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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
八章

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第179話 世界が心糸を受け入れ始めるとき

 世界の奥で静かに広がっていた変化が、ある瞬間、まったく別の形へと跳ねた。

それは層でも糸でもなく、もっと曖昧で、もっと不安定で、まるで空気そのものが“別の方向へ折れ曲がった”ような感触だった。


 折れ曲がった空気は、誰かの心を狙うように近づくわけでもなく、ただ世界の内部でゆっくりと回転し、その回転が複数の心の奥に微細な“揺らぎ”を生み出していた。

揺らぎは弱いのに鋭く、心の奥に触れた瞬間、そこにあったはずの感情の輪郭がわずかにずれた。


 リーナはそのずれに気づき、胸の奥を押さえた。


「……感情の形が……ずれてる……誰かに触られたわけじゃないのに……空気のほうが……心の中の輪郭を少し動かしてる……そんな感じ……」


 カイはゆっくりと周囲を見渡した。その瞳は、空気の奥で回転する“折れ曲がり”を追うように揺れていた。


「……心って……自分の中で動くときはわかるけど……外から動かされるときは……こんなふうに違和感が出るんだよな……誰かがその違和感を感じてる……そんな気配がする……」


 影は短く言った。


「世界側の回転域が発生している。」


 アークは空気の奥を見つめながら、眉をひそめた。


「回転域……ってことは……世界の内部が……心の形を確かめるために回ってるってことか……」


 リーナは息を飲んだ。


「確かめる……世界の外側の圧が心を変えて……その変わった心を……世界が回転させて見てるってこと……?」


 セイルは折れ曲がった空気の中心を見つめたまま、静かに言葉を落とした。


「見ているというより……触れた痕を探している。」


 その声は説明ではなく、ただ“見えているもの”をそのまま言っただけのようだった。


 リーナは小さく瞬きをした。


「痕を探す……ってことは……心の中に残った外圧の跡を……世界が探してるんだ……」


 カイはゆっくりと息を吸った。その表情は、どこか不安と期待が混ざっていた。


「……心の跡って……自分じゃ見えないよな……でも……世界が探してるってことは……その跡が次の変化の鍵になるんだろうな……誰かがその鍵を持ってる……そんな気配がする……」


