第47話 買い物デート②
「なぁ、いつまで腕組んでるつもりだよ?」
やっぱり和花も愛理も人目を引く容姿だからか、すれ違う人たちの視線が痛い。
もしかして同じ学校の連中と鉢合わせるんじゃないかと、内心ヒヤヒヤしていた。
「何よ! 私たちと腕組むの嫌なの?」
「そうね、こんな美少女二人を連れて歩いてるのに、何が不満なのかしら」
「いや、嫌なわけじゃないけど……。ていうか、自分で美少女って言うか普通」
「あら、間違ってないでしょ? ね、和花さん?」
「え? わ、私、び、美少女……。へ、へへ……」
和花の陰キャスイッチがまたしても入った。
愛理ももう慣れたのか、前みたいに慌てることはなかった。
むしろ、俺にそっと耳打ちしてきた。
「ほら、蓮くん。和花さんの頭撫でて褒めてあげて」
「え? 急に?」
「ほら、早く」
一体何なんだ。
愛理がそっと腕を離してくれた。
俺は左手を伸ばし、和花の頭を撫でた。
「誰が見ても和花は美少女だろ。こんなに可愛いし、ギャルっぽくオシャレしてるし」
「へ、へへ……。そ、そう? ちょっと嬉しいかも。私、ちゃんと蓮に釣り合ってる?」
「むしろ周りから見たら、俺にはもったいないって言われると思うぞ?」
「へ、へへ、へへへ……。そ、そうなんだ……」
和花の口元は、だらしなく緩みっぱなしだった。
愛理が何か納得したように、うんうんと頷いた。
「なるほど、陰キャモードはすなわち和花さんのデレモードってわけね」
いつの間にか、和花はすっかり研究対象になっていた。
◇
駅前のモールに入り、水着コーナーを見て回った。
やはり人気のデザインは品薄になっていたが、それでも結構残っていた。
「じゃあ、まず誰のから買う?」
「あんたからよ。私たちが選んであげるから!」
「そうね、ハーレムヒロインにはそれくらいの権利があると思うわ」
いや、ハーレムヒロインって。
奴隷ヒロイン志望から、さらに一歩踏み込んだような気がする。
それより、なぜ和花は黙っているんだ。
普段ならすかさずツッコミを入れるはずなのに。
「まあ、分かった。男の水着なんてどれも似たようなもんだし」
「分かってないわね、蓮! 男の水着だって結構種類あるんだからね?」
「男の子は下しかないから、むしろ女の子よりも目立つかもしれないわよ」
「そうなのか……?」
よく分からないが、こういうのは女の子の方が詳しいだろう。
素直に二人へ委ねることにした。
メンズの水着売り場に入るなり、二人はそれぞれ別のラックへ散っていった。
やがて、二人が違うデザインの水着を持って戻ってきた。
「やっぱり男の水着はこれが無難でしょ!」
「え? 何言ってるの、和花さん。こっちの方が男らしくてセクシーじゃない」
「は? 先輩、そういうのは着こなすのが難しいんですよ。見る側としても、変に目のやり場に困りますし」
「分かってないわね、和花さん。蓮くんはスリムな体型だから、十分着こなせるわ」
「いや、スリムですけど筋肉がちょっと足りないじゃないですか。だから変に冒険するより、無難な方がいいんです」
和花はルーズなサーフパンツを、愛理はぴったりとしたボクサータイプの水着を持ってきて、二人は熱い討論を繰り広げ始めた。
どちらかの肩を持つわけにもいかないので、結局俺は両方とも試着してみることにした。
まずは和花のサーフパンツから。
「どう?」
「うん、やっぱり男はシンプルで無難なのが一番! よく似合ってるじゃない」
「似合ってはいるけど、無難すぎるわ」
「じゃあ、次行くよ」
今度は愛理が選んだボクサータイプを着て出てきた。
すると、なぜか和花の顔が少し赤らんだ。
「お、思ってたより似合ってはいるけど……。や、やっぱりこれはエ、エッチすぎるからダメ!」
「そうね、ちょっと刺激が強いかも。こんなエッチなの、他の女の子に見られるのは少し嫉妬しちゃうわ」
おかしいな、俺と彼女たちとで、見えているものがそんなに違うのか。
どうしてエロいなんて評価になるんだ。
裸の王様の逆バージョンか?
「じゃあ、和花が選んだ方を買うぞ?」
「うん」「分かったわ」
念のため、同じデザインで色違いのものをもう一枚選び、二着分を会計した。
「さて、次は誰?」
「わ、私がやる! 嫌なことは先に済ませた方がいいって言うし」
「水着選ぶのが、どうして嫌なことなんだよ……」
「ふふ、それは私と比較されるのが怖いからでしょ、蓮くん。特にここが」
愛理が自身の胸のあたりを指でツンツンと突いた。
和花が反論できず、「うっ……!」と呻いた。
「私だって決して小さい方じゃないのに……! おかしい、相対的貧乳……!!」
元々こういう話題に男が首を突っ込んでもろくなことはない。
俺は聞こえないふりをして、レディースの水着売り場へと足を向けた。
愛理が俺の耳元で囁いた。
「気まずくない?」
「いや、別に。俺一人で来たわけでもないし」
「そう? やっぱり彼女がいたことあると、違うものね」
「別にそれとは関係ないと思うけど……。下着売り場でもないし」
「あら、下着売り場は恥ずかしいの?」
「下着売り場だと、俺より周りの女性客の方が気を遣うだろうからさ」
その時、和花が俺の袖を掴んで言った。
「何してるの? 早く選んでよ」
「え? 俺が最初から?」
普通は女の子が先にいくつか選んで、男がその中から選ぶもんじゃないのか?
