第2話 6億円
第2話を読んでいただきありがとうございます。
ここから物語が一気に動きます。
主人公・黒沢恒一の人生を大きく変える出来事が起こります。
ぜひ最後までお楽しみください。
朝は、いつも通りだった。
六畳の天井。
どこか湿ったような空気。
目覚まし代わりの古いスマホの振動。
「……はぁ」
黒沢恒一は、重い体を起こした。
昨日のことは、夢みたいにぼんやりしていた。
コンビニ、頭痛、浮かんだ数字。
机の上に目をやる。
——あった。
折りたたまれた一枚の紙。
宝くじの券。
「……買ったんだよな」
苦笑する。
当たるわけがない。
そんなこと、四十八年生きていれば嫌というほどわかっている。
それでも、なぜか胸の奥がざわついていた。
恒一はスマホを手に取り、当選番号の確認ページを開く。
数字の羅列が画面に表示される。
普段なら、ここで適当に流し見て終わりだ。
どうせ一つも当たっていない。
だが今日は違った。
なぜか、一つずつ確認しようと思った。
「……3」
最初の数字。
合っていた。
「は?」
思わず声が出る。
いや、偶然だ。
一つくらいなら普通にある。
「……8」
二つ目。
合っている。
「おい……」
喉が乾く。
嫌な汗が背中ににじむ。
指先が、わずかに震えていた。
「……14」
三つ目。
合致。
心臓が、ドクンと大きく跳ねた。
「……まさか」
画面とくじ券を交互に見比べる。
視界が少し狭くなる。
息が浅い。
「27……」
四つ目。
一致。
呼吸が乱れる。
頭の中が真っ白になり始める。
「31……」
五つ目。
一致。
「……やめろよ」
笑いがこみ上げる。
ありえない。
こんなこと、あるわけがない。
最後の数字。
恒一は一瞬、目を閉じた。
開く。
「……42」
画面の数字。
くじ券の数字。
完全に、一致していた。
沈黙。
音が消える。
時間が止まったみたいだった。
「……え?」
自分の声が、遠くから聞こえる。
何度も見直す。
もう一度。
もう一度。
もう一度。
全部、同じだった。
六つの数字。
一つも違わない。
完全一致。
「……はは」
笑いが漏れる。
「ははは……」
だんだん大きくなる。
「ははははははははっ!!」
気づけば、部屋の中で一人、大声で笑っていた。
涙が出ていた。
嬉しいのか、怖いのか、自分でもわからない。
「当たっ……」
言葉が詰まる。
「……当たってる」
その瞬間、膝の力が抜けた。
畳に崩れ落ちる。
手に持っていたスマホが床に落ち、鈍い音を立てた。
それでも構わず、恒一はくじ券を握りしめる。
「6億……?」
画面には、はっきりと表示されていた。
1等 600,000,000円
現実感がない。
夢を見ているみたいだった。
いや、夢ならもっと都合よく、もっとわかりやすく嬉しいはずだ。
こんなに怖くはない。
心臓がうるさい。
呼吸がうまくできない。
頭の奥で、昨日の光景がフラッシュバックする。
——あの数字。
勝手に浮かんできた、あの6つの数字。
「……なんなんだよ」
震える声でつぶやく。
ただの偶然じゃない。
そんな気がしてしまう。
だが考えても答えは出ない。
わかるのは一つだけ。
現実として、6億円が当たったということ。
その事実だけが、圧倒的な重さでのしかかってくる。
ドアの向こうから、母親の声がした。
「恒一ー? どうしたの? なんか音したけど」
「……っ」
思わず息を止める。
言えるわけがない。
こんなこと。
知られたらどうなる。
親戚。
近所。
金。
頭の中に、嫌な想像が次々と浮かぶ。
「な、なんでもない! ちょっとスマホ落としただけ!」
慌てて声を返す。
「そう? 気をつけなさいよー」
「う、うん……」
足音が遠ざかる。
その瞬間、恒一は大きく息を吐いた。
「……誰にも言えねぇ」
ぽつりとつぶやく。
6億円。
人生がひっくり返る金額。
それなのに、素直に喜べない。
むしろ、怖い。
この金は、本当に自分のものなのか。
持っていていいのか。
そして——
この先、自分はどうなるのか。
畳の上で、恒一はくじ券を見つめ続けた。
その紙切れ一枚が、
これまでの人生を否定し、
これからの人生をすべて変えてしまう力を持っている。
「……どうすりゃいいんだよ、これ」
誰にも聞こえない声が、静かな部屋に落ちた。
外では、いつも通りの朝が始まっている。
近所の車の音。
遠くで鳴くカラス。
世界は何も変わっていない。
変わってしまったのは——
黒沢恒一、ただ一人だった。
第2話を読んでいただきありがとうございました。
ついに6億円当選。
ですが、ここからが本当の始まりです。
次回は「受け取りと現実」。
お金を手にしたことで、少しずつ日常が変わり始めます。
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引き続きよろしくお願いします。




