第12話 崩れていたもの
第12話を読んでいただきありがとうございます。
今回は、レイナ視点で描かれる回になります。
気づかないうちに少しずつ崩れていく日常——
その違和感を感じていただけたら嬉しいです。
如月レイナは、空を見上げていた。
ビルの隙間から見える、狭い空。
「……こんなもんか」
小さくつぶやく。
昔は、もっと広く見えていた気がする。
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すべてが変わったのは、突然だった。
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所属していた事務所。
順調だったはずの仕事。
増えていくファン。
広がっていく未来。
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それが——
一気に崩れた。
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大型プロジェクトの失敗。
重なった不祥事。
止まらない赤字。
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そして——倒産。
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「……は?」
最初に聞いたとき、現実感がなかった。
冗談だと思った。
だが、すぐに理解する。
これは現実だと。
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仕事は消えた。
契約も消えた。
守ってくれる場所も、消えた。
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そこからは、早かった。
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新しい事務所。
新しい環境。
新しい人間関係。
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だが——
「……なんか、違う」
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空気が、合わない。
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笑っているのに、笑われている気がする。
話しているのに、聞かれていない気がする。
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小さなズレ。
小さな違和感。
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それが、少しずつ積み重なっていく。
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「……お疲れ様です」
挨拶をする。
返ってくるのは、形だけの言葉。
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前の事務所とは違う。
あの頃は、もっと——
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「……まあ、仕方ないか」
自分に言い聞かせる。
環境が変われば、人も変わる。
それだけの話だ。
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そう思おうとした。
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だが——
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うまくいかない。
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仕事でミスが増える。
タイミングが合わない。
些細なことで空気が悪くなる。
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「……なんで?」
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原因がわからない。
自分のせいなのか。
周りのせいなのか。
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ただ一つ、確かなことは——
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すべてが、少しずつズレている。
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そして、そのズレは——
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止まらない。
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気づけば、仕事は減っていた。
呼ばれることも少なくなっていた。
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そして——
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「……少し、休んだ方がいいと思う」
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そう言われた。
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優しい言葉だった。
だが、それが意味することはわかっていた。
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“いらない”ということ。
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「……はい」
笑って答える。
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それが、最後だった。
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表には出ていない。
発表もされていない。
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だが、事実上の——
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活動休止。
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「……なんでこうなるんだろう」
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部屋の中で、一人つぶやく。
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思い返す。
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いつからだろう。
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全部が崩れ始めたのは。
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事務所の問題。
人間関係。
仕事。
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全部、別々のはずなのに。
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なぜか、繋がっている気がする。
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「……気のせい、か」
首を振る。
考えすぎだ。
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そう思おうとする。
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だが——
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どうしても、引っかかる。
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何かが、おかしい。
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理由はわからない。
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でも、確実に——
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“流れ”が悪い。
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「……はぁ」
ため息をつく。
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このまま、どうするのか。
何をすればいいのか。
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答えは出ない。
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だから——
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外に出た。
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理由はない。
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ただ、なんとなく。
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足が向いた先は——
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競馬場だった。
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「……なんでここなんだろ」
自分でもわからない。
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人のざわめき。
独特の空気。
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昔、誰かと来た気がする。
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ぼんやりとした記憶。
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だが、思い出せない。
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ただ——
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ここに来れば、何か変わる気がした。
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そんな気がした。
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そして——
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その日。
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レイナは、再び彼と出会う。
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黒沢恒一。
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それが、どんな意味を持つのか。
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まだ、知らない。
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ただ一つ、確かなこと。
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崩れていた流れは——
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まだ、終わっていない。
第12話を読んでいただきありがとうございました。
レイナの周りで起きていた変化。
それは突然ではなく、静かに積み重なっていたものでした。
一つひとつは小さなズレでも、
重なったときに、大きな流れになっていく。
そして、その流れはまだ止まっていません。
次回は、その“違和感”がよりはっきりと形になっていきます。
少しずつ、見えてくるものがあるかもしれません。
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引き続きよろしくお願いします。




