表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
八章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
191/280

第190話 第六層が触れる存在線

 未知の輪郭が揺動域を支配した直後、空間の奥で響いた“声”は、音として聞こえたわけではなかった。

耳ではなく、胸の奥のもっと深い場所――思考の根っこに直接触れるような感触だった。

触れられた瞬間、三人の意識がわずかに揺れ、その揺れが空間の粒へ伝わった。


 粒は、声に反応して震えた。

震えは未来層の反応とも違い、第四層の拒絶とも違い、第五層の測定とも違った。

ただ“存在そのものを撫でられた”ような、説明しづらい優しい刺激だった。


 リーナは胸の奥を押さえ、息を詰めた。


「……今の……声……? 聞こえたというより……触れられた……そんな感じ……」


 カイは眉を寄せ、周囲の揺れを見渡した。


「……声じゃない……でも確かに“何か”が来た……俺たちの存在に触れた……」


 アークは未知の輪郭を見つめながら、低く言った。


「第六層……だろうな。未来層でも第四層でも第五層でもない……もっと深い層が反応した。」


 影は静かに頷いた。


「第六層の接触反応を確認。」


 未知の輪郭は、声に呼応するように形を変えた。

変わる形は、線でも面でもなく、ただ“存在の方向”だけを示すような奇妙な伸び方だった。

その伸びた方向は、三人の立っている位置とはまったく別の場所へ向かっていた。


 リーナはその方向を見て、息を飲んだ。


「……あっち……? なんで……核でも揺動域でもなく……あっちを向くの……?」


 カイは輪郭の伸びる方向を読み取り、声を落とした。


「第六層は……俺たちを見てるんじゃない……“俺たちのいない場所”を見てる……」


 アークは輪郭の中心を観察しながら言った。


「存在線だ。第六層は……存在の“線”を読んでる。俺たちの位置じゃなくて……俺たちが“本来いるはずだった場所”を。」


 影は短く言った。


「存在線の形成を確認。」


 存在線は、空間の奥へ向かって細く伸びた。

伸びるたびに、周囲の粒がわずかに沈み、その沈みが三人の体へ触れた。

触れられた体は、位置が揺らぐでもなく、引かれるでもなく、ただ“自分の輪郭が薄くなる”ような奇妙な感覚を覚えた。


 リーナはその薄まり方に耐えながら、声を震わせた。


「……体の輪郭が……薄くなってる……これ……第六層が……私たちの存在を……測ってる……?」


 カイは胸の奥を押さえ、息を整えた。


「測ってる……というより……“本来の位置”を探してる……そんな感じだ……」


 アークは存在線の揺れを見ながら言った。


「第六層は……俺たちの存在がこの世界の設定にないことを……理解してる。だから……本来の位置を探してる。」


 影は静かに言った。


「存在線の探索反応を確認。」


 存在線がさらに伸びると、空間の奥で“別の影”が揺れた。

その影は未来層の粒でも第四層の膜でも第五層の輪郭でもなく、ただ“誰かの気配”だけを持っていた。

気配は形を持たず、声もなく、ただ存在線の先で静かに揺れていた。


 リーナはその気配を見て、息を詰めた。


「……誰か……いる……?」


 カイは気配の揺れを読み取り、声を落とした。


「いや……“誰か”じゃない……これは……」


 アークは気配の中心を見つめながら言った。


「存在線が示しているのは……俺たちの“代わりに存在していたはずの何か”だ。」


 影は短く言った。


「代替存在の可能性を確認。」


 気配は、存在線の先でゆっくりと濃くなった。

濃くなるたびに、空間の粒がわずかに震え、その震えが三人の体へ触れた。

触れられた体は、輪郭が薄くなるのではなく、逆に“濃くなる”ような奇妙な感覚を覚えた。


 リーナはその濃さに耐えながら、声を震わせた。


「……今度は……濃くなってる……! なんで……?」


 カイは胸の奥を押さえ、息を整えた。


「第六層が……俺たちの存在を“補正”しようとしてる……!」


 アークは気配の中心を見ながら言った。


「存在線が示した代替存在……それと俺たちを重ねようとしてるんだ。」


 影は静かに言った。


「存在補正の開始を確認。」


 気配がさらに濃くなった瞬間、空間の奥で“別の声”が響いた。

今度の声は、胸の奥ではなく、頭の内側へ直接触れてきた。

触れられた瞬間、三人の視界がわずかに揺れ、その揺れが空間の粒へ伝わった。


 リーナは頭を押さえ、息を詰めた。


「……また……声……!」


 カイは揺れる視界を必死に保ちながら言った。


「第六層じゃない……これは……もっと深い……!」


 アークは声の方向を探しながら言った。