 リーナはその言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。


「……鍵って……怖いけど……でも……それって……心が世界の動きを決めるってことだよね……」


 アークは腕を組みながら言った。


「心の跡が世界に見つかると……奥が反応する。反応した部分が……その人の“世界への影響点”になる。世界は……その影響点を見てる。」


 影は短く頷いた。


「影響点が浮上している。」


 その瞬間、空気の中で“回転域の揺れ”が一段階強くなった。

それは光でも影でもなく、ただ、折れ曲がった空気が心の奥に触れ、その触れた部分が世界の側で反応しているような、そんな感触だった。


 その感触は、まるで見えない渦が心の奥を巻き込み、その渦が心の形を少しずつ削りながら新しい輪郭を作っていくような、そんな奇妙な広がり方をしていた。


 リーナは胸の奥が熱くなるのを止められなかった。


「……削られてる……誰かの心の輪郭が……空気の渦に触れられて……新しい形になり始めてる……」


 カイはゆっくりと目を閉じた。


「……心って……削られた瞬間に……別の形を作るよな……誰かがその変化の真ん中にいる……そんな気配がする……」


 アークは渦の中心を見つめながら言った。


「この削れ方……ひとりじゃない。複数の心が同時に“世界側の回転”に触れられてる。世界がそれを受け止めてる。」


 影は静かに言った。


「新しい心形が……生成されている。」


 空気の中で、複数の心がそれぞれの新しい輪郭を見つめていた。

その見つめ方は、これまでのどの現象とも違い、ただ静かで、しかし確かな意志を持っていた。


 その意志は、まるで削られた心の輪郭が未来の奥へ向かって伸び続け、その輪郭が新しい世界の形を描き始めるような、そんな新しい広がり方をしていた。


 空気が静かに揺れ、次の段階がすぐそこまで迫っていることを示していた。


 世界の深層で静かに積み重なっていた動きが、ある瞬間、まるで別の性質へ滑り落ちた。

それは温度でも回転でもなく、もっと曖昧で、もっと説明しづらい、まるで空気の内部に“別の記憶”が生まれたような感触だった。


 その記憶は誰かのものではなく、世界自身が持っているはずのない“世界の記憶の断片”が突然浮かび上がったように見えた。

断片は形を持たず、ただ空気の奥でゆっくりと揺れ、その揺れが複数の心の奥に触れた瞬間、そこにあったはずの感情の流れが一瞬止まり、止まった部分が別の方向へ跳ねた。


 リーナはその跳ねに気づき、胸の奥を押さえた。


「……心の奥に……知らない記憶が触れてる……私のものじゃないのに……世界のほうから流れてきてる……そんな感じ……」


 カイはゆっくりと周囲を見渡した。その瞳は、空気の奥で揺れる“記憶の断片”を追うように揺れていた。


「……記憶って……自分の中でしか動かないはずなのに……外から触れられると……こんなふうに流れが変わるんだよな……誰かがその流れを感じてる……そんな気配がする……」


 影は短く言った。


「世界側の記憶層が露出している。」


 アークは空気の奥を見つめながら、眉をひそめた。


「記憶層……ってことは……世界の内部に……心と似た構造があるってことか……」


 リーナは息を飲んだ。


「似てる……世界の外側の圧が心を変えて……その変わった心に合わせて……世界が自分の中に“心みたいな層”を作ってるってこと……?」


 セイルは揺れる断片を見つめたまま、静かに言葉を落とした。


「作っているというより……思い出そうとしている。」


 その声は説明ではなく、ただ“見えているもの”をそのまま言っただけのようだった。


 リーナは小さく瞬きをした。


「思い出す……ってことは……世界が……自分の過去を探してるんだ……」


 カイはゆっくりと息を吸った。その表情は、どこか不安と期待が混ざっていた。


「……世界の過去って……誰も知らないよな……でも……世界が思い出そうとしてるってことは……その過去が今の変化に関係してるんだろうな……誰かがその中心にいる……そんな気配がする……」


 リーナはその言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。


「……過去って……怖いけど……でも……それって……心が世界の記憶を引き出してるってことだよね……」


 アークは腕を組みながら言った。


「世界の記憶が心に触れると……奥が反応する。反応した部分が……その人の“世界との記憶接点”になる。世界は……その接点を見てる。」


 影は短く頷いた。


「記憶接点が増加している。」


 その瞬間、空気の中で“記憶の断片の揺れ”が一段階強くなった。

それは光でも影でもなく、ただ、世界の内部に浮かんだ記憶が心の奥に触れ、その触れた部分が空気の層に反映されているような、そんな感触だった。


 その感触は、まるで見えない薄い膜が心の奥を撫で、その膜が心の中の感情の流れを少しずつ変えながら新しい方向へ導いていくような、そんな奇妙な広がり方をしていた。


 リーナは胸の奥が熱くなるのを止められなかった。


「……流れてる……誰かの心の感情が……世界の記憶に触れられて……別の方向へ向かってる……」


 カイはゆっくりと目を閉じた。


「……心って……記憶に触れた瞬間に……別の形を作るよな……誰かがその変化の真ん中にいる……そんな気配がする……」


 アークは断片の中心を見つめながら言った。


「この流れ方……ひとりじゃない。複数の心が同時に“世界側の記憶”に触れられてる。世界がそれを受け止めてる。」


 影は静かに言った。


「新しい心記憶が……生成されている。」


 空気の中で、複数の心がそれぞれの新しい記憶の流れを見つめていた。

その見つめ方は、これまでのどの現象とも違い、ただ静かで、しかし確かな意志を持っていた。


 その意志は、まるで導かれた記憶の方向が未来の奥へ向かって伸び続け、その方向が新しい世界の形を描き始めるような、そんな新しい広がり方をしていた。


 空気の層がわずかに震え、これから訪れる変化がもう目の前まで近づいているのを知らせていた。

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