。
弾き始める。
ゆっくりとしたメロディ。
静かに、でもまっすぐに流れる音。
そして、歌う。
“隣にいるだけで、少し強くなれる”
“何も言わなくても、わかってくれる”
“そんな人がいることを、初めて知った”
言葉は曖昧。
でも。
確実に、誰かを想っている。
恒一は黙って聴いていた。
最後まで。
音が消える。
部屋が静かになる。
「……どう?」
レイナが聞く。
少しだけ不安そうに。
恒一は、少しだけ間を置く。
そして。
「……いいな」
短く言う。
「今までで一番いいかも」
レイナの表情が、少しだけ緩む。
「ほんと?」
「ほんと」
それだけで、少しだけ救われる。
でも。
それだけじゃ終わらなかった。
恒一が続ける。
「……これさ」
レイナが顔を上げる。
「お前のだろ」
一瞬、時間が止まる。
「……え?」
「いや、なんつーか」
「作ってるやつの感じ、出てる」
曖昧な言い方。
でも、核心に触れている。
レイナは言葉を失う。
バレたわけじゃない。
でも、見透かされた気がした。
「……違うよ」
小さく言う。
少しだけ視線を逸らして。
「そうか?」
「うん」
それ以上は言わない。
言えない。
でも。
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
隠したはずの気持ちが、ちゃんと形になっていた。
音として。
言葉として。
そして、それが届いてしまっている。
そのとき。
恒一の視界に、ふっと浮かぶ。
「……18」
小さくつぶやく。
「灯火」
今までよりも、はっきりとした言葉。
そして。
少しだけ、強くなっている。
「……広がってんな」
ぼそっと言う。
レイナはその言葉の意味を知らない。
でも。
何かが変わり始めているのは、感じていた。
音と一緒に。
気持ちも。
少しずつ。
確実に。
第48話を読んでいただきありがとうございました。
今回のテーマは「灯火と気づき」です。
小さく始まった活動の中で、
確実に広がっていく“灯”。
そしてその灯は、音楽だけでなく、
レイナの心の中にも生まれていました。
恋愛の感情は、隠そうとしても滲み出てしまうものです。
今回の曲は、その最初の形とも言えます。
はっきりと言葉にはしていないのに、
どこか伝わってしまう。
それが、音楽であり、人の気持ちなのかもしれません。
そして恒一もまた、無意識のうちに
その変化に気づき始めています。




