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ネコを拾ったら魔族になったったオハナシ 〜ネコと一緒のスローライフ〜  作者: とんじる


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33/44

33.カッツ、昔話を聞く

 グレイスガルドを出て西へ。街道を3日程進む。途中、ジョリの配下の行商人と落ち合い、薬師ギルドからの御礼をノトク村に届けてもらうことにした。同時に大陸西域の香辛料や調味料を分けて貰った。異世界にも様々な香辛料やハーブがある。旅の息抜きに新しい料理を作るのが楽しみとなった。


「あぁ、こっちの葉っぱはキツい香りですな。ほんの少しでも効きそうだ」


 料理に使うハーブのチェックは、ジョリにお願いしているる。仲間の中で一番鼻が効くからだ。もっとも、主に料理を食べるのは俺とジョリだけだ。ネクロスさんは酒のツマミになれば文句はないし、エルは生か味付けをしない物を食べている。


 旅の間、ネクロスさんもジョリも俺の料理を喜んで食べてくれる。ネクロスさんの魔法鞄には、士郎さんの書棚から料理の本、キャンプ飯の本を何冊か拝借してきている。新しい食材を手に入れたら元の世界の料理をアレンジして作るのだ。毎日作るから俺の料理の腕も上がってきているのかもしれない。


 いずれはノトク商会で世界の産物を取り扱ってみたい。夢は膨らむ。異世界での生活を充実させるにはまず、食からだ。元いた世界の元いた国が、豊かすぎたこともある。この世界にしかない特産品もあるはずだ。やりたい事は沢山あるのだ。


◇


 ネクロスさんが寄りたい場所があると言い出した。街道沿いにあるというから行ってみることにした。現代で言うと城跡だろうか、ただっぴろい原っぱに、所々城壁の残骸の様なものがある。この世界で見てきた街は魔物に備えがしてあるが、この辺りは大きな力で砕かれたような形状をしている。更に風雨にさらされ随分長い時間が経ったのだろう。跡から推察すると余程大きな城か街と推測された。


 ネクロスさんは跡地の端にある大きなモニュメントの前で進むのをやめた。墓だろうか。周りは花畑のようになっている。誰もいないが花が手向けられていた。


「ここには大きな街があっての。もう100年も経つか、竜の怒りに触れ、一夜にして滅ぼされた」


 ネクロスさんが昔話をはじめた。俺は見たこともない竜の話だ。


「竜ってのは、今もいるの?」


「……カッツ、お主はもう竜と出会っておるよ」


「覚えが全く無いけれど、いつ?」


 俺は異世界に来てから魔王に会ったり、ドワーフに会ったりはしたけれど、竜は見たこともない。ネクロスさんの、『会った』って表現が気にかかる。某ゲームのように魔王が竜ってことかな。俺はネクロスさんにそう尋ねた。


「近いが少し違う。しかし、お主にも竜の血が流れているから伝えておく」


 ん?今、さらっと凄いこと言ってない?俺は理解に窮した。見たこともない竜に既に会っていて、しかも、俺の中にも竜の血が流れているって⁈


「魔王かエルが竜の親戚とか?」


 俺は血を交わした2人の名前を挙げた。


「アモンが魔王と呼ばれるようになったのは千年程前じゃ。それまでは、卑小な吸血鬼よ。ここよりもずっと北の街に流れてきたアモンはある国から派遣されたハンターにより瀕死の重傷を負い、かろうじて山奥に逃げ込んだ……」


 ネクロスさんはぽつりぽつりと魔王の過去を話はじめた。


◇


 ――千年程前 某国 メールー山地――


 アモンは酷く消耗していた。人族の雇った冒険者が予想外に手強かったのだ。人族の癖に上級魔族のように、詠唱も無しで大魔法を間断なく撃ちこんできた。人族には他にも手練れが揃っていた。盗賊団の他の連中も生きてはいないだろう。


 既に夜が明け、身を隠してくれる闇は去っていた。アモンが追手から逃れることができたのは、逃げ込んだこの山々のおかげだ。この辺りの人族が滅多に足を踏み入れず、聖地と呼ばれているのをアモンは知っていた。依頼主が街の人族なら冒険者達も足を踏み入れないと咄嗟に考えたのだ。アモンは運が良かった。


