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48歳、6億当たったら人生が壊れた件 〜底辺おじさんと国民的アイドルの秘密の恋〜  作者: れいじ


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第3話 6億円の重さ

第3話を読んでいただきありがとうございます。


当選という非日常から一転、

今回は「現実」と向き合う回になります。


お金を手にしたとき、人は何を思うのか。

そんな部分も感じていただけたら嬉しいです。

その日は、仕事を休んだ。


 というより、行けるはずがなかった。


 6億円当選。


 そんな状態で、いつも通り倉庫で荷物を運べるほど、黒沢恒一は強くなかった。


 朝から何度もスマホで当選番号を確認し、くじ券を見て、またスマホを見る。


 夢じゃない。


 何度確認しても、現実だった。


「……行くか」


 小さくつぶやく。


 行き先は一つ。


 銀行だ。


 ネットで調べた結果、1等当選の受け取りは限られた銀行でしかできないらしい。


 「高額当選 受け取り方法」

 そんな検索履歴が、自分のものとは思えなかった。


 財布にくじ券を入れ、上着を羽織る。


 外に出ると、やけに視線が気になった。


 誰も自分のことなんて見ていないはずなのに。


「……バカだな」


 自分に言い聞かせるように呟く。


 だが、足取りは自然と早くなっていた。


⸻


 大きな銀行の前に立ったとき、恒一は一瞬足を止めた。


 ガラス張りの外観。

 出入りするスーツ姿の人間たち。


 明らかに、自分のいる場所じゃない。


「帰るか……」


 弱気な声が漏れる。


 だが、ポケットの中の紙切れが、それを許さなかった。


 恒一は意を決して、自動ドアをくぐる。


 中は静かで、空気が違った。


 床は光り、カウンターは整然と並び、すべてが“きちんとしている”。


 自分だけが場違いだった。


 受付の女性がこちらを見る。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


「えっと……その……」


 喉が詰まる。


 こんなこと、どう言えばいいのかわからない。


「た、宝くじの……その……当選の……」


 一瞬、女性の表情が変わった。


 すぐに営業用の笑顔に戻る。


「かしこまりました。こちらへどうぞ」


 案内されたのは、奥の個室だった。


 ドアが閉まる。


 外の音が遮断される。


 逃げ場がなくなった気がした。


 スーツ姿の男性が入ってくる。


「本日はご来店ありがとうございます」


 丁寧な一礼。


 年齢は三十代後半くらいか。

 落ち着いた雰囲気の、いかにも“銀行員”という男だった。


「こちら、当選券を確認させていただいてもよろしいでしょうか」


「……はい」


 震える手で、くじ券を差し出す。


 男はそれを受け取り、慎重に確認を始めた。


 その数秒が、やけに長く感じる。


 心臓の音がうるさい。


 逃げ出したくなる。


「……確認いたしました」


 男が顔を上げる。


「こちら、間違いなく——1等当選でございます」


 その言葉で、改めて現実が突き刺さる。


「……そう、ですか」


 それしか言えなかった。


 男は続ける。


「まずはおめでとうございます。非常に高額な当選となりますので、いくつかご説明させていただきます」


 “ご説明”。


 その言葉に、なぜか嫌な予感がした。


⸻


 説明は長かった。


 口座の開設。

 振り込みの手続き。

 税金の話。

 今後の資産管理。


 そして——


「こちら、高額当選者様向けの冊子になります」


 差し出された一冊の冊子。


 表紙には大きくこう書かれていた。


『突然の高額当選、その後の人生のために』


「……はぁ」


 思わず間の抜けた声が出る。


 男は淡々と続けた。


「高額当選後は、周囲との関係が変化するケースが多くございます。ご家族、ご友人への対応、また詐欺などにも十分ご注意ください」


「……」


「特に、当選の事実は安易に他者へお話しにならないことを強くおすすめいたします」


 静かな声。


 だが、その内容は重かった。


 6億円。


 それはただの“お金”じゃない。


 人間関係すら壊す力を持っている。


 そんな現実を、突きつけられた気がした。


「……わかりました」


 小さく答える。


 気づけば、さっきまでの高揚感は消えていた。


 代わりにあるのは、不安だった。


⸻


 手続きが終わり、銀行を出る。


 空は変わらず青かった。


 車は走り、人は歩いている。


 世界は何も変わっていない。


 それなのに——


「……重いな」


 ぽつりとつぶやく。


 ポケットに入っているのは、もうただの紙じゃない。


 6億円という現実。


 そして、それに付いてくる“何か”。


 胸の奥に、言いようのない重さが広がっていた。


 スマホが震える。


 派遣会社からの着信。


 しばらく画面を見つめて、恒一はそれを切った。


「……もう、いいか」


 仕事。


 日常。


 これまでの人生。


 全部が遠く感じる。


 だが同時に、何をすればいいのかもわからない。


 6億円。


 人生を変えるには、十分すぎる金額。


 なのに——


「どう使えばいいんだよ……」


 答えは出なかった。


 歩きながら、ふとガラスに映る自分の姿を見る。


 ヨレた服。

 冴えない顔。

 どこにでもいる中年男。


 6億円当たっても、中身は何も変わっていない。


 むしろ、余計に“空っぽ”になった気さえした。


「……笑えねぇな」


 苦笑する。


 そのとき、不意に昨日のことが頭をよぎる。


 あの数字。


 なぜ浮かんだのか。


 考えても答えは出ない。


 だが一つだけ、確かなことがある。


 あれは偶然じゃない。


 そんな気がしていた。


「……これ、何かあるよな」


 独り言が、風に流れる。


 そのときはまだ知らなかった。


 この6億円が——

 ただの“当たり”ではなく、

 これからの人生すべてを巻き込む“始まり”だということを。


第3話を読んでいただきありがとうございました。


6億円という現実。

喜びよりも“重さ”が見え始めてきました。


ここから主人公の選択によって、

少しずつ世界が変わっていきます。


次回はいよいよ、

日常から外れた行動を取り始めます。


そして——物語の鍵となる存在へ。


よろしければブックマークや評価、感想をいただけると励みになります。

引き続きよろしくお願いします。


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