第1話 不死身男、ダンジョンに立つ!!
1話の展開をよりギャグ多めカタルシス多めに修正しました!
「皆さん!見てください! 10層の湖畔に到着しました!」
フルフェイスの鉄兜に分厚い鎧を身に着けた私は、なるべく明るい声で、浮遊する小型ドローンに手を振る。
:ダンジョンで湖って珍しいよな
:昔はここにめっちゃ鉱石落ちてたらしいぞ
:10層とかいう低層の湖畔とかリア充ピクニック地やんけ(血涙)
空間に投影されたホログラムのコメント欄は、数行がゆっくりと動く。
:エルとかいう鎧おじよりキリカたん出して
:今日も低層散歩か
:七光り、才能を生かせず
私は反応しずらいコメントになんとか笑みを作る。
コメント欄から綺麗な湖に視点を移動させる。
ここが隠しスポットって言われるだけある!とってもきれいな湖!
「ちょっとエル!あまりはしゃがないで。転ぶわよ」
黒髪の女の子、私の大親友のキリカちゃんが駆け寄ってきてくれる。
瞬間、ドローンが彼女を捉え、コメント欄が急速に動いた。
:今日もキリカママきちゃぁぁ!
:その刀で斬られたいでござる
:俺の大太刀が火を噴きそう
:その小刀しまえよハゲ
荒れるコメント欄をみて舌打ちをしたキリカちゃんが、思わず腰に帯刀する日本刀の柄に手を置きホログラムを両断しかけていた。
その刹那、湖全体に地震が起きる。
「ッ!?な、なに!」
「ッ!エル!」
私が息を飲むと同時に体勢を崩して尻もちをつく。すぐさまキリカちゃんが駆け寄り、刀を鞘から僅かに抜く。
一瞬の静寂。
そして、爆発したような轟音と水柱が湖から巻き起こる。
「GUOOOOOOOOOOOOO!!!!」
湖から姿を現したのは、見た目は超巨大なクジラだった。
:なんだあああああああ!?!?
:は???
:逃げろ逃げろにゲロにゲロ逃げろ
:なんだこのでかいの!?教えてモンスター博士!
:こいつは、S級指定モンスター、リヴァイアサンだ……深層の水辺エリアの守護モンスターとしての交戦歴があるが、いまだ倒せたパーティーはいない…
S級指定モンスターという単語を見た私は絶句する。
モンスターには、それぞれ危険度の指標としてランクが設定されている。
S級ともなれば、街を一夜にして廃墟とし、自衛隊や軍隊をも壊滅させるバケモノ。
当たり前だけど、こんな低層にいていいモンスターじゃない。
「エル!あなただけでも逃げて!私が時間を稼ぐ!」
「そんなことできない!私も!」
「いいから!早く!」
大親友がいなくなるなんて、そんなの絶対にいや!
私がキリカちゃんと言い争う間にも、そのS級モンスターは、ぎょろりと瞳を下に向け、私たちを捉えた。
「GUOOOOOOOOO!!!!!」
階層そのものを震わせる叫びが響き渡る。
怖い……私の中で短刀を握る手が震える。
――でも、こんなところで、死ねない。
私は、S級ダンジョン配信者になりたい!
S級になって、お父さんみたいにたくさんの人を救いたい!
短刀を握りなおす。覚悟を決めた、その時だった。
ブォォォン!!!
突然、S級モンスター、リヴァイアサンのお腹が『内側から』破けた。中から飛び出してきたのは…黒い…巨大な…悪魔の腕…?
「GYAAAAAAAAA!?!?!」
リヴァイアサンが突如として絶叫しながらひっくり返る。
「きゃあああああ!?」
「くっ!? エル!」
私とキリカちゃんは、赤黒い血の噴水と、湖の波で後方におおきく流された。
鉄の匂いが混じる水が引き、私はせき込みながら立ち上がる。
いったい…なにが起きたの?
:攻撃を受けたのか??
:二人とも生きてるん?
:なんだ今の…
私は状況を確認するため、思わずリヴァイアサンのほうを見る。
S級モンスターは、破れたお腹を上に向けたまま、沈黙していた。
口は半開きになり、息をしている様子はない。ギョロギョロと動いていた目玉も、今はどこか遠くを見つめているみたいだった。
:…もしかして倒した?
:恐ろしく速い戦闘だった??
:エル、覇王色目覚めた?
:え。待って……死んでね?
