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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
八章

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第186話 未来層の乱れ始動

 未来断片の核が姿を現した瞬間、周囲の空間が一斉にざわめいた。

ざわめきといっても音ではなく、空気の粒が互いに擦れ合うような、微細な震えが全方向へ広がる奇妙な感触だった。

その震えは、現界の層を未来側の層へ引き寄せる“乱れ”の始まりだった。


 乱れが広がると、空間の表面が薄く波打った。

波打つたびに、空気の密度が変わり、呼吸の感触がわずかに重くなる。

重さは圧力ではなく、未来側の層が現界へ混ざり込むことで生まれる“性質の変化”だった。


 リーナはその変化を胸の奥で受け止め、息を整えた。


「……空気が……未来の層に引っ張られてる……ここ……もう普通の空間じゃない……」


 カイは乱れの中心を見つめながら、肩を強張らせた。


「……未来の層が混ざると……動きが鈍る……このままじゃ戦えない……」


 アークは核の周囲を観察しながら、低く言った。


「未来断片は、核を中心に乱れを広げてる。乱れが広がれば……現界の動きが全部“未来の側の性質”に変わる。」


 影は核の揺れを見つめたまま、短く言った。


「乱れの拡張速度が上昇。」


 乱れは、ただ広がるだけではなかった。

広がるたびに、空間の表面が“別の層”へと変質していく。

その層は、未来の側が作った新しい性質を持ち、触れたものの動きを読み取り、別の方向へ流し直す力を持っていた。


 リーナはその流し直しの力に触れた瞬間、体がわずかに引かれた。


「……また……勝手に動かされる……!」


 カイはリーナの腕を掴み、引き戻した。


「乱れの層に触れると……動きが奪われる……気をつけろ……!」


 アークは乱れの縁を見ながら言った。


「未来の層は、こっちの動きを“素材”にしてくる。動けば動くほど、乱れが強くなる。」


 影は短く頷いた。


「乱れ層の干渉強度が増加。」


 乱れの奥で、未来断片が再び動いた。

動いたというより、核の周囲に集まった未来側の粒が、空間の表面を押し広げて“新しい形”を作ろうとしているような動きだった。


 リーナはその動きを見て、息を詰めた。


「……形になる……!」


 カイは核の揺れを見据えた。


「未来断片が……乱れを使って攻撃してくる……!」


 アークは核の周囲の粒を見ながら言った。


「未来の側が形を作るなら……その形が完成する前に動くしかない。」


 影は静かに言った。


「形状形成の初期段階を確認。」


 未来断片の粒が集まり、ゆっくりと厚みを持ち始めた。

厚みは肉体ではなく、存在の圧力として空間に滲み出た。

圧力が滲むたびに、乱れの層が波のように揺れ、その揺れが周囲の空間を震わせた。


 リーナは揺れる乱れの中で、声を絞り出した。


「……これ……避けるだけじゃ無理……乱れが全部動きを変えてくる……!」


 カイは乱れの揺れを見据えた。


「避けるんじゃなくて……乱れそのものを“壊す”……!」


 アークは未来断片の核を見ながら言った。


「核が乱れを作ってる。核を叩けば……乱れは崩れる。」


 影は短く言った。


「核の位置を固定。」


 乱れの奥で、未来断片の核がわずかに濃くなった。

濃くなるたびに、周囲の空間が未来側の性質へ引き寄せられ、現界の層が薄く削られていく。

削られた層は、未来の側へ吸い込まれるように消えていった。


 リーナはその削れ方を見て、声を震わせた。


「……空間が……未来に食われてる……!」


 カイは拳を握りしめた。


「食われる前に……核を叩く……!」


 アークは核の中心を見つめながら言った。


「未来の側が乱れを広げるなら……こっちは乱れを逆に利用する。」


 影は静かに言った。


「乱れ逆利用の可能性を確認。」


 乱れの層がさらに広がった。

広がるたびに、空間の密度が変わり、現界の層が未来側へ引きずられた。

