第二話 『30歳、自己紹介で人生を変える』
後悔を抱えながら社会人生活を送っていたある日、事故をきっかけに目を覚ますと……
そこは高校2年生の春。
鏡を見ると17歳の自分。
体は高校生。
しかし中身は30歳。
営業で鍛えたコミュ力。
仕事で身につけた交渉術。
社会人として培った責任感。
あの頃とは違う。
もう、誰とも目を合わせられなかった僕じゃない。
今度こそ——
青春を、最高の形でやり直す。
第二話
『30歳、自己紹介で人生を変える』
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朝。
「……本当に戻ってきたのか。」
目を開けると、見慣れた白い天井ではない。
木目調の天井。
昔使っていた青いカーテン。
勉強机。
野球選手のポスター。
高校二年生の頃、自分の部屋だった。
昨日は夢じゃなかった。
俺は本当に、17歳に戻っている。
「悠斗ー! 起きなさい!」
階下から母さんの声が聞こえた。
(……懐かしい。)
30歳になって一人暮らしを始めてからは、誰かに起こされることなんてなかった。
「今行くー!」
自分でも驚くくらい大きな声が出た。
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階段を降りると、味噌汁の匂いが広がる。
「今日は早いじゃない。」
母さんが笑う。
17歳の頃は、この笑顔を当たり前だと思っていた。
でも30歳の俺は知っている。
あと数年後、父さんが病気になり、母さんは仕事と介護を両立するために必死になる。
何も知らずに甘えていた高校時代。
(今なら……。)
「母さん。」
「ん?」
「毎日ありがとう。」
箸を持つ手が止まった。
「……急にどうしたの?」
「いや、なんとなく。」
「変な子。」
笑いながらも少し照れたような母さん。
(こういう一言、昔の俺は言えなかったな。)
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通学路。
制服姿の高校生たち。
部活へ向かう生徒。
自転車を押しながら話すカップル。
「青春だな。」
思わず笑ってしまう。
すると後ろから声がした。
「橘!」
振り返ると、小林が自転車で近づいてくる。
「昨日のお前、マジで変だったぞ。」
「そう?」
「女子と普通に話してたじゃん。」
「……。」
そんなことが話題になるくらい、昔の俺は女子と話さなかった。
「まぁ、人って変わるから。」
「なんだよその大人みたいな言い方。」
(大人だからな。)
心の中でツッコむ。
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教室。
ガヤガヤと朝のホームルーム前。
担任の山口先生が教壇へ立つ。
「今日は転校生……じゃない。」
クラスが笑う。
「昨日休みだった生徒もいるから、改めて一人ずつ自己紹介をしてもらう。」
(自己紹介か。)
高校時代の俺なら最悪のイベントだった。
名前を言うだけで声が震える。
目線は床。
「よろしくお願いします。」
それだけ。
クラスの誰にも印象は残らなかった。
でも今は違う。
営業で何百回も自己紹介をしてきた。
「緊張している人ほど、笑顔で話しかける。」
それが基本だ。
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順番が回ってくる。
「じゃあ橘。」
教室中の視線が集まる。
昔なら足が震えていた。
でも今は違う。
立ち上がり、教室を見渡す。
「橘悠斗です。」
まず笑顔。
声は少し大きめ。
「趣味は野球観戦とゲーム。」
クラスメイトが頷く。
「あと、人の話を聞くのが好きです。」
「だから困ったことがあったら、いつでも話しかけてください。」
教室が静かになる。
「一年間、よろしくお願いします。」
軽く頭を下げる。
拍手。
「……え?」
拍手?
高校時代にはなかった。
席へ戻ると、小林が小声で言う。
「お前、いつそんなキャラになった?」
「昨日寝たら変わった。」
「何それ。」
笑いが起きる。
その空気が心地いい。
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休み時間。
「あの……橘くん。」
女子が二人近づいてきた。
「数学得意?」
(来た。)
高校時代。
女子から話しかけられたことなんてほぼゼロ。
「少しなら。」
「教えて!」
「もちろん。」
自然に椅子を引く。
教えるときも、営業で身につけた説明の仕方を思い出す。
「ここは公式を覚えるより、意味を考えた方が分かりやすいよ。」
「なるほど!」
「分かりやすい!」
二人は笑った。
「ありがとう!」
去っていく二人。
教室の男子たちがこちらを見る。
「橘……。」
「お前モテ期?」
「違う違う。」
(いや、違わないか。)
昔の俺なら「教えて」と言われただけで頭が真っ白だった。
30歳の経験は、高校では反則級だ。
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昼休み。
屋上。
一人で弁当を食べる。
そこへ朝比奈美月がやって来た。
「ここにいた。」
「どうしたの?」
「隣、いい?」
「もちろん。」
昔の俺なら、心臓が爆発していた。
でも30歳の俺は落ち着いていた。
「昨日から思ってたんだけど。」
朝比奈が言う。
「橘くん、なんか変わったよね。」
「そうかな。」
「うん。」
少し考えてから笑う。
「なんか、大人っぽい。」
その一言に、俺は苦笑した。
(そりゃ中身30歳だからな。)
もちろん、そんなことは言えない。
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放課後。
校門を出ようとした時だった。
「待って!」
朝比奈が走ってきた。
「今日のお礼。」
小さな紙パックのジュースを差し出す。
「数学教えてくれたから。」
「ありがとう。」
「また分からないところ教えてね。」
そう言って走っていく。
その背中を見送りながら、俺は空を見上げた。
高校時代の俺なら、この出来事だけで一週間は浮かれていただろう。
でも今は違う。
浮かれるより先に思うことがある。
「人との距離って、勇気を出して一歩近づくだけで、こんなに変わるんだな。」
前の人生では、その一歩を踏み出せなかった。
だからこそ、今度は焦らず、一つひとつの出会いを大切にしていこう。
そんな決意を胸に、夕日に染まる通学路を歩き始めた。
次回予告
第三話「30歳、初めての放課後デート(?)」
朝比奈に「今度、一緒に本屋さんへ行かない?」と誘われた主人公。高校時代なら絶対に断っていた誘い。しかし、30歳の経験を持つ彼は落ち着いて応じる。一方で、未来の記憶を知る主人公は「この出会いが、本当に彼女の幸せにつながるのか」と迷い始める――。物語は少しずつ、青春だけではない「未来を変える責任」へと進んでいく。




