161.空蝉18 あなたに夢中
「というわけでえ、ずっと眠ってるの。空蝉のヘビで、そこらへんうろうろしようかなって思ってたんだけど」
てっちゃんから電話来たの、唯奈にね。だからあたしは会うことにした。
そこからは見ての通り。先見のヘビの力かしら、ここにいい男が集まってそうだと思ったの。で、ここまで来ちゃった、とゆいなは可愛く舌を出す。どうよあたし、可愛いでしょ。
「……ふふ。ゆい、なさんは、ほんとに、ゆ、唯奈ちゃんのことばか、り」
しゃくり上げながら笑うものだから、鈴子の言葉はやたらと途切れた。哲也がその頭を静かに撫でて頷いた。
「そ、そうだ。最初からそればかり。可愛いでしょ、スタイルいいでしょ、あたしが一番でしょ!そればかりだ」
「だって事実だもん」
優しい非難にぷいっと横を向く。
「す、スマホもスムーズに触るし、う、歌も歌うし、触れるし、飲食も。あ、あくがる能力ってそこまでできるのかと……興味深すぎてオレ、何度も会いたくて」
「てっちゃんはあたしに夢中なんだからもー」
「観察対象じゃねえか完全に」
「そりゃこれだけかわいければ、観察もしたくなるよねえ」
「っとにポジティブなバ、老人だな」
「ヒヨッコ小僧、いま最悪な禁句を言おうとしたな?」
「……確かにねえ。よほど自慢なのね。ずーっと、唯奈ちゃんを褒める言葉ばかり。あなたは最初から、そればかりだったんだね」
沙貴が穏やかに笑った。
可愛い、魅力的、一番かわいい。いい男はいないかな、あたしに夢中になって。あたしを守って、ねえ、あたしが一番かわいいの!
「ずっと、唯奈ちゃんに夢中なんだね」
「そうよ。あたしはあの子に夢中なの」
優しく笑む沙貴の胸の上あたりが、室内灯に反射してきらりと光るのが見えた。少し眩しい。
「だからあなたは、ずっと唯奈ちゃんの姿でいるのね」
「そう、愛の形はこの姿」
夢の中で、
ずっと夢中。
「唯奈の姿はあたしの愛のいれものなの」
「そう。幸せそうな顔。唯奈ちゃんは、幸せそうに笑うと、ますます素敵に可愛らしいね」
「……うん!」
自分の胸と目の奥で光の欠片が弾ける。ぱん、と舞い上がり、きらきらと降ってくる。
夢の中が光の束で埋め尽くされる。
いい終わり方だなとゆいなは思った。
飲み干したグラスを置いてソファから立ち上がる。
「じゃあもう終わるから行くねー」
ちょっとあなたたちじゃ、唯奈はもったいないし!
ごめんねえ。
あなたたちもそこそこいい男だけど。あたしのお眼鏡にはかなわなかったってことで。
じゃあね!
「え、え、え、ま、待って、ちょっと、あの」
「ゆ、ゆいなさん!えと、何か、ええ!本当に行っちゃうの!?」
鈴子と哲也がわたわたと腰を上げる。テーブルに膝が当たったらしく、「いっ」と屈んだ哲也に、鈴子がさらに慌てた。
「……あ、そうだそうだ忘れてた」
部屋のドアを半開きにしてもう一度振り返る。
突然のゆいなの動きに完全に出遅れているのか、ぽかんと動かない全員を眺め、それから沙貴を指した。
「鱗、ほんのわずか残ってるよ?さっき灯りで反射してた。取って行こうか?」
「え」
「……え?」
誰のものか、掠れた声が上がる。
が、沙貴はふるっと首を振った。
「いい。ありがとう」
「そう。がんば。じゃあねえ」
今度こそ本当に!
お母さん。お母さあん。
おばあちゃん、おばあちゃん。
はいはい、なあに。どうしたの。あたしはここよ。
みなさんが、お母さんに最後に会いたいってみなさんが来てくれましたよ。
ゆいなさあん、わたしたち全員よ、ゆいなさああん。
あらあらみんな、来ないって約束だったのに。来ちゃったのねえ。
どう、みんな。可愛いでしょ、あたしの孫。うふ。もうあたし腕も足も動かないから紹介できないけど、まあ見りゃわかるでしょ。とびきり可愛いから。
お母さん。
はあい。
おばあちゃん。
なあに。
ゆいなさん。
はいはい、あたしはここよ。
いろんなとこに行って、素敵なお洋服着て美味しいものたくさん食べて来たの。アイスティーって、おしゃれなお店で飲むと倍美味しいの。面白い子たちにも会って、面白い話をたくさんしてきたの。楽しかった。唯奈のお相手探すつもりだったのに、途中ちょっと楽しすぎて遊びすぎちゃった。カラオケもゲーセンも。うふふ。
ああ楽しかった。
あたしに残った鱗も、剥奪して体に巻いたヘビどもも、こんなにあたしが人生楽しむとは思ってなかったでしょうね。あはは。こんなに明るく生きる女が出てくるなんて考えもしなかったでしょ。そして、呪いを我が一族に与えた……何か恐ろしいものですら、あたしがこんなに笑って終わるなんて思ってもみなかったでしょう!あははは!
あーおっかしい!ざまみろ!
あら、だんだん頭が曇ってきたわ。じゃあねみんな。
さ、体に巻いたヘビども、鱗とともに、いざ行かん。
超特急で向かうから離れないように。離さないけどね。
地獄の門に吊るされたお祖母ちゃんのヘビを横目に進みゆけば、かつての一族の女たちがこぞって内臓を引きずり出して地に叩きつけたヘビたちの抜け殻がそこかしこに。それを踏み踏みさらに進めば、鬼どもに囲まれ血の匂いのする大木が一本。桃がなっているのかと思いきや、たくさんの人の首がたわわに実り、ああこれが噂の首桃果かと鬼婆のように不気味に笑う。
おやおやまあまあ、ヘビを吊るすのにちょうどいい枝ぶりだこと!
いざ行かん。
ヘビを巻き付け愛を携え、あたしの地獄は夢の中。
家人が次々にインフルにかかってしまい、
直し作業がかなり滞っております。
申し訳ないですが、次の更新を一回分のみ
お休みします。次回は金曜日朝!
ウイルスおそろしやですね。皆様もお気をつけください。




