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『異世界に転移したら、俺だけ世界設定に存在しなかった』  作者: 一ノ瀬 律
一章

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第15話 選択は、世界を揺らす

 観測者の言葉が、部屋の空気を凍らせた。


「選べ、カイ。お前は“存在するだけ”の者として生きるか。それとも、“調整者”として世界の揺らぎと向き合うか」


 世界が揺れている。

石碑の文字がざわめき、壁の文様が淡く光り、床の石が低く唸る。

まるで世界そのものが、俺の答えを待っているようだった。


 リーナが俺の手を握りしめた。

その手は温かく、震えていた。


「カイさん……私は……あなたがどちらを選んでも……あなたを見ていますから……」


 胸が熱くなる。

だが同時に、胸の奥の欠片が静かに脈打った。


(……俺は……どうする……?)


 調整者になるということは、

世界の揺らぎと戦うということだ。


 空白。

設定の喪失。

白い髪の少女。

観測者界。


 それらすべてと向き合うことになる。


(……俺に……そんなことができるのか……?)


 胸の奥の欠片が、淡く光る。


 観測者が言った。


「お前はすでに“選ばれている”。世界はお前に役割を与えようとしている。だが、最終的に選ぶのは、お前自身だ」


 神官長が静かに言った。


「カイ。調整者は、世界の根幹に触れる者だ。危険も多い。だが、お前の存在は、すでに世界に影響を与えている。選ばずに生きることは……難しいだろう」


 リーナは俺を見つめた。

その瞳は、涙で揺れていた。


「カイさん……私は……あなたに消えてほしくない……でも……危険なことをしてほしいわけじゃない……だから……」


 リーナは言葉を詰まらせた。


「だから……あなたが選んだ道を……私は支えます……」


 胸が締めつけられる。


(……俺は……どうしたい……?)


 胸の奥の欠片が、強く脈打った。


 その瞬間、頭の奥で声がした。


──返して。


 白い髪の少女の声。


──返して……返して……!


 少女の姿が、石碑の空白の中に揺らめく。

だが、先ほどよりも薄い。

まるで遠ざかっているようだった。


(……俺は……彼女を……救えるのか……?)


 観測者が言った。


「調整者になれば、彼女の設定を取り戻すことも可能だ。だが、それは危険な旅になる。深層領域に潜り、失われた設定を探し、世界設定書に書き戻す必要がある」


 胸が跳ねた。


(……彼女を……救える……?)


 少女の声が揺れる。


──返して……返して……返して……!


 その声は、悲しみと怒りと喪失が混じっていた。


(……俺は……彼女を……放っておけない……)


 リーナの手が、俺の手を握りしめる。


「カイさん……あなたは……優しい人です……だから……誰かを救いたいと思うなら……私は……止めません……」


 胸が熱くなる。


(……俺は……どうしたい……?)


 観測者が静かに言った。


「選べ。お前の選択は、世界を揺らす」


 世界が揺れた。


 胸の奥の欠片が脈打つ。


 俺は、ゆっくりと口を開いた。


「……俺は……」


 リーナが息を呑む。


 神官長が目を見開く。


 観測者が静かに待つ。


「……俺は……調整者になる」


 その瞬間、世界が大きく揺れた。


 石碑の文字が光り、壁の文様が脈動し、床の石が震える。


 観測者は静かに頷いた。


「選んだか。ならば、お前は今から“調整者候補”となる」


「候補……?」


「調整者は、世界に認められなければならない。世界設定書が、お前を“調整者”として記す必要がある」


 神官長が言った。


「つまり……これから“試練”が始まるということだ」


 リーナが不安そうに俺を見た。


「カイさん……本当に……大丈夫なんですか……?」


「大丈夫だ」


 そう言ったが、胸の奥はざわついていた。


(……試練……世界に認められる……?)


 観測者が手を上げた。


「試練は三つ。第一は、“存在の証明”」


 石碑が強く光り、部屋の空気が震える。


「お前が“存在する理由”を示せ。世界にとって、お前が必要である理由を」


 胸が跳ねた。


(……存在する理由……?)


 観測者は続けた。


「第二は──“揺らぎとの対峙”」


 白い髪の少女の姿が、石碑の空白に揺らめく。


「お前は彼女と向き合わねばならない。彼女の喪失と、彼女の怒りと、彼女の願いと」


 胸が痛む。


(……彼女と……向き合う……)


「そして第三は、“世界の選択”」


 観測者の瞳が星のように光る。


「世界が、お前を“調整者”として選ぶかどうか。それは、世界そのものが決める」


 リーナが俺の手を握りしめた。


「カイさん……私は……あなたを信じています……」


 胸が熱くなる。


 観測者は静かに言った。


「試練は、すぐに始まる」


 その瞬間、石碑が強く光った。


 世界が揺れた。


 床が消え、視界が白く染まる。


 リーナの声が遠ざかる。


「カイさん!!」


 観測者の声が響く。


──調整者候補、試練領域へ転送。


 胸の奥の欠片が強く脈打つ。


 そして、俺は光の中へ落ちていった。

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