第5話『天才分析官・白峰あおいとの出会い』
試合を終えた俺は、汗まみれの身体をリングから降ろし、裏の通路へ向かった。
観客席からはまだ歓声が響いている。だがその中に、冷ややかに俺を見つめる視線がひとつあった。
「――面白いね、君」
通路の出口で、白いコートを羽織った女が待っていた。
年は二十代後半くらいか。切れ長の瞳は氷のように澄み、口元にはわずかな笑み。背筋はまっすぐ、立ち居振る舞いは無駄がない。
その胸元のバッジには、見慣れない文字――〈解析官〉の肩書きが刻まれていた。
「誰だ?」
「白峰あおい。ここ〈地下クラブ〉の戦略分析官よ。能力の解析と、戦闘パターンの記録管理をしている」
彼女はそう言いながら、端末を操作する。
俺の映像らしきものが空中に投影され、リング上の動きや相手の動作、さらには“記録改竄”を行った瞬間の脳波や視線の軌跡まで、すべてが表示されている。
「……俺の動き、見てたのか?」
「ええ。君の能力――“対象の公式記録を改竄する力”だろう?」
喉の奥がひりつく。
初めて、俺の力を正確に言い当てた人間だ。
「心配しないで。私は売らない。君の能力は……まだ評価中だから」
「評価?」
「裏の世界じゃ、能力は通貨と同じ。強ければ高値で取引される。だけど、君の力は希少すぎて、売値がつけられない」
あおいは一歩近づき、低く囁く。
「――だから、君と組みたい」
予想外の言葉に、思わず眉をひそめた。
「何で俺なんかと?」
「簡単よ。私には頭脳がある。君には力がある。足りないのは、“信頼”だけ」
彼女の目は冗談を言っている色ではなかった。
リングでの勝利を見て、ただの新人扱いでは済まされないと踏んだのだろう。
「どうする? このまま力を隠して逃げ回るか、それとも――私と一緒に、この世界の頂点を取りに行くか」
静かな問いかけ。
だが、俺の胸の奥では昨日の誓いが再び燃え上がっていた。
(――全部、ひっくり返す)
俺はあおいの差し出した手を取った。
「……乗った」
彼女の口元がわずかに上がる。
その瞬間、俺は知らなかった。この選択が、この先の戦いを何倍も苛烈なものにすることを。




