Ⅵ
ようこそ、不思議で不可思議な世界へ。
今巻もいきなり舞台の転換です!
楽しんで頂けたら光栄です!
僕はなんの目的も無く歩きつづけた。
どこに行っているのかなんて分からない。
ただただ、この過去から逃げれる心地よい場所がほしかった。
ぽつぽつと雪がふってくる。冷たい空気が急に辺りを埋め尽くし、僕はそこで立ち止まった。
どうしてこんな事になったんだろう。
なぜ彼女は死んだんだろう。
どうして彼女は泣かなかったのだろう。
なぜなぜシャークは僕のことを昔の息子の様だと言ったんだろう。
分からない。何も。
僕には僕が分からなかった。
自分の事は自分が最も分かると言ったのはどこのどいつだろうか。
この、大嘘つきめ。
僕はこの世で彼女の次に自分自身が分からない。
気づけば僕は立ち止まっていた。
そして、泣いていた。
はらはらと落ちてくる雪が僕の頬を撫でたが、そんなのは僕のなんの慰めにもならなかった。
すると僕の後ろから小さな足音が聞こえた。
「誰です」
僕は後ろを向かずに叫んだ。足音は僕のすぐ後ろで止まった。
「同じ質問をさせてもらってもいいかな」
少年のまだ声変わりをしていない声だった。少年か、と内心ホッとしながら後ろを向こうとすると、僕の首筋に太刀が向けられていることに気づいた。
「僕は***。人間の恐れる怪物さ」
「怪物?君が?」
少年は少し驚いたように太刀を下ろした。僕はゆっくりと彼と対面した。
「そうだ、君は、こんなところで何をしてるんだい」
「何をしてると思う?過ごしてるんだよ、ここで。君こそよくのこのことここに入り込めたものだね」
少年はそう言うと太刀を抜くと同時に僕の方に一歩踏み出してきた。
僕はすぐに対応し、横向きの斬撃である太刀筋を避け、すぐに右足をスライドし彼にぶつけた。彼はよろよろとしながら軽く交代する。
「お見事、やはり君の怪物という自白ははったりではなかったようだ」
「反撃してもかまわないかい」
「いいよ、でも君は僕には敵わないさ」
僕はすぐに彼に向けて走り出した。彼は僕の突進で威力を増した拳を容易に受け流す。そして体勢をくずした僕の顔面を容赦無く蹴り飛ばした。
僕はそのまま倒れ込むなどの自殺行為は勿論せず、両手で地面を蹴って起き上がった。彼は不気味に頷きながら戦闘体勢を解除した。
「僕に見せてくれよ」
「何を?」
「怪物化って奴をに決まってるだろう」
彼は僕に拍手をしながら近づいてきた。そしてバックに入れた食べ物をこちらに投げて寄越した。
「お近づきにどうぞ。僕の名はセリヤ・グラセプス。気軽にセリヤと呼んでくれて構わない」
「セリヤ、君は怪物か?」
僕の質問に彼は笑って言った。
「そうさ、この世に残る、二人の怪物の中の一人だね」
「なんだと?」
「僕と君。今この世界に生きている怪物はそれだけさ」
僕は小さく嘆息した。彼は呆れ果てたと言うようなポーズをとる。
「ほんと、嫌になっちゃうよ、君しか僕の味方がいないなんてね」
「君と味方になった覚えはないよ」
「敵の敵は味方じゃないと言うんだね、面白い。確かにそれだけならそうとは言いきれないが僕達は同族なんだ。少しくらい心を開いてくれてもいいんじゃないかな」
僕も戦闘体勢を直して地面に座り込んだ。そして大きなため息を吐き出す。
「君は一体誰なんだい?」
「自己紹介は二回目だろうけど。セリヤ・グラセプス。災厄の処刑人さ」
「災厄の処刑人?」
彼は僕の側に座ってパンをかじった。
「そうさ、この世界の害を消すんだ、僕は。僕だって今殺したい敵がいる」
「なんだか物騒な言葉だな」
「まあね、君も心に刻んでおくといい。僕が殺したいと思うあいてをね」
彼はそこで苦虫を噛んだような表情になった。
「マカロン・ソベンシア」
「どんな人なんだい?その人は」
僕がそう聞くと、彼は「とりあえず僕の家に来るかい」と提案した。
僕は彼と一度は剣を交えたが今は別段悪い気はしないので素直に頷く。
彼は僕の返事に満足そうに頷いた。
「マカロンは大の怪物嫌いでね。その上僕より強いからたちがわるいのさ」
「怪物が嫌いなのは常人なら当たり前のことじゃないですか?常人は僕らを害と呼びますから」
僕がそう言うと、彼ははっはっはと大きく笑い飛ばした。
「確かに人間を超越する僕らは嫌われやすいよね。近くにそんな奴を置いておけばどうなるかなんて分からないからね」
「確かにそうかもしれないね。でもそれは人間の意見であって怪物達の意見では決してないんだ。人間が一番なんて考え方、どうかしてるよ」
「人間とはそういう生き物さ。勿論僕らもその例外ではないんだけどね」
彼は僕にそこで笑って見せた。何か裏があるような笑みだった。
「僕らは怪物だからね。怪物なりの人生を歩まなくちゃ行けない。勿論そうだよね?」
「そうだね、でも怪物なりの人生ってどんなものなの?」
「そりゃあへどの吐くほどしんどいものに決まっているだろう」
彼はそこで「ついたよ」と告げて自分の家を指差した。
が、そこは何もない空洞だった。僕は恐る恐るきいた。
「もしかして、セリヤ、君は野宿なの?」
