3 私も愛人を囲います!
◇
その後、ウェズリー様と、拘束された愛人さんは、駆けつけた衛兵によって、ひとまず応接室に運ばれた。
来賓用の上品な部屋ではなく、シンプルな仕事用の部屋だ。少しくらい汚れても問題ないだろうということらしい。
私たちは、衛兵に連れて行ってもらう前に、二人に話を訊く時間を貰った。
「それで? 一体どうしてこうなったんだ? ウェズリー」
私と義両親は冷たい目でウェズリー様を見ている。
緊迫した空気が部屋に満ちる。
ちなみに私は、自分の治癒魔法と、上級回復薬を一本、がぶ飲みしたのですでに元気だ。
魔力も体力も回復している。
ついでにボロボロの衣服も着替えているが、お風呂は時間がなかったので、清潔の魔法でとりあえず綺麗にしておいた。……まだ少し焦げ臭いかも? 気のせい?
義両親は軽い擦り傷くらいで済んだらしい。良かった。
それも、私が治したのですが。
「そ、その……」
ウェズリー様が口を開くが、言葉が続かない。
愛人さんの方はぐったりしているが、こちらを元気に睨みつけているので、問題はないだろう。
愛人さんの持っていた魔動ナイフは、ウェズリー様がいざというときのために愛人さんに送ったらしい。
対人用なら過剰防衛だし、街中で使えば火事になるだろう。
そういう場合は、同シリーズの水属性版もあるのでそちらを使うべきだ。
これも炎のヤツと一緒に販売しているんだが、何故火属性を選んだのか……
「どういう理由があるにせよ、この国でも上位に位置する聖女様にこんなことをして、タダで済むとは思っていないわよね?」
普段、温厚なお義母様が怒気を含んだ声で言う。怖すぎる。
「ヒィッ!?」
「せ、聖女!?」
愛人さんは悲鳴を上げ、ウェズリー様は困惑したように声を漏らした。
あら? ご存知ない? 婚約が決まったときにご説明しました……
「ホリー様は、この国で大聖女にもなれる才能を持つお方だ。
しかし、我がスノードロップ侯爵家に大恩があるからといってその名誉を断り、我が家に嫁いでくれたのだ。それを蔑ろにするだけではなく、害するとは……
その女は元は男爵家のご令嬢だったが今は平民だな? 死罪は免れないと思った方がいい」
お義父様も盛大にキレている。
ちなみに、現在の大聖女は二番目の姉が務めている。私よりも戦闘力は劣るが、浄化能力は姉の方が上なのだ。おっとりした気質の二番目の姉は、大聖女という大役にぴったりの人材だったりする。
一番目の姉は浄化能力よりも戦闘能力の方が高い。メッチャ強くて怖い。怒らせてはいけない人だ。
私も聖女の資格は持っている。現在は神殿から派遣された聖女という立ち位置だ。光属性魔法が得意なので、回復や身体強化の魔法が得意だ。
「そ、そんな……」
「私、そんなつもりは……」
ウェズリー様と愛人さんが、言い訳を口にする。
いやいや、どの口が、である。
「愛人さん──アリスンさんだったかしら? 貴女が使用した魔動武器は冒険者が護身用に携行するような代物です。
我が西の辺境でも普及しています。なので、どういった性能かは熟知しています。
あれは、対魔獣用のもので、最大出力であれば大型魔獣も倒せる出力が出せます。最大出力なら一回限りですが。
つまり、人間三人くらいなら、容易く殺せる武器なんですよ」
私は、アリスンさんの目を見据える。
「貴女は、私とお義父様とお義母様を殺そうとしたんですよ。間違いなく!」
私のことはいいが、義両親を害したことが許せない。
「しかし、この国も一応は法治国家ですので、アリスンさんの処遇は司法に委ねます」
本当は、原型がなくなるまで殴りたいのですが、はしたないのでやめておきましょう。私も淑女ですので。
アリスンさんは昔は男爵令嬢だったようですが、現在は平民。
平民が貴族に意図的に危害を加える行為は、その規模がどうであれ、厳しく処罰される。
しかも今回は聖女である私と、スノードロップ家の現当主とその夫人を明らかに狙っていた。
死罪は避けられないだろう……
「ホリー様、此度の件でウェズリーとの離縁は仕方がないと思っている。こやつとの今後は、貴女が好きに決めて良い」
お義父様が憔悴しきった様子で言った。
だが、私の気持ちは決まっている。
「いいえ、離縁はしません」
「ホリー様……」
「私は、アーノルド様と約束したんです。必ず、スノードロップ侯爵領を良くすると。だから、離縁はしないです」
「ホリー様!」
お義母様が感極まって涙をこぼす。
ウェズリー様は俯いたまま、目も合わせない。
謝罪の言葉すらまだない。
これはアレだ。しでかしたこと云々ではなく、怒られていることが不服で辛くて嵐が過ぎ去るのを待っているだけだ。
まったく、 形だけでも謝罪を一言、口にしてくれればこの提案はする気がなかったのですが……
「ですが、このままウェズリー様を許すことはできません。ですので、私も愛人を作りたいと思います!」
「え、ええ!?」
「あ、愛人!?」
「──!?」
愛人さん以外が驚愕した表情で私を見る。
無理もない。私だってあんまりな提案だと思うから。
愛人さんは、茫然自失状態でこちらの話は聞いていない。まあ、彼女にはもう関係のない話ですからね。
「ええ。私はスノードロップ家の嫁ですが、聖女でもあります。聖女はその能力が高いほど、子を産むことが推奨されています」
聖女の力は、娘に受け継がれる可能性が高いからね。
「そして、スノードロップ侯爵家の後継も作らなければなりません。
しかし、ウェズリー様は私を蔑ろにするどころか命まで狙ってきました。こんな方と子供を作りたくはありません。
なので、この家の血縁で妻や恋人がおらず、万が一私との間に子供ができても大丈夫な相手をお義父様たちに見繕ってもらいたいのです!」
まあこれは、ウェズリー様への意趣返しで、本当に愛人とそういうことをするつもりはありませんけどね。最悪、侯爵家の後継ぎは養子をもらいましょう。
聖女としての後継ぎは姉二人がいるので、私は子供を産まなくても大丈夫なはず。多分。
「ま、待ってくれ! これはアリスンの独断で、俺は何も知らな──」
「黙れ、ウェズリー。言い訳は尋問室で話すがいい。
何にせよ、子供は作らねばならぬ。ホリー様の意見はもっともだ。
……ホリー様、相手は我が血族のものであれば、どんな者でも構いませんか?」
「は、はい。まあ、私とそういう関係になっても大丈夫な方に限りますが……」
「……確かに後継は必要ですな。分かりました。すぐに手配しましょう」
「父上!?」
「なんだ? 自分は散々、愛人のもとに通っていて、ホリー様が愛人を持つことは不満なのか?
仕事の手伝いもせず、夫の義務も果たしていないのに?」
「そ、それは……」
「話は終いだ。お前たち二人は衛兵に引き渡すから、しっかりと罪を償ってこい」
「そんな──! 父上!!」
そうして、ウェズリー様と愛人さんは待機していた衛兵たちに連れられて行った。
貴族が勾留されることは、ほとんどないのだが、多分、懲らしめるためにあえてお義父様はそうしたのだろう。
さて、愛人を作る宣言をしてしまった上に、了承までされてしまった。
……もう引き返せない。
まあ、本当に男女の仲になるつもりはないので、そこは申し訳ないのだが。後継は、養子を取ればいいしね。
なんて思いは、彼と出会って早々に覆されるのです。