「そ、そうするって決めたでしょ! 何よ、私の選ぶの面倒だって言うの?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
正直、上手く選ぶ自信がない。
「可愛くないって文句言うなよ」
「い、言ったでしょ、あんたが選んだのなら、す、少しはエッチでも構わないって」
「そういう意味じゃないんだけど……」
俺たちをカップルだと勘違いしているのか、店員が微笑ましそうにこちらを見ていた。
その視線をあえて無視して、俺はラックを物色し始めた。
和花は派手でありながらも可愛らしい。
ただスリムで小柄だ。
なら――
「これどう?」
一つ選んで和花に渡した。
「これにちょっとしたピアスとブレスレットを合わせたら、いい感じになりそうだよ」
「……想像以上に良さそうで、なんだか悔しい」
「いや、なんでだよ」
「とにかく試着してくる!」
試着室の前で、愛理と一緒に和花を待った。
愛理が小さな声で話しかけてきた。
「この前、ネットでエロゲを買ってプレイしたんだけど」
「本当に唐突な話題選びだな」
「試着室でそういうことするシーンがあったのよね」
「俺、このモールよく来るから追い出されたくないんだけど」
「残念ね」
「……」
冗談だよな?
本気でしたいわけじゃないよな?
そうであってほしかった。
「う、うぅ……。着替えたんだけど……」
和花が試着室のカーテンを少しだけ開け、顔だけをひょっこりと覗かせた。
「どうした? サイズ合わない?」
「そ、そうじゃないけど……」
「ああ、恥ずかしくて?」
彼女が素早く何度もコクコクと頷いた。
そこまで露出の激しいビキニではないはずだ。
だが、考えてみればビキニ自体が初めてなのかもしれない。
それなら、どんなデザインでもプレッシャーに感じるのは無理もない。
「別のを選び直そうか? 無理しなくていいぞ」
「で、でも、あんたの好みなんだよね……?」
「まあ、そうだな」
「うぅ……。なんか下着を見せてる気分……」
「本当、和花さんってじれったいわね。えいっ」
「きゃああっ!」
愛理が半ば強引にカーテンを開け放った。
和花が体中を縮こまらせたまま立っていた。
ティアードフリルのトップに、両サイドをリボンで結ぶボトム。
ベビーピンクのビキニに身を包んだ和花が、そこに立っていた。
「おお、よく似合ってる。な、愛理?」
「ええ。可愛いお人形みたいよ、和花さん」
幾重にも重なったフリルが、小柄な体型にふんわりとボリュームを添え、元々白い肌をより白く際立たせていた。
活発な雰囲気の中に、どこか清純さが漂う。
和花が指先をもじもじと絡ませた。
「そ、そう? そ、それじゃあ、これを買うね……」
彼女が元の服に着替え、俺が選んだ水着を会計しに行った。
店員に「彼氏さん、センスがいいですね」とニコッと笑いかけられ、和花は「ま、まだ彼氏じゃありません!」と耳の先まで真っ赤にしていた。
「次は私ね」
愛理が俺の腕に抱きつきながら、ラックの方へと引っ張っていった。
そんな俺たちの様子を見た店員は、目をぱちくりさせていた。
……たぶん、俺たちの関係が全く掴めないのだろう。
(愛理は胸も大きいし、手足もすらりとしてるから……)
彼女は本当に何でも似合いそうだったが、それでも一番魅力が引き立つものを選びたかった。
それに、彼女は俺が選んだものなら、たぶん何でも受け入れてしまう。
なんだか責任重大だ。
「これがいいと思う」
「分かったわ。試着してくるね」
愛理が試着室に入った。
しばらくして、試着室のカーテンがシャラッと開くと、和花が目を丸くした。
「な、なんかデザインは普通なのに、すっごくエロく見える!」
その感想には、俺もある程度同感だった。
胸の谷間をクロス状に細かく編み上げたワインレッドのレースアップ風ビスチェトップに、可愛らしいフリルのボトム。
水着自体の露出度は一般的なビキニと大差なかった。
だが、中央のレースアップが胸元をきゅっと寄せ上げるせいで、豊かな胸のふくらみが下から押し上げられ、今にもこぼれ落ちんばかりに強調されていた。
愛理が堂々と髪をかき上げた。
「これがスタイルの差ってやつね」
「なんかムカつく……」
「それでどう、蓮くん? これ買おっか?」
「愛理さえ良ければね。でも、俺が思ったより結構露出があるけど、大丈夫?」
「言ったでしょ? 蓮くんが選んでくれるのなら、マイクロでもいいって」
彼女が一歩前へ踏み出すと、背伸びをして囁いた。
「それとも、私が自分で買ってサプライズしてあげようか?」
「……いや、普通にこれで頼む」
一体どんな過激な水着を買うつもりなのか見当もつかなかったので、俺は慌てて止めた。
◇
生まれて初めて女の子の水着を選んだ後は、自分たちの私服を買うためにモール内を歩き回った。
俺の服を選ぶ時は、毎回和花と愛理の意見がぶつかり合い、試着してようやく決まる——そんなやり取りが続いた。
「結構たくさん買ったな」
気づけば、両手は紙袋でいっぱいになっていた。
今日の買い物はこのくらいで十分だろう。
そう感じたのは俺だけではなかったようで、愛理がスマホの時計を見て言った。
「じゃあ、そろそろ映画館に行こっか」
「映画館? 映画観るの?」
「デートの定番じゃない?」
それはそうなんだけど……。
どうやら予約もしてあるらしいし、同じモールの中だ。
俺は大人しく従うことにした。
エスカレーターに乗り、映画館のあるフロアで降りる。
ところがそこで、全く予想外の人物と出くわした。
「……え? 蓮?」
「あら、蓮くん。久しぶりね」
結月と彼女の母親がいた。