 吸血鬼という種族は、太陽の当たる昼よりも夜に魔力が増すスキルを生まれつき持っている。このまま森の奥に進み、山奥で夜を待ち、回復に魔力を集中しようとアモンは考えた。湧水を飲み干してひと息つく、アモンは山の濃い魔素を感じながらいつの間にか眠りに落ちていった。


◇


 朝日を浴びて目が覚めた。アモンは更に山の奥に進んだ。流石に人族の聖地、戦いで負った傷も枯れた魔力も周囲の魔素を吸収して、既に癒えていた。それどころか、いつもより充実している。このままこの地で時を稼ぐことをアモンは決めた。じきに街の連中も諦めるだろう。


 アモンは時間を潰すため、山々を散策してみることにした。この魔素の濃さは異常である。その割に魔物は格の低い者達ばかりだ。まだ生まれて百年程しか経っていない若いアモンはこの山々に興味を持った。


 人族の手が入っていないせいか、山に生えている樹木はかなり年数を経たものが多い。豊かな森と言っていいだろう。3日程歩いて出会ったのは、見たことのない種類のボアと鹿、猿の群れ程度だ。人族が畏れるような魔物の気配はない。


 10日程経ち、山々を東に越えて抜けようかと考えたはじめた日、アモンは足を取られて深い穴に落ちた。表面を枯葉と蔓に覆われていてアモンも気がつかなかったのだ。穴の中は石造りの遺跡のような形状をしており、森の中より更に濃い魔素をアモンは感じた。


(山々や森に満ちた魔素の原因は、この遺跡かもしれぬ)


◇


 アモンは遺跡を探索することにした。灯火の魔法を使うと遺跡の壁には古代文字や絵が刻まれているのが窺えた。だが、アモンは古代文字が読めず、やがて興味を失った。


 宝でもあるかと思ったが、遺跡には宝どころか魔物の姿すらなかった。途中で階段を見つけたが、アモンは今いる階層を一通り確認してから階段を降りた。アモンの目を惹くような物は見つからなかったのだ。


 2階層も同じような形状。アモンは宝にはあまり期待はしていなかったが、遺跡の探索はやめなかった。更に魔素の濃度が濃くなったからだ。アモンはこの遺跡と魔素の秘密を突きとめる気になっていた。盗賊をしていたのも人族のように金を稼ぐ目的ではなく、他人の隠し持つ宝を見てみたいという好奇心からだ。


 3階層は一転して神殿のような造りになっていた。天井も高く広々としている。人族の作った石像が並んでいる。この階の魔素は更に濃く、身体にまとわりつくようだ。普通、魔素の濃い場所にはさまざまな魔物が発生するはずだが、気配は全くなかった。神殿を奥へ奥へと進むと、やがて広間のような場所にでた。


 広間の入口でアモンは固まってしまった。正面に大きな卵が鎮座している。卵の高さはアモンの背よりも高い。その背後にある巨大な眼に見据えられ身動きが取れなくなった、と言った方が適当かもしれなかった。


 眼の持ち主はアモンの姿を認め、静かに声をかけてきた。


「……我はシリウザーク。貴殿は?」


「アモン……アモン=サグナートゥス。」


 かろうじて、アモンは答えることができた。存在の巨大さにアモンは押し潰されそうになりながら、逃げ出したい気持ちを抑えた。抑えたというより足が動かなかった。竜、それも智慧ある竜は初めて見た。長い魔族の寿命でもまず見ることはないだろう。智慧ある竜など伝説の類いで、存在するのは知っていても、会話をした者など聞いたこともない。


「……ようこそ、アモンよ、我が頼みをきいてもらえぬか……。」


 シリウザークが唐突に意外なことを言い出した。不思議なことに、先程までのプレッシャーは感じなかった。圧力よりも何か茫洋とした、存在の大きさだけがある。竜の言葉にアモンは頷き、


「我が好奇心を満たすような頼みであれば……」


 とはっきりとした声で宣言していた。


 


 

 


 

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