私は、お腹の内側から突き出ている黒い悪魔のような腕が、シュルシュルと音を立てて縮んでいるのが見えた。
そして、その破けたお腹から、這いあがるようにして、人のようななにかが姿を現した。
もしかして……新しいモンスター?!
それは、人間の男性のように見えた。
年齢は…私と同じ17歳くらいかな。
黒髪で、日本人風の顔立ち……そして――
:わーお…
:ウホ♥いいからだ♥
:アカBANされる!?
:おちん〇んだぁああああ!?
上も下も着ていない……全裸だった。
♦ ♦ ♦
――最初のころは、溶かされる激痛の中で、気が狂いそうになったが、俺の能力が死なせてくれなかった。這いまわる虫のようなものを無理やり食べて飢えをしのいだ。
――耐性が出来てきたのか、溶けるスピードがだいぶ落ちてきたころ、別のモンスターが丸呑みされて落ちてくるようになった。暴れるそいつらを戦って、なんとか殺し、食べた。
――それを繰り返すうちに、血が出た部分を意識して力をこめると、その部分が、まるでモンスター…いや、よりまがまがしい異形のバケモノのようなものに変異するようになった。
――その力を扱い慣れてきたころ、モンスターが落ちてこなくなった。
飢えを睡眠や、胃液、胃の壁をかじることでしのいできたが、もう…限界だ。
俺は右手の甲を歯に押し当てると、思いっきりかじって食いちぎる。
赤黒い血が流れる。
能力で修復されていくなか、より腕そのものを意識する。
右腕がどす黒い『異形』へと変異していく。本来修復されるだけだった能力は、今やそのリミッターが外れているかのように腕を禍々しく、肥大化させていく。
「…ォォオオオオオオオオオオラアアアアアア!!!!」
メリ…ブチィイイイイン!!!!
右腕を力任せに振り抜くと、荒らされた胃の壁に衝突し、繊維を引きちぎるような音と共に壁を貫いた。
「GYAAAAAAAAA!?!?!」
胃の中がグルグルと回転し、天地が激しくひっくり返ったかと思えば、衝撃を最後に全く動かなくなった。
俺は、肥大化した腕が制御を失う前に、元のサイズを意識する。
腕は血潮を噴き出しながら元の人間の物へと見た目を変えていく。
貫通された部分から、光が差し込んでいる。
久々の光に目がつぶれそうになる。
続けて運ばれてくるのは、胃酸と血にまみれた胃の世界を換気する風。
ついに、この地獄から、おさらばできる。
俺は、胃の壁をよじ登り、差し込まれる光に向かっていく。
さよなら胃の中。ただいま、地上。
鎧をまとった者と、黒髪の女の子がこちらを見上げていた。
久しぶりの生きた人間だ! 胃に新しく入ってくるのはどれも死んじゃってたのばかりだったからな!
その表情は困惑と恐怖が半々といったところか。まぁモンスターの口から出てきたらビビるか。
生者の反応を見て、改めて生還したことを実感する。涙出てきた…。
俺は誰だかも分からないままに手を振ってそちらに向かおうとしたところで足を踏み出す。
……ズルッ!
「おぁぁぁぁっ!?」
粘液に足を滑らせた俺はそのまま、湖に落下する。
頭まで澄んだ水に浸かると、これまでの汚れが洗われるようだった。
「ぴゃえええええ!」
これは……気持ちいい。
俺は水中にもぐり全身を洗い始める。
溶ける胃液はずっとヌメヌメしていてぬるかったが、 この冷たさが染みるぅ!
俺は狂喜乱舞洗いしているなか、体に何かがしがみついてきた。
光を反射する金色を追うと、―――天使が俺を水中で抱きしめていた。
否、天使と錯覚するほどの可愛らしい女の子だった。
女の子はそのまま足をばたつかせて俺ごと浮上する。
「ぷはっ! 大丈夫です!すぐ陸ですから! 力を抜いていてください!」
「え、あ…じぶ」
「大丈夫!大丈夫ですよぉ!こう見えて、泳ぎ得意ですから!」
「あ……ハイ」
俺は会話をあきらめ、可愛らしい少女に言われるがままにだらんと力を……
フヨン…。
頭に、柔らかくて弾力のある……。
胃の壁とは感触が、全然違う!!
こ、これはおっぱ!?
