01話:俺はどこにいるんだ
「……」
その声が眠りから俺を呼び覚ました。正直なぜ眠りに落ちたのか分からない。それまでの記憶が何もない。体はひどく疲れ切っていて、全くおかしな気分だ。
「……」
声がまた耳に届いた。だが今度は両肩に手の感触があった。誰だか分からないけれど、どうやら起こしてくれているらしい。体をそっと揺らす手の動きがはっきりと感じられた。
目を開けるだけの力が戻ってきたのが分かり、ゆっくりとまぶたを上げた。
空の光がまぶしくて目を細めると、すっとその光を遮るように誰かが前に立った。少しくしゃくしゃだけれど、それでも美しく見える長い髪の女性だった。
「ねえ、もう起きてるの?」
まだはっきりとは見えない。だが声を聞いて、相手が女性だということだけは分かった。
答えなきゃ。
「あ…」
声が出ないなんておかしい。そもそも何があったんだ。眠る前のことが何も思い出せない。
待て、なんで俺は眠っていたんだ?
本当に眠っていたのか?
「ねえ……起きて……」
声がまた呼びかける。真剣な眼差しが俺を見つめている。
しばらくして視界がだんだんはっきりしてきた。まだふらつくけれど、俺は力を振り絞って体を起こそうとした。
「えっ……? ゆ、ゆっくり……」
女性が慌てて支えてくれた。
座り姿になると、大きく息を吸い込もうとした。
「ぐあっ!?」
右胸に針で刺されたような痛みが走り、俺は思わず手を胸に押し当て、目を見開いた。あまりの痛さにせきが込み上げてくる。
息を吸うたびに胸がひりひりと痛む。
一体俺に何が起きたんだ?
「えっ⁉ どうしたの? どこか痛いの?」
答えたいのに、痛みが先に襲ってくる。
心臓発作? いや、違う。心臓は左側だ。そんなわけない。
「ねえ、やめて……。驚かせないで!」
「ち、違う…待って…少し…今…」
なんとか声を絞り出した。しばらくはこの痛みに耐えるしかない。
落ち着いたら、ちゃんと聞かなきゃ。何が起きたのか。何も覚えていないんだから。
「わ、わかった……」
だけどまた眠気が襲ってくる。体が重くて、痛みよりも眠りの方が強くなってくる。視界がまた霞み、次第に闇に包まれていく。
「…あの…誰だか分からないけど…もう少し…見守って…」
女性がこちらを見ているのが分かった。そのまま体が傾き、意識が遠のいていく。
「……」
闇に落ちる直前、彼女の顔が見えた。どこか見覚えがあるような気がした。そして同時に、彼女が慌てた表情になったのも見えた。
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しばらく時間が過ぎた。
目が覚めた。ゆっくりと目を開け、体を起こす。外はもう薄暗くなっていた。
「そうだ、俺のカバンを取りに行かなきゃ」
中におやつが入っている。だけど何かがおかしい。
俺…ここはどこだ?
焦りながらあたりを見回す。カバンはどこだ? 見えるのは木々と草ばかり。
「…どこ…? どこなの…?」
思い出した。船の中で寝ていたはずだ。そうだ、島へ向かう探検の途中だった。なのになんでここにいるんだ?
目の前に広がる景色を見て、ようやく理解した。
俺…流れ着いたんだ。
目の前には夕日に染まる海が果てしなく広がっていた。
手が震え出した。
「う…うそ…」
みんなはどこだ? 船が遭難したのなら、他の人も近くにいるはずだ。記憶はまだぼんやりしている。さっき目が覚めたばかりだから。
だけど一つだけ覚えている。誰かが俺を起こしてくれた。くしゃくしゃな髪の女性だった。
彼女は本当にいたのか?
それとも、遭難したせいで見た幻覚なのか?
ああ…幻覚だとしたら、彼女は俺を守ってくれようとした女神だったのかもしれない。
「ねえ……よかった、目が覚めたんだね?」
声がした。俺は驚き、彼女は俺以上に驚いた顔をしていた。
「ぐわっ!?」
「きゃあっ!!」
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