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予知能力で彼女を寝取られる未来を見た ~諦めて他のSS級美少女たちを救ってたら、なぜか執着され始めた件~  作者: おなきく


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第1話 悪夢①

 俺の朝は、スマホで証券会社のアプリを開くことから始まる。

 仕込んでおいた海外株の値動きを確認し、俺は思わずニヤリと笑みを浮かべた。


(よし、『悪夢』の通りだ)


 一週間前、俺は夢を見た。

 いつものように朝起きてポートフォリオを開いてみれば、保有銘柄が予期せぬトラブルで暴落している——そんな夢だった。

 そして今、まさにそのトラブルが速報で流れ、株価が大きく揺れている。


(こうなると分かっていたから、ショートを仕込んでおいたんだ)


 アナリストのほとんどが先行きは明るいと口をそろえ、ロングを推していた銘柄だ。

 だが俺は、一週間前に見た悪夢を信じて即座に動いた。

 保有株をすべて空売りに切り替え、さらにレバレッジまでかけた。


 その結果。


 ——+237%


 一晩寝て起きただけで、俺は大金を稼ぎ出していた。

 ツイッターを覗いてみると、想定外の悪材料で全財産を溶かしたと嘆く声で溢れかえっていた。


 もちろん、俺が動かしているのは小遣い程度じゃない。

 あらかじめこの予知能力を利用して宝くじを当て、まとまった元手を作っておいたからだ。


(正確には、悪いことしか予知できないんだけどな)


 日付ははっきりしないが、最短で二日後、長くても二年後――そうした近い未来に起こる不吉な出来事を、俺は週に二、三度、夢で見てしまう。

 この悪夢は、どんな形であれ俺に関わることにしか現れない。

 たとえばコロナのように、日本を直撃して周囲にまで波及するような出来事なら予知できる。

 けれど、俺の身の回りにまったく関係しない出来事――海外で流行っているエボラみたいなケースは見えない。


(エボラのせいで俺の持ち株が急落するとかでもしない限りは)


 ただし、この能力も万能じゃない。ちゃんと限界がある。

 夢で未来を覗き見て、ある程度は回避もできる。

 だが、全部は変えられない。

 たとえばパンデミックや大地震、あるいは不治の病なんかは、俺の統制範囲から外れている。

 俺はそれらをひとまとめに『運命』と呼んでいる。


(それでも、これだけでも十分ありがたい)


 この能力のおかげで、俺はとても高校生とは思えないほど潤沢な生活を送っている。

 金の心配はない。成績も落とさない。俺と周りの不幸な事故も、最小限で済む。

 とくに人間関係では、この予知能力に何度も救われた。たとえば――


れん! 早く準備して、遅刻しちゃうよ!!」


 そう、長年の幼馴染である彼女と、恋人として付き合い始めた時のことだ。

 彼女は俺ん家のワンブロック先に住んでいて、登校のたびにうちへ寄ってくる。


「分かった、悪い!」


 証券会社のアプリに見入りすぎて、時間が経つのを忘れていた。

 俺はバタバタと登校準備を済ませ、一階へ降りた。


 朝食の支度をしていた母さんは、俺を見るなり溜め息をついた。


結月ゆずきちゃんが迎えに来てくれてるんだから、さっさと出てきなさい。あんた、朝から何やってんの?」

「株をちょっと確認しててさ」

「お金を稼ぐのもいいけど、とにかく学生の本分を先に守りなさい」


 まだ高校生だから証券口座を作るには保護者の同意が必要で、家族には株に投資していること自体は話してある。

 予知能力とか、実際に俺が動かしている金額なんかは明かしていない。

 宝くじが当たった時も、当選した事実だけ知らせて、当選金額についてはどうにかして隠し通した。

 親づてに他人へ漏れたら、ろくなことにならない――そんな悪夢を見たからだ。


「それはそうと、結月。今日も気合入れてお洒落してきたな。可愛いよ」


 灰みがかった黒髪は、片側だけ軽く編み込まれ、さりげないアクセントを添えている。

 残りの髪はゆるやかなウェーブを描きながら、低い位置でふたつに結ばれていた。


 結月が顔を赤くして、耳たぶをいじった。


「そ、そう? あ、ありがとう……」


 それだけで、そこまで照れるのかよ。

 中学のときに告白して付き合い始めて、もう高一の一学期だというのに。


 母さんが茶碗を俺と結月の席にそれぞれ置きながら言った。


「あんたたち、イチャつくのもいいけど本当に遅刻するわよ。まあ、今がいい時だってのは分かるけど」

「あ、本当だ、もうこんな時間! 遅刻したら蓮のせいだからね!」


 朝食をかき込むと、俺たちは手をつないで家を出た。

 ギリギリだったが、なんとか遅刻は免れた。



 ◇



「じゃあ、後で家でね!」

「ああ」


 放課後になり、結月は部活へ行った。

 俺は帰宅部だから、このまま家に帰ればいい。

 彼女の言う家は俺の部屋のことだ。

 部活が終わったら、そのまま来る――そういう約束だった。


 鞄を持って、俺も教室から出ようとしたときだった。


「おい、深川ふかがわ


 中学からの付き合いである友人の高木たかぎが、急に俺を呼んだ。


「なんだ?」

「大丈夫か? その……お前の彼女、北山きたやまさんのこと」


 俺はきょとんとする。

 結月がどうしてそこで出てくる?