引きずられた層は、触れたものの動きを奪い、別の方向へ押し出した。


 未来断片の核が、ついに三人の前へ濃い輪郭を持って現れた。


 その瞬間、周囲の空間が一気に沈み込んだ。

沈み込んだというより、空間そのものが“未来側へ引き抜かれる”ような奇妙な感触だった。

その引き抜きは、現界の層を未来層へと強制的に移動させる、乱れの第二段階だった。


 第二段階に入ると、空気の粒が互いにぶつかり合い、微細な衝突音のような震えが全方向へ広がった。

震えは耳ではなく、皮膚の内側で響く。

まるで体の奥に未来層が入り込んでくるような、説明しづらい侵食感だった。


 リーナはその侵食感に耐えながら、胸の奥を押さえた。


「……体の中まで……未来の層が触れてきてる……これ……長くは持たない……」


 カイは乱れの中心を見つめ、呼吸を整えた。


「……未来の層が体の動きを読み取ってる……このままじゃ……動くたびに奪われる……」


 アークは核の周囲を観察しながら、低く言った。


「未来断片は、乱れを使って“体内の反応”まで読み取ろうとしてる。ここから先は……動きだけじゃなくて、意識まで試される。」


 影は核の揺れを見つめたまま、短く言った。


「乱れの侵入深度が上昇。」


 乱れは、空間だけでなく、三人の体の周囲にも薄い膜のように広がった。

膜は触れたものの意識の方向を読み取り、その方向を別の角度へ曲げる性質を持っていた。

曲げられた意識は、動きと連動して乱れを強化する。


 リーナはその膜に触れた瞬間、視界がわずかに傾いた。


「……視界まで……曲げられてる……!」


 カイはリーナの肩を支え、乱れの膜を避けるように動いた。


「乱れの膜に触れると……意識が引っ張られる……危ない……!」


 アークは膜の縁を見ながら言った。


「未来の層は、こっちの“判断”を奪おうとしてる。動きだけじゃなくて、考え方まで変えられる。」


 影は短く頷いた。


「乱れ膜の干渉強度が増加。」


 乱れ膜の奥で、未来断片がさらに濃くなった。

濃くなるたびに、空間の表面が未来側の性質へと変質し、現界の層が薄く削られていく。

削られた層は、未来の側へ吸い込まれるように消えていった。


 リーナはその削れ方を見て、声を震わせた。


「……空間が……未来に飲まれてる……!」


 カイは拳を握りしめた。


「飲まれる前に……核を叩く……!」


 アークは核の中心を見つめながら言った。


「未来の側が乱れを広げるなら……こっちは乱れを逆に利用する。」


 影は静かに言った。


「乱れ逆利用の可能性を確認。」


 乱れ膜がさらに広がった。

広がるたびに、空間の密度が変わり、現界の層が未来側へ引きずられた。

引きずられた層は、触れたものの動きを奪い、別の方向へ押し出した。


 リーナは押し出される空気の中で、必死に体勢を整えた。


「……これ……避けるだけじゃ無理……!」


 カイは乱れの揺れを見据えた。


「避けるんじゃなくて……乱れそのものを“壊す”……!」


 アークは未来断片の核を見ながら言った。


「核が乱れを作ってる。核を叩けば……乱れは崩れる。」


 影は短く言った。


「核の位置を固定。」


 核がわずかに光を帯びた。

光といっても明るさではなく、存在の輪郭が濃くなるような奇妙な輝きだった。

輝きは、未来断片が乱れを維持するための中心だった。


 リーナはその輝きを見て、息を詰めた。


「……あれが……乱れの中心……!」


 カイは拳を握りしめた。


「壊すなら……今しかない……!」


 アークは核の揺れを見つめながら言った。


「未来の層が乱れを広げる前に……一気に叩く。」


 影は静かに言った。


「攻撃準備段階へ移行。」


 未来断片の核が、三人の前で濃い輪郭を持ち、ゆっくりと脈打ち始めた。

脈打つたびに、乱れの層が波のように揺れ、その揺れが周囲の空間を震わせた。

震えは、心奥ではなく、現界そのものを揺らしていた。


 未来断片の核が、ついに攻撃のための“形”を作り始めた。

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