【ノクターンと2番目の女】
「最近、仕事が忙しすぎちゃって、食欲もなくなってきてるよ…。」
「大丈夫?しっかり食べた方がいいよ?」
「はーい。」
「身体が基本!ご飯は、しっかり食べなさい!」
「…え?」
「うちの母の口ぐせです。」
翔平と和花は、およそ3ヶ月前のこの日も帰りの電車で他愛もない会話を交わす。
突然何かとおもったけど、“うちの母”か。翔くんのお母さんてどんな人なんだろう?
チョット強そうだけど、翔くんの素敵スマイルみたいに大人の微笑みかな。
「翔くんて、自炊だっけ?」
「うん。まぁ、簡単なのしかできないけど。」
「さすがー。しっかりしてますね!」
「和花だって作ってるんでしょ?」
「まぁね。でも最近は、あんまり食べないし、お父さんも年で食が細くなってきたから、結局残してダメにしちゃって…もったいないんすよー。」
「もったいねぇー。俺がもらうのにぃ!」
翔平が残念そうに笑うと、
「あげたいよぉー!」
和花も残念そうに笑って応えた。
「和花、料理上手そうだもんね?」
「上手かどうかは好みだけど。好きですよ、作るのは。わりと。」
「いーなー。最近作って美味かったのは?」
「最近かぁ…。あ、こないだ、駅で"沖縄フェア"やってたじゃん?」
「あぁ~やってたねぇ。母ちゃんがサーターアンダギーめっちゃ買ったらしくって、口の水分全部持ってかれたって、弟が嘆いてたよ。笑うわ。」
いけね。つい、りんだが出てしまった。
「家族仲良いですよね?」
「うーん、そうね。和花もお父さんと仲良いじゃん?」
「まぁー…二人だけだからぁー…ねぇ。」
「照れんなよ。」
お互いにクシャッと顔がほころぶ。
「あぁ、ごめんごめん。で、"沖縄フェア"がどうしたの?」
「あぁ、そうそう。沖縄そば食べたかったから、麺を買ったんだよね。で、せっかくならラフテー作ってみようと思って、豚バラブロック買って作って食べたけど、あれはハナマルかな?」
「すげぇじゃん!ラフテー作れんの?」
「お父さんの泡盛ジャブジャブ入れてね!アハハ。「おい!アレは、もらいもんの高級古酒なんだぞ!」って、お父さんプンプン怒ってたけど!かまわーん!」
「おもしれぇ。高級ラフテーになっちゃったわけだ。いーなー。俺も食べたぁーい。」
「作ってあげたぁーい!」
「約束ねー?」
「あ、じゃあ今日うちに…ってわけにはいかないか!お父さんいるし!」
和花は、“食べに来れば?”の勢いで豪快に笑う。
「あ、じゃあオレん家…は、よくないか。」
「私は大丈夫だけど。翔くんが、良ければ?てか、沖縄そばの麺ないけどね。フェア終わっちゃったし。」
「スーパーに売ってないかな?」
「んー…ないと思うなぁ~。」
「あ、そうなのかぁ。残念。」
「ラフテーじゃなくて、角煮はどう?同じようなもんだし。」
「サイコーじゃん!」
スーパーで豚の三枚肉などを調達。
なんか、翔くんとスーパーでお買い物なんて、新婚さんの気分で嬉しくなっちゃう。「カゴ持つよ。」て言い方、良かったなぁ~。その優しさ、本当に好き。
参ったな。付き合ってもないんだったって、切なくなっちゃうよ。
「なんか、人ん家のこんなに見ちゃうのアレだけど…」
「お気になさらず。…や、なんか裸にされるみたいで恥ずかしいもんだね。」
「結構なプライベートゾーンだもんね!」
翔くんの承諾スマイルを確認し、豪快に笑いながらキッチンを一通り確認しすると、和花は手際よく買い込んだ食材を調理し始めた。
キッチンに立つ和花の後ろ姿を見ていた翔平は、
「なんか…」
「え?」
「素敵です!」
嬉しそうにニッコリ笑った。
「ありがとうございます!」
和花は照れ笑いで、また自分の手元に目線を落とした。
「手伝うよ!」
「大丈夫。すぐ終わるから。ありがとう。」
「いえいえ。」
んー。これじゃツマミで終わっちゃうか。
なんかないかな?あと一品くらい。
「冷蔵庫開けまぁーす。」
「どうぞぉー。」
「あ、冷やご飯あるんだ?チャーハンでも作ろうか?」
「いぃーっすねぇ!そのご飯チンしてサバ缶で済ますかって思ってたんだよ。」
「つつましいっすねぇ。」
「"つつましい"って…。」
"庶民くせぇ"と迷ったけど。←口のききかた
小さな会話を交わしながら、とくに何も手伝えそうもないけど、翔平は、なんとなく和花の隣に邪魔にならないように立っていた。
「手際が良いことー。」
「慣れよ、慣れ。」
ネギをトントントントン刻む様子に、なんだかほっこりする。
本当に素敵だよ、和花ちゃん。
「あ、ニンニク入れて大丈夫?」
「え?」
「これから、デートとかじゃないですか?」
「今、デートしてるじゃないですか?…まぁ、オレん家じゃデートとは言えないか。」
首をかしげながら翔平が笑う。
「チュウできなくなっちゃうよ?」
和花が、ネギ・卵・冷やご飯という実にシンプルな具材に、刻みニンニクを多めに投入してフライパンをパラパラ躍らせながら笑う。
夜オブふぁいや。←は?
「チュウしてくれるの?」
優しい豆柴スマイルが和花の心をポッと灯す。
笑顔の翔平と真顔の和花が見つめ合うと、割って入るようにニンニク油の香ばしい匂いが食欲をそそる。
すると、翔平は、やわらかい表情で和花の顔に近づき、そっと口が触れた。
チュウ。
やっぱり翔くんの顎ラインは色っぽい。
和花の唇がやらかくて気持ちいい。
唇が離れていく時、お互いに嬉しい心が通って微笑んでいた。
「…私とつきあってくれる?高校の時の彼女のこと忘れなくていいし、2番でもいいから。」
「2番とか…」
「彼女のこと想ってていい。私を好きでいてくれるなら。」
たたみかける。
「…俺で、本当にいいの?」
え、お料理、大丈夫?
焦げない?←いいとこだから黙ってて
え?という顔の和花。その表情には期待が浮かぶ。
「俺より良い人いっぱいいるんだから、もったいないよ…。」
―なんだよ。結局、フラれるんじゃん。―
「…て、諦めようとするんだけど。目が、捜しちゃうんです、和花のこと。会社にいる時も、帰りの電車でも。」
やだーーーん♡
キューーーンッッ(*≧з≦)←うるさい
「高校ん時の彼女のことは…正直、忘れるとかできない。けど、“2番”とか思ってないから。」
「うん。」
「こんな俺でよかったら、つきあってください。」
翔平が優しく微笑む。
「良かった!」
和花は、嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
良かったね。
で、
チャーハンは焦げなかったのですか?←なんで知らないの




