第24話 条件
第24話を読んでいただきありがとうございます。
今回は、これまで感じていた違和感に対して、
実際に“試す”という選択を取る回になります。
まだ答えは出ていませんが、
確実に何かが見え始めています。
その瞬間を感じていただけたら嬉しいです。
事務所の空気は、どこか重かった。
事故のあと。
表面上は動いている。
だが、どこか噛み合っていない。
「……黒沢」
佐倉が声をかける。
「最近のトラブル、多くない?」
「……ああ」
短く答える。
レイナも小さく頷く。
「なんかさ、流れ変じゃない?」
その言葉に、恒一は少しだけ目を伏せる。
同じことを思っている。
だが。
まだ言えない。
「……なあ」
恒一が口を開く。
「一回、試したいことがある」
「試す?」
佐倉が眉をひそめる。
「何を?」
「……運だ」
その一言で、空気が止まる。
「は?」
「どういう意味?」
当然の反応だった。
説明できる話じゃない。
「……いいから、ちょっと付き合ってくれ」
「見ればわかる」
佐倉は納得していない顔をする。
「いや、意味わかんないんだけど」
「宗教?」
「違う」
即答する。
レイナが少しだけ笑う。
「まあ、行ってみよ」
「黒沢がここまで言うの珍しいし」
その一言で、場が動く。
「……ほんとに大丈夫なの?」
佐倉はまだ半信半疑だ。
「危ないことじゃねぇ」
そう言いながら。
恒一自身は確信がなかった。
⸻
夜。
人通りの少ない場所。
三人で並ぶ。
「……で?」
佐倉が腕を組む。
「ここで何するの」
「見るだけだ」
恒一はスマホを取り出す。
「ちょっとした遊び」
「遊び?」
「競馬」
「……は?」
さらに怪訝な顔。
「それ、今やる意味ある?」
「ある」
短く言う。
視線を落とす。
その瞬間。
ドクン。
心臓が鳴る。
(……来た)
数字が浮かぶ。
はっきりと。
迷いはない。
「……どうしたの?」
レイナが覗き込む。
「見えてる」
「何が?」
「……当たり」
佐倉が笑う。
「いやいや、そんなわけ——」
「見てろ」
購入。
少額。
確認。
レース開始。
三人で画面を見る。
数十秒。
結果。
当たり。
「……え?」
佐倉の声が止まる。
「ちょっと待って」
「今の……」
レイナは少し嬉しそうに笑う。
「ね、すごいでしょ」
「……いや、すごいっていうか」
佐倉は完全に混乱している。
「たまたまでしょ?」
「……どうかな」
恒一は周りを見る。
空気。
音。
違和感。
(……ない)
何も起きない。
静かだ。
「……何もないね」
レイナが言う。
少しだけ安心した声。
だが。
恒一は言う。
「……もう一回やる」
「は?」
「条件変える」
「条件って何?」
「……俺が離れる」
その一言で、佐倉の顔が変わる。
「ちょっと待って」
「それ、意味わかんないんだけど」
「いいから」
「すぐ戻る」
レイナが不安そうに言う。
「……気をつけて」
「……ああ」
⸻
少し距離を取る。
一人になる。
空気が変わる。
(……来る)
視線を落とす。
ドクン。
数字が浮かぶ。
だが。
わずかに歪んでいる。
「……」
そのまま購入。
レース開始。
(……来る)
結果。
当たり。
その瞬間。
空気が揺れる。
音が遅れる。
「……っ」
嫌な感覚。
同時に。
スマホが震える。
着信。
佐倉。
「……もしもし」
『黒沢!?』
明らかに様子がおかしい。
「どうした!」
『今……危なかった!』
「何があった!」
『機材が落ちてきて……』
『マジでギリだったんだけど!』
言葉を失う。
さっきまで。
三人でいた。
何もなかった。
だが。
離れた瞬間。
起きた。
「……マジかよ」
心臓が早くなる。
背筋が冷える。
『ねえ、これ何!?』
『さっきからおかしくない!?』
佐倉の声が震えている。
当然だ。
理解できない。
だが。
恒一は、わかり始めていた。
(……レイナの周りで起きてる)
その考えが、はっきりと形になる。
レイナの近くにいるとき。
何も起きない。
離れたとき。
周囲に歪みが出る。
「……条件」
小さくつぶやく。
これは偶然じゃない。
ほぼ、確信に近い。
この力は。
ただの幸運じゃない。
何かを、どこかに押し付けている。
そして——
その中心にいるのは。
レイナだ。
第24話を読んでいただきありがとうございました。
今回の出来事で、これまで曖昧だったものに、
ひとつの“形”が見え始めました。
ただの偶然では説明できない何か。
そして、この力に潜む違和感の正体。
まだ断定はできませんが、
確実に核心へと近づいています。
そして——
気づいてしまったことで、
もう元には戻れないかもしれません。
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