第15話 誰のために
第15話を読んでいただきありがとうございます。
今回は、これまでの違和感を受けて、
恒一が“どう使うか”を決める回になります。
一つの選択が、これからの流れを大きく変えていきます。
その瞬間を楽しんでいただけたら嬉しいです。
翌週。
黒沢恒一は、競馬場に立っていた。
人のざわめきと、独特の熱気。
だが、その空気とは裏腹に、頭の中は妙に静かだった。
(……試す)
あの違和感。
あの流れ。
もし、ただの偶然じゃないなら。
もう一度、確かめる必要がある。
そして今回は、少しだけ違う。
自分のためじゃない。
そう決めていた。
ふと、気配を感じる。
振り向くと、レイナが立っていた。
「おはよ」
「おう」
短い言葉。
だが、その距離は先週よりも近い気がした。
レイナが一歩、近づく。
その瞬間。
ドクン。
心臓が大きく鳴る。
頭の奥が、じわりと熱を持つ。
(……来た)
前回と同じ感覚。
いや、それ以上に鮮明だった。
視線を落とす。
レース表。
その瞬間、自然と浮かぶ。
5。
11。
3。
「……」
息が止まる。
順番まで、はっきりと見える。
(……見えた)
疑いようがない。
だが、同時に不思議な感覚もあった。
焦りがない。
前みたいな妙な重さもない。
ただ、静かにそこにある。
恒一はゆっくりとレイナを見る。
「……なあ」
「ん?」
「ちょっと付き合え」
「もう来てるけど?」
「そうじゃねぇ」
少しだけ間を置く。
「……使う」
「え?」
「この力」
レイナが首をかしげる。
「なにそれ」
「いいから見てろ」
それだけ言って、歩き出す。
馬券売り場。
財布を開く。
用意してきた現金。
迷いはなかった。
「3連単、一点」
「5—11—3」
紙を受け取る。
ただそれだけの行動。
なのに、やけに現実感があった。
席に戻る。
「どうだった?」
「まあな」
曖昧に答える。
レースが始まる。
ゲートが開く。
歓声が一気に上がる。
馬が走る。
恒一は、動かない。
ただ見ている。
(……来る)
直線。
先頭。
「……5……!」
抜け出す。
そのまま押し切る。
2着。
「……11」
3着。
「……3」
完全一致。
「……またかよ」
思わず笑いが漏れる。
「え、ちょっと待って」
レイナが横で目を見開く。
「また当てたの?」
「……ああ」
「一点?」
「一点」
レイナが言葉を失う。
「……やば」
小さく笑う。
「ほんとに何それ」
スマホの画面を見せる。
表示される配当。
金額。
十分すぎる数字。
だが。
恒一の意識は、そこにはなかった。
周りを見る。
人の流れ。
歓声。
ざわめき。
何も変わらない。
何も起きない。
(……)
前回のような違和感が、ない。
ただ、それだけだった。
「……黒沢?」
「……ああ」
うまく言葉にならない。
だが、頭の中では何かが動いている。
完全には繋がらない。
それでも、確かに違う。
その事実だけが残る。
恒一はゆっくりとレイナを見る。
「……なあ」
「ん?」
「もう一回、やらねぇか」
「……え?」
「アイドル」
レイナの表情が止まる。
「……何言ってんの」
「本気だ」
視線を逸らさない。
「お前、まだ終わってねぇだろ」
レイナは一瞬、笑おうとする。
だが、うまくいかない。
「簡単に言うね」
「簡単じゃねぇよ」
「じゃあどうすんの」
その問いに、迷いはなかった。
「……事務所、作る」
「……は?」
「俺がやる」
沈黙。
完全に止まる空気。
「……ちょっと待って」
「意味わかんない」
「わかってる」
それでも続ける。
「でも、できる」
「どうやって」
ほんの少しだけ間を置く。
そして。
「……当てる」
「は?」
「俺が当てる」
「その金で、お前を戻す」
レイナが黙る。
信じられない、という顔。
当然だ。
普通なら、ありえない話だ。
それでも。
「……今日、見ただろ」
それだけで、十分だった。
さっきの光景。
あの結果。
否定できる材料がない。
レイナは視線を落とす。
グラスもないのに、手元を見るように。
考えている。
迷っている。
信じるか、やめるか。
「……ほんとに」
小さな声。
「……できるの?」
「やる」
即答だった。
「……お前のためなら」
その言葉で。
空気が変わる。
レイナが、ゆっくりと顔を上げる。
その目は、少しだけ揺れていた。
「……バカだね」
小さく笑う。
でも。
「……でも」
その続きを、飲み込む。
完全には言えない。
だが。
ほんの少しだけ。
前を向いていた。
恒一は、それで十分だった。
この力をどう使うか。
答えは、もう決まっている。
自分のためじゃない。
ただ。
目の前のこいつを、もう一度立たせるために。
その先で何が起きるのか。
そのときの恒一は、まだ知らない。
第15話を読んでいただきありがとうございました。
もう一度当てた奇跡。
そして、恒一の決断。
この力を何のために使うのか。
その答えが、少しずつ形になってきました。
まだすべてが繋がっているわけではありません。
それでも、確実に前へ進み始めています。
ここからは、レイナの“復活”に向けた物語が動き出します。
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