第3話 不死身の乱舞
エルは隣に来ると震える手足で短剣を構えた。
「わ、私も戦います!!」
「あぁ、大丈夫。こいつは飯として美味い」
「……はい?ッ!?」
俺は短剣の刃部分を握って血を出す。
驚いたようにエルが短刀を引っ込めると同時に浜辺に落とす。
「な、なにやってるんですか!?」
「なにって、コイツを倒す準備だよ」
:自傷癖かよ
:やけっぱちか?
:あたおかやん!
:俺もエルたんに斬られたい
流れる文字列を無視しながら、俺は短刀で―――己の右腕を肩から切り離した。
「ひ!?」
「ア、アンタなにして…」
ぼとりと落ちた腕を見て、少女二人が顔を引きつらせながら後退する。まぁ、そりゃそうか。
肩から血潮が滝のように噴出する。
血に反応したのか、オオダコは大量の腕を一斉に伸ばしてきた。
:死んだ
:あああああああ
:終わった…
:逃げろぉおおお
次の瞬間、複数のタコ足が空中に千切れ飛ぶ。
「…え!?」
:なんだ!?
:ふぁっ!?
:はぁあああああ!?
:能力か!?
俺の右腕が黒く、禍々しい異形の腕に変質していた。
黒曜石のような輝きを纏う腕は、もはや竜のアギトのようにも見え、呼吸するように黒い粒子のようなものを周囲にまき散らしている。
:腕がモンスターみたいだぞ
:身体変化系の能力か
:こいつ自己再生系の能力じゃないの?
そう。俺の能力は不死身。どんな傷を受けてもいずれは再生する。
―――だけのはずだった。
オオダコは奇声をあげながら、残りの二本の腕を鞭のようにしならせて浜辺を薙ぎ払う。
大岩すら砕くその一撃を、俺の右腕は難なく掴む。そのまま引っ張ると、タコ足の根本がミシミシと悲鳴をあげてやがて胴体から千切れた。
:化け物だ…
:パワーも半端ないぞ…
そう。俺の肉体は、長いこと胃の中で再生と溶解、そして空腹を満たすために、胃液まじりのモンスターの胃肉を食う中で変化してしまっていた。
肉体再生の際に、相手の肉質を理解し、引き裂くことを―――殺すことをイメージする。
俺は浜辺を蹴って跳躍する。
タコは残る腕を弾丸のような速度で伸ばしてくる。それは正確に人間の弱点である首を捉え、俺の頭部を胴体から切り離した。
モンスターなのにいい狙いだ。
くるくると回転、落下する視界。
だが、俺の異形の右腕は、宙に舞った頭部をガシッ!! と鷲づかみにした。
腕はそのまま胴体の断面に首を押し当てる。
ドチュッ!
肉がつぶれるような音。細胞が急速に絡み合い、一瞬で神経と骨を再構築する。
目を開ける。視界は良好。あとは――お前の心臓を食らうのみ!
異形の腕が赤く、心臓のように胎動している。熱を放出しながら、肥大化していく。
巨大モンスターに張り付いていたオオダコも、俺の異常性に気が付いたのか、密集して一斉に腕を伸ばしてきた。
俺は思わず、笑みがこぼれる。
「テメェはさんざん、胃の中で食ってきてんだよぉおお」
俺のウイルスに侵された細胞が、仕留めろと叫んでいる。
「ウオオオオオラァアアアアアアアア!!!」
着地と同時に俺は腕を横に薙ぎながら体をひねる。
巨大なタコどもの頭部は、まとめて裂けた。
「FUAAAAAAAAAAAAaaa……!!!」
断末魔がとどろき、頭部だった断面から真っ青な体液が噴水のように放出されていた。
俺は血液の雨を受けながら、髪を掻きあげる。破壊衝動のようなものが収まり、不思議な満腹感のようなものが満ちていくのを感じる。
:バーサーカーだ…
:こいつもうS級だろ
浜辺に戻ると、少女たちはこちらをややこわばった顔で見ていた。まぁそりゃビビるか。あれこれさっきやったな。
説明を簡単にしようと口を開きかけたところで、膝から崩れ落ちる。
体から力が一気に抜けていく。
そして……次に来るのは……
「いでででででででいだいいだいだだだ!?!?!?!」
この変異した腕、しばらく戻さないと死ぬほど痛くなる!!!死なないけど!!
普通の怪我による痛覚はとっくに死んでいる。だが、この変異させた場合は別だ。
ウイルスの暴走なのかは分からないが、とにかく激痛が爆発している。
長時間、あるいは連続で変異すると自分では戻せなくなるうえに、最悪暴走してしまうのだ。
「頼む斬って!肩から切ってえええ?!」
:ぇぇぇ…
:情けなすぎる…
:チート肉食野郎からチー牛草食男子に…
:A級4体まとめて倒した奴とは別人か?
文章が目に入るが今はそれどころではない!
キリカが困惑した表情で近づいてくる。
「き、斬ってもいいのね?」
「いい!お願いします!ぐううう!」
俺はうずくまりながらも、ドクドクと激しく胎動する右腕を差し出す。
「そのまま動かないで……フッ!」
甲高い音を立てた抜刀。刃は一切止まることなく俺の腕を切りつける。
ゴトンと鈍い音を立てて異形の腕は砂浜に落ち、直後に黒い灰となった。
同時に痛みが嘘のように引いていく。
深いため息が自然と漏れる。
「大丈夫、ですか?」
エルが心配そうにしゃがんで顔を覗き込んでくる。あぶね、天使かとおもった。
「ひとまずは、なんとか……」
あれ、視界が点滅する……首でも取れちまったのか?
いや、少し貧血か。
「俺を置いて帰れ……おれは、どうせ…不死身、だか、…ら」
その言葉を最後に、俺の意識が闇の中に沈んでいった。
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