第32話 その一夜で変わるもの
ここまで読んでいただきありがとうございます。
第32話では、ついに一つの結果が形になります。
「ノイズの向こう側」
神代レンが作り上げたこの楽曲と、
レイナの今の感情が重なり、
初めて“届く音”として世に出ました。
そして、BLUE EDGE feat. レイナ。
この組み合わせによって、
一気に注目が集まることになります。
ただの復帰ではなく、
“新しいスタート”としての一歩。
その瞬間を描いた回です。
リリース日。
朝から空気が違った。
事務所の中も、どこか落ち着かない。
スマホの通知が鳴り続ける。
「……きたね」
佐倉が画面を見ながら言う。
「配信、もう始まってる」
レイナはソファに座ったまま、スマホを握る。
自分の名前。
そこに並ぶ文字。
“BLUE EDGE feat. レイナ”
そして、その下に表示された曲名。
「……ノイズの向こう側」
小さく口に出す。
神代レンらしいタイトルだった。
まだ実感がない。
「……これ、ほんとに出たんだよね」
「出てるよ」
恒一が隣で言う。
「現実だ」
レイナは小さく息を吐く。
「……やばい」
その一言に、全部が詰まっていた。
そのとき。
佐倉のスマホが鳴る。
「……え?」
一瞬、表情が変わる。
「どうした?」
恒一が聞く。
「今日の音楽番組……」
「急遽、出演決まった」
空気が止まる。
「……は?」
「向こうも話題性で動いてるみたい」
「BLUE EDGEと一緒に……レイナも」
レイナの手が止まる。
「……今日?」
「今日」
短い会話。
でも、重い。
レイナがゆっくり立ち上がる。
「……やるしかないよね」
⸻
スタジオ控室。
ざわつく空気。
メイクが進む中でも、落ち着かない。
「……久しぶりだな、こういうの」
デビュー当時とは違う。
今は、期待が乗っている。
ドアが開く。
恒一が入ってくる。
「大丈夫か」
「全然大丈夫じゃない」
正直に言う。
恒一が笑う。
「だろうな」
「なにそれ」
少し笑う。
そのやり取りだけで、少し呼吸が戻る。
「でもさ」
「ここまで来たら、やるしかないだろ」
「……うん」
「どうせ緊張するなら」
「全部出してこい」
レイナは目を閉じる。
「……雑だな」
「いつも通りだろ」
「まあね」
少しだけ笑う。
⸻
「本番、5分前です!」
空気が一変する。
レイナは立ち上がる。
深く息を吸う。
ステージへ。
ライト。
観客。
カメラ。
すべてが押し寄せる。
音が始まる。
BLUE EDGEの演奏。
体に響く。
その中に、自分の声を乗せる。
歌い出す。
最初の一音。
震えは、ない。
言葉が流れる。
「ノイズの向こう側で
君の声が鳴る」
サビに入る。
感情を乗せる。
「揺れてもいい 外れてもいい
そこに意味がある」
会場の空気が変わる。
ちゃんと届いている。
わかる。
「消えない傷も全部
連れていけばいい」
歌いながら思う。
あの日の自分。
何もできなかった自分。
迷っていた自分。
全部、ここに乗せる。
「間違いだって 叫びだって
ちゃんと響いてる」
サビを抜ける。
もう迷いはない。
最後まで。
歌い切る。
静寂。
そして——
歓声。
大きい。
予想以上に。
拍手が続く。
レイナは小さく息を吐く。
やりきった。
⸻
控室。
ドアが閉まる。
「……はぁ……」
力が抜ける。
「おつかれ」
恒一が言う。
「……やばかった」
「顔見ればわかる」
「ちゃんと歌えてた?」
「問題ねぇよ」
その一言で、十分だった。
そのとき。
佐倉が勢いよく入ってくる。
「……すごい」
「え?」
「もう来てる」
スマホを見せる。
SNSの反応。
止まらない。
「トレンド入ってる」
「再生も一気に伸びてる」
「……これ、1位いくかも」
恒一が言う。
「いくな、これ」
レイナは画面を見つめたまま動けない。
現実が追いつかない。
でも、わかる。
何かが起きている。
大きな何かが。
「……すごいことになってる」
ぽつりとこぼす。
佐倉が笑う。
「なってるよ」
「一気に来てる」
恒一はレイナを見る。
「……よかったな」
レイナは少しだけ笑う。
「……うん」
スマホを握る。
そこには、広がっていく名前。
レイナ。
この夜で——
一気に、世界に知られていく。
第32話を読んでいただきありがとうございました。
今回のテーマは「爆発と実感」です。
音楽番組でのパフォーマンス。
そして、SNSや再生数の反応。
すべてが一気に動き出します。
レイナにとっては、
初めて“結果として見える成功”だったかもしれません。
ただし——
ここで終わりではありません。
むしろここからが本当のスタートです。
注目されるということは、
同時に試され続けるということでもあります。
そしてもう一つ。
この成功の裏で、
まだ気づいていない“歪み”も動き始めています。