すると彼は腹を抱えて笑い出した。いや、明らかに野宿じゃんと目を細めていると、彼は違うよと否定した。
「違うさ。僕の結解が張り巡らせているから誰にも見えないようになっているんだよ」
彼は手を前にかざすと、大きな機械音が辺りに鳴り響いた。すると、それと同時に彼の家があらわになる。
それは豪邸としか言えないような巨大な豪邸だった。
まるで物語のお姫様が住んでいるようなものである。
「これが君の…」
「そうさ、僕の家だよ。まあ、きっとマカロンがそろそろ来やがるんだけどね」
「へ?」
僕が小さな声を出すと、僕らの前からとことことメイド服を着た女の子が歩いてきた。顔付きも調っていて目のぱっちりとした素敵な女の子である。
「セリヤ様、お帰りなさいませ。私は戦闘の準備が調っております。あら、ところで貴方様はどなた様ですか?」
連続尊敬語にびくびくしながら僕はセリヤに促されるまま自己紹介をした。
「僕の名は***。セリヤのなんというか知り合いだね。君は?」
彼女は長いフリルスカートを両手で軽く持ち上げながら丁寧に礼をした。礼儀の調ったパーフェクトの少女である。
「私の名はエクレア。セリヤ様のお手伝いをさせていただいています。それと申し訳ございませんがこれからは危険な戦争がございますのでセリヤ様のお城の防弾防音室でお待ちくださいませ。案内しましょう」
「エクレア、何を言っているんだい?彼も戦うんだよ」
エクレアという少女と僕は二人揃って顔を引き攣らせた。
「セリヤ様、異能力戦争では常人を巻き込まないはずでは?」
「彼は正真正銘の怪物だからね。僕と同じさ」
「怪物?***様が?本当なんですか?」
エクレアは僕の方を興味津々と言うように向いてきた。僕はまあね、と軽く返答する。
「素敵ですね、怪物って。私も怪物になりたかったです」
「それならいろいろと困っちゃうんだよね。市街地に入れるのはいまやエクレアだよりになってしまっているしね」
市街地には怪物探知器のようなものが存在する。それに近づくだけで爆音が鳴り響くのだ。つまりセリヤはエクレアを使って食料を手にしているということだろう。
「どうしてエクレアちゃんはセリヤを助けているんだい?君は人間なら人間らしく過ごせばいいのに」
「昔セリヤ様に助けられたのですよ。クレーンが落ちてきた時、死んだと覚悟したのですが、彼が異世界から鎖を取り出して守ってくれたんです」
「へえ、セリヤが…」
「それからはセリヤ様の邪魔にならぬ様剣を鍛えあげるのみ。時に紅茶を飲んだりもしましたが現世に比べたら圧倒して素敵な日々でした。わたしはセリヤ様が求めるものを全て与えてきたような客観的にはしんどそうな生活でしょうが、私には幸福だったんです。彼の側にいるのが」
「その気持ち、分からなくはないね。僕だってずっと一緒にいたいと思っていた少女といるときはなんだか幸福だったから」
「その子は今どこへ?」
僕は軽く鼻で笑った。
「殺されたよ、人間に」
彼女は泣きそうな表情になったかと思うと頭を下げた。
「すみません。私と同族がそのようなご無礼を」
「別に君は何もやってないだろう。構わなくていいよ、僕の独り言と思ってくれて構わない」
僕はいつまでも頭を下げつづける少女の顔をあげさせて言った。
「これは内緒だけどね?」
僕は少女の耳元で囁いた。
「肉片と血液になってしまえば、どうしてか僕の心は急に冷めたんだ。彼女が死んだという事実を受け入れられなかったからとか言うドラマのようなものではきっとなくて、ただただ僕は彼女が死んだことによって興味がなくなってしまったのかもしれない」
「それはきっと違いますよ***様」
エクレアは微笑んで言った。
「そんなに容易に愛は消えません。貴方の愛は、きっと貴方の見えないところで残っているんです。きっと、ずっと残り続けてしまう事でしょう。それを辛いと考えるか、嬉しいと考えるかは貴方次第ですけどね」
彼女はへへ、と子供のように笑って見せた。無邪気で可愛い笑顔だった。
「そんな素敵な物語なのかな」
「ええ、これはきっと貴方とその彼女の物語ですから。限界はありません。無限に続く、『貴方の不思議で不可思議な物語』なんですよ」
そう言うと彼女は笑顔で僕に笑ったままあっと声をあげた。
「貴方などというご無礼な呼び方をして申し訳ございません。以後、気をつけます」
「あ、それはいいよ。それにしても君に話してなんだか心が軽くなった気がするよ。さすがメイドさんだね」
彼女が嬉しそうに何か言おうとすると巨大な銃音が周囲に響き渡った。僕は思わず目を塞ぐ。
すると僕とエクレアに向かって銃弾が飛んできた。彼女は僕の前に立ち、銃弾を腹で受け止める。血が僕にかからない程度に舞った。
「エクレア!」
「私はこの程度では死にません。すぐに反撃に向かいましょう」
彼女は胃に埋まった弾を取り出し、右に投げ捨てた。それと同時に全面にシールドを張りながらセリヤが僕らの元へ歩いてやって来る。そして彼は言った。
「マカロンが来たか。予想より早いが構わないな。今すぐ勝負を決めよう、都合のいい事