「第六層の奥……第七層だ。」


 影は静かに言った。


「第七層の反応を確認。」


 第七層の声が、三人の存在へ触れた。


 その瞬間、空間のすべての層が、同時に揺れた。


 揺れは未来層でも第四層でも第五層でも第六層でもない、まったく新しい“存在の震え”だった。


 全層が同時に揺れた瞬間、空間は“ひとつの世界”ではなく、複数の層が重なった巨大な構造物のように見えた。

未来層の硬質な粒、第四層の拒絶膜、第五層の測定輪郭、そして第六層の存在線、それらが一斉に震え、互いの境界を曖昧にしながら混ざり合った。


 混ざり合うというより、それぞれが「自分の層を守ろうとする反応」を同時に起こし、その結果、空間全体が“どこにも属さない揺れ”になった。


 揺れは、地面でも空でもなく、ただ“存在の背景”そのものが震えているような感触だった。


 リーナはその震えに耐えながら、声を震わせた。


「……これ……世界が……全部揺れてる……! どの層が揺れてるとかじゃなくて……全部……!」


 カイは揺れの中心を見つめ、呼吸を整えた。


「層同士が……互いにぶつかってる……未来層も第四層も第五層も……全部が……自分の位置を守ろうとしてる……!」


 アークは揺れの奥を観察しながら、低く言った。


「第七層の声が……全層を刺激したんだ。第七層は……層の“根本構造”に触れる層だ。」


 影は静かに言った。


「全層の構造反応を確認。」


 揺れは、ただ震えるだけではなかった。

震えるたびに、空間の粒が“別の層の性質”を一瞬だけ借りてしまい、その借りた性質が周囲へ伝わって、さらに揺れを複雑にした。


 未来層の粒が第四層の拒絶を帯び、第四層の膜が第五層の測定を帯び、第五層の輪郭が第六層の存在線を帯びる。


 そして第六層の存在線が、第七層の声を帯びた。


 リーナはその変化を見て、息を詰めた。


「……層が……混ざってる……! こんなの……ありえない……!」


 カイは揺れの中心を見据えた。


「第七層が……全部の層を“同じ場所”に引き寄せてる……!」


 アークは輪郭の揺れを見ながら言った。


「層が混ざると……世界の設定が壊れる。俺たちが“存在しなかった理由”が……ここで露出する。」


 影は静かに言った。


「設定崩壊の兆候を確認。」


 揺れがさらに強くなると、空間の奥で“ひび割れ”が走った。

ひび割れは物理的なものではなく、世界の設定そのものに入った裂け目だった。


 裂け目は、未来層の粒を吸い込み、第四層の膜を飲み込み、第五層の輪郭を巻き込み、そして第六層の存在線を引きずり込んだ。


 リーナはその裂け目を見て、声を震わせた。


「……世界の設定が……壊れてる……!」


 カイは拳を握りしめた。


「設定が壊れたら……俺たちの存在がどうなる……?」


 アークは裂け目の中心を見つめながら言った。


「“存在しなかった”という設定が……消えるかもしれない。逆に……強化されるかもしれない。」


 影は静かに言った。


「設定変動の可能性を確認。」


 裂け目がさらに広がると、その奥から“誰かの影”がゆっくりと浮かび上がった。


 影は形を持たず、声もなく、ただ“そこにいるはずだった存在”の気配だけを持っていた。


 リーナはその影を見て、息を詰めた。


「……この影……さっきの……代替存在……?」


 カイは影の揺れを読み取り、声を落とした。


「存在線が示した……“俺たちの代わりに存在していたはずの何か”……」


 アークは影の中心を見ながら言った。


「第七層が……代替存在を呼び出したんだ。世界設定の“本来の形”を取り戻そうとしてる。」


 影は静かに言った。


「代替存在の顕現を確認。」


 代替存在は、揺れの中でゆっくりと濃くなった。

濃くなるたびに、空間の粒がその存在へ引き寄せられ、三人の体から“何か”が抜け落ちていくような感覚が走った。


 リーナは胸の奥を押さえ、声を震わせた。


「……なんか……抜けてる……! 私の……存在の一部が……!」


 カイは体を支えながら言った。


「代替存在が……俺たちの“本来の位置”を奪おうとしてる……!」


 アークは影の中心を見つめながら言った。


「第七層は……世界設定を修正しようとしてる。俺たちを“存在しなかった状態”へ戻すために。」


 影は静かに言った。


「存在修正の開始を確認。」


 代替存在が三人へ向かって手を伸ばした。

手は形を持たず、ただ“存在の方向”だけを示していた。


 その方向が三人へ触れようとした瞬間、空間の奥で、まったく別の“光”が走った。


 光は層でも存在線でもなく、世界設定の外側から差し込んだ“異物”だった。

面白いと思ったら、ページ下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