 高木がひどく心配そうな表情だった。

 こんなことで冗談を言う性格じゃないのに。


「結月に何かあったのか?」

「いや、その……。北山さん、写真部だろ?」

「ああ」

「ちょっとヤバい先輩がいてさ。停学が明けたばかりらしいんだ。で、その先輩が写真部に戻ってきたんだって」


 高木はひどく慎重な口ぶりだった。

 普段はサバサバしてるのに。


「どうヤバいんだ?」

「それが……。停学の理由自体は校内で派手に殴り合いの喧嘩をしたかららしいんだけど……」

「実際は違うってことか?」

「人の彼女にちょっかいをかけて、関係を壊すのを面白がってたらしいんだよ。で、それを知った彼氏とその先輩が揉めて、二人とも停学になったとかで……」


 一瞬、心臓が凍りついた。


「関係を壊すのを面白がってた……?」

「その先輩、相手の気持ちを揺さぶるのが上手いタイプらしいんだ。付き合ってる相手がいる子にも平気で近づくし、妙に距離の詰め方がうまいって噂でさ」


 ということは、単なる痴情のもつれじゃない。

 相手の女を本気で好きになったわけでもなく、ただ自分の優越感を満たすためだけに他人の関係へ割り込む――そういう男だということだ。


 高木が俺の表情を見て、慌てて言葉を付け足した。


「あ、あくまで噂だからな! 実際は違うかもしれないし」

「……そうだな。まあ、噂ってのはどうしても尾ひれが付くもんだからな」

「そうそう。お前だってただの一般家庭なのに実はものすごい金持ちだとか、そんな変な噂が流れたりするだろ」


 それは別に、完全にデマってわけでもないんだけど……。

 家自体は平凡だが、俺が持っている金は決して平凡な額じゃないからな。

 高木のその何気ない一言が、かえって俺の不安を増幅させた。


「ただ単に、一人の女を巡って男二人が喧嘩した三角関係だった、ってことかもしれないしな」

「まあな、そっちの方が現実味はある」


 口先がうまいだけの男が、人の恋人を奪って楽しむなんて?

 そんな作り話みたいなことが、現実に起こるはずがない。

 俺は心の中で必死に否定した。


「でも、とにかくありがとな。今日一度、結月に話してみるよ。噂だとしても、一応気をつけるに越したことはないから」

「おうよ。お前は俺の命の恩人なんだから、特別に教えてやったんだぜ?」

「噂を教えただけのくせに、なんで極秘情報でも教えたみたいに振る舞うんだよ」


 ははは、と俺と高木は同時に笑った。



 ◇



 部活が終わった結月がうちに来た。

 一緒に夕食を食べた後、当然のように俺の部屋へ入ってきた。


 まるで自分の家のように、彼女はすぐに俺のベッドに寝転んだ。


「ここより楽な場所はないんだよね~。不思議と、蓮のベッドってすごく快適なんだもん」


 ま、そりゃ株で稼いだ金で100万円のマットレスに買い替えたからな。

 結月がよく俺の部屋に来るから、俺よりも彼女のためにいいものを選んだんだ。


「飯食ってすぐ横になると太るぞ」

「あ、女の子に太るって言葉は禁句!」

「女の子?」


 彼女が「……蓮?」と睨んだ。

 本気で怒ってるんじゃなく、拗ねたフリに近かった。


「冗談だよ」


 俺はそう言いながらベッドの端に腰を下ろし、隣に来た結月をそっと抱き寄せた。

 彼女の髪から、いつものシャンプーの匂いがふわりとした。


「こうしてると、やっぱり落ち着くな」

「もう、すぐそうやって甘やかすんだから」

「嫌か?」

「嫌とは言ってないよ。でも今日はおばさんがいるじゃない」

「静かにしてればいいだろ」

「それができるわけな——」


 結月は困ったように笑いながら、俺の肩に軽く頭を預けてきた。

 中学の頃から付き合っている俺たちは、今ではこうして二人きりでいることにもすっかり慣れていた。


「……蓮、大好き」

「俺も」


 短く触れるだけのキスをした。

 それだけで結月は照れたように笑い、俺の制服の袖をそっとつまんでくる。


 結月の頭を撫でてやった。

 こんなに可愛くて、いつも俺のそばにいてくれる彼女が、別に悪いことをしたわけでもないのに、他の男に心を揺らされるなんて?

 いくら噂の悪い先輩だとしても、そんなことはありえない。


 俺はそう信じて疑わなかった。



 ◇



 その後、しばらく結月と他愛ない話をしてから、俺は彼女を家まで送った。

 自分の部屋に戻り、ベッドに再び横たわった。

 寝る前に、もう一度だけアプリを開いて株価を確認する。

 それから俺は眠りについた。


 しかしその夜、俺は夢を見た。

 ——結月の笑顔が、あの写真部の先輩へ向けられているという、最悪の悪夢を。

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