11.魔族になったった?
ほっぺたがゾワゾワする…。ずいぶんと寝た気がするが、身体が熱い。いつかどこかで経験したことがある気がした。数日前、子猫を保護した後だったと気がつき、俺は目をあけた。
目の前に獣の大きな口がある。それは、さっき、夢の中で見た、バルナと呼ばれていた猫の口だった。あれは、夢じゃなかったのか……。バルナは目が覚めた俺に気がつき、またほっぺたをざーりっと舐めた。身体に力が入らないから身動きとれないが、食われる心配はなさそうだ。少し痛いが、痛いと感じるならここは天国でもないようだ。腹の上に目をやると、子猫がスヤスヤと眠っている。天使はいる。
◇
気配がして、ドアが開く音がした。ぬいぐるみがフワフワと浮きながら近づいてきた。頭がおかしくなったかと思ったが、現実だ。
「やっと起きたか。気分はどうだ?」
クマのぬいぐるみは生きてるみたいに口を動かして話しはじめた。目が生き物の様に動く。口から出てくるのはアスマとイシュタールが使っていた言語だという気がした。理解できる。いつの間に俺はバイリンガルになったのだろう。そもそもクマのぬいぐるみと話す俺もおかしい。ぼんやりした頭でノロノロと俺は答えた。
「私は南井克司と言います。あなたが助けてくれたのですか。ありがとうございます。ここは何処でしょうか」
「……順番に答えよう。お主を助けたのは、アモン=サグナートゥス。魔王じゃよ。そして、ここは魔王の城セーレ=ノクシス」
魔王?深夜にテレビアニメで観たことがある。異世界転生ってヤツか。あれ、やっぱり、俺は死んだのか。熱のせいか頭がぼんやりして、あぁ、そうか…と思うしかない。
「そして、我はネクロス。大魔道士ネクロスじゃ」
残念ながら、ネクロスさんの声は大魔道士のイメージとかけ離れたアニメ声だ。威厳はまるでない。そもそも自分から大魔道士って言うかなぁ。ぬいぐるみだし。俺はぼんやりとしたまま、尋ねた。
「ネクロスさん、俺、訳がわかりません。俺は死んだのですか。これからどうなるのでしょうか」
「魔王の血を受けて生き延びたのだ。お主はもう魔王の眷属…少なくとも人族ではないな」
「人族ではない?人間じゃないってことですか?」
「アモンがお主を助けた時、お主の血の色は赤紫だった。既にお主は魔と交わっていたのだろう。魔王の血が覚醒すれば、青紫や青に深化するかもしれんな」
「血が混じって人間じゃなくなるってのがよくわかりません。俺は何になったんですか?いきなり魔族になるっておかしくないですか(そもそも会話の内容がおかしいのだが)」
「何になったかのう。そうさな、人族でも魔族でもない、敢えて言うなら、『魔人』だろうかの」
「うーん、なんとも受け入れがたいですね」
「まあ、そうじゃろう。これまで飛ばされてきたワタリは、世界を渡る際に何かの特殊能力を得ることが多い、お主も何かは得ているはずじゃ。この世界で生きるための能力をな。加えて魔王の血を受けて生き延びたのだ、世界がほっとかん」
ワタリとは、異世界へ渡ってきた人や動物を指すらしい。魔王は俺を血の力で救ったが、俺には魔王の血を受入れる素養があったそうだ。血を受けても合わなければ、マイナスに働いてしまうのだ。合わない血液を輸血したようなものだろうか。
ネクロスさんと話すうちに熱がひいてきたようだった。
『魔人』というのは魔族でもあり、人族でもある存在。とりあえずそういう理解でいることにした。ハーフみたいなもんだろうか。ネクロスさんから明日は魔王に謁見できると言われた。命の恩人には違いない。しっかり礼は言わなければ。俺は思ったより落ち着いていた。
部屋の外に出た。ネクロスさんに先導されて一緒に飛ばされてきた物を見に行く。俺は見た途端、視界がひらける思いだった。飛ばされてきた物とは、離れの建物、鶏小屋、果樹に畑。そして、タロウだった。思わず駆け寄って抱きしめた。タロウも千切れんばかりに尻尾を振って応えてくれた。鶏たちが忙しなく鳴いている。この時、俺は強く思った。タロウとこの離れを守っていこうと。鶏の世話をしていたら、日が暮れた。明日は謁見だ。
◇
広間は黒い大理石のような素材でできていた。魔王の玉座の前には階段があり、魔王は大分高い位置に座っている。TVで観る玉座のお決まりのパターンだ。左右に何人か魔族が立って控えている。人の形をしているが、どこか違った雰囲気を感じた。俺は玉座に対して片膝をつき、顔を上げずに声のかかるのを待った。魔王とは言え、命の恩人かもしれない。凡その形式はネクロスさんから聴いていた。失礼があってはならない。
「面をあげよ」
深みのある声だ。何だか安心できる響きがあった。カリスマってのは声にも表れるのかもしれない。魔王の問いに俺が答えてゆく形で謁見はすすんだ。分かったことは以下の通り。
•この世界には魔法が存在し、魔素に満ち溢れていること。
•人族、魔族の他にも様々な種族が生きていること。
•元の世界に帰れる可能性は非常に低いこと(別のゲートが開いても元の時代、場所に繋がるか分からないこと)。
•魔王が俺に血を分けたが、魔王の特殊能力で、血を起爆剤に生命力を得ることができること。魔王以外にも高等種族はできるらしい。
•『血の契約』とは、血を互いの身体に流す者同士が信頼関係により血の効果を高めるものであること。魔王の特殊能力。
•『血盟』とは、『血の契約』を結んだ者同士がさらに、生死を賭けるような状況に陥った時、発現する様々な奇跡や取得する特殊能力の総称。魔王の特殊能力。
•魔王と子猫の母であるバルナは『血盟』を結んでいる。そして、俺と子猫も『血盟』を既に結んでいること。
•俺が魔族の言葉を理解できるのも血のチカラであること。
ややこしいが、まとめると魔王の血のおかげで俺は命拾いしたらしい。子猫との『血の契約』と『血盟』は恐らく出会った時とアスマ•イシュタールに襲われた時かと思う。子猫が濡れていたのは雪のせいではなく、怪我だったのかもしれない。俺も子猫を捕まえようと怪我をした。運動能力や車の下敷きになっても五体満足でいれたのはそのおかげだろう。
俺は魔王に、子猫との出会い、アスマとイシュタールとの戦闘、2人の最期について話した。俺の左右の魔族達は黙って聴いていた。そして、魔王は、部下のゴタゴタに巻き込んでしまったと俺に詫びた。何人かの魔族がピクリと動いた気がした。そして、魔王城の西の園に住むことを許された。もちろん、離れもそのまま、タロウも一緒だ。