確信に至る直前に、足が地面につく。残念ながら頭に密着していた感触も終わる。
俺が浜辺に座ると、すぐさま金髪少女がこちらにしゃがみ込んで顔をのぞき込んできた。
「お怪我はありませんか?! 」
黄金に煌めく髪、心配そうな表情で見つめてくるその少女は、可憐さを体現したようだ。
なにより、胸が結構大きい。あとびしょ濡れ。
長い間、死肉と戯れていた俺にとって、そんな少女はあまりにも刺激的過ぎた。
下半身がムクムクしかけたところで俺は股間を抑える。
金髪の少女がハッとした様子で赤面した顔を反らす。
「エル!こっちにきて!」
エルと呼ばれた少女は、腰まで伸びる黒髪の少女に腕を引っ張られ距離を取らされた。
よくみると、二人の足元には、重厚なフルフェイス兜と鎧が無造作に転がっていた。
「エル!あなた防具も兜も捨てるなんて、コイツがモンスターだったらどうするのよ!」
キリカが怒鳴るが、エルは困ったように苦笑して反論する。
「でも、重いと泳げないし……キリカちゃんは泳げませんし…」
「ぐ……そ、それでも安易すぎよ! お父様になんて言い訳するつもり!?」
なるほど、さっきのいかつい鎧の中身が、この天使だったのか。
自らの危険を顧みず、赤の他人の俺を助けるために、水に飛び込んでくれたらしい。
やさしさの権化…やはり天使か?
キリカと呼ばれた黒髪の少女は、警戒しているのか、その視線は鋭く、腰に帯刀するものを今にも抜きそうだ。
「答えて変態!アンタ!本当に人なの?!」
初対面に変態呼ばわりとは失礼な女だ。どうみても……あ。
俺はそこでようやく自分が、一糸まとわぬ全裸なことに気が付いた。
「ひ、ひとです。冒険者してます」
「冒険者ぁ? ずいぶん古い呼び方をするのね」
…古い? ダンジョンを探索する者は皆そう呼ばれているのだが、もしかして新人か?
全く、こんな深層にまで女の子が来るとは、よほど人材は不足しているらしい。
「なんでS級モンスターから出てきたのよ。まさか戦ってたの?」
「え、S…なんて?」
「S級モンスターよ! こんな低層にいるのもおかしいけど」
「……待って。待ってくれ…お前は本当に何を言ってるんだ?」
S級? なんだそのライトノベルみたいなランク付けは。
それに……第10層が低層だと? 人類の最高到達深度だぞ?
こいつは何を言っているんだ?
情報がかみ合わず混乱するなか、ふと二人の横に、浮遊モンスターが滞空していることに気が付いた。
羽などはないが、代わりに小さいプロペラのようなものが回転している一つ目の飛行型モンスター。
飛行型モンスターはコウモリ様のモノは見たことがあるが、これは初めて見るタイプだ。
モンスターの瞳は光のようなものを照射しており、黒い不気味な文字列のようなものを空中に幾重にも描いている。
まるで、ダンジョン内に稀に発生する魔法陣のような…。
…まさかあれは攻撃モーション!? 詠唱などの類だとしたらマズイ!
俺は立ち上がって浮遊モンスターに向かって走る!
目の前で女の子が死ぬ姿は流石に生還して直後はきつすぎるだろ!
「!?アンタ突然なに!?」
「動くな!動けば死ぬぞォォ!」
「ッ!?来ないで!」
黒髪の少女はとっさに抜刀するが、その刀に俺の左腕が触れた瞬間―――
キンッ!
という軽やかな音と共に、左腕が宙を舞う。
浮遊モンスターは同時に後方に下がって俺から距離を取る。
照射されている文字羅列が加速している。
手刀では僅かに届かない。
「ッ!ハァァァァ!!」
俺は目の前に落下している自身の左腕を右手で掴むと、思い切り浮遊モンスターに叩きつけた。
浮遊モンスターはバチッッ!という電気が飛んだような音を立てると、肉片…というか機械破片のようなものを散らしながら浜辺に転がった。
「ふぅ……危なかった」
俺は、左腕を持ったまま右腕で額の汗をぬぐう。窮地を脱したか。
エルは呆然とする黒髪の少女を押しのけて、こちらに駆け寄ってくる。
「な、なにしてるんですか!?」
「い、いやモンスターがいたから」
「そうじゃなくて腕です!」
「あぁ……切ってくれて助かったぜ。あのままだと仕留めそこなってたかもしれないしな」
「そ、そうじゃなくてですね!? なんでそんなに悠長なんですか!?はやくくっつけないと!」
あぁ、そういうことか。こんなに心配されたことないから新鮮だなぁ。
「俺、不死身なんですわ」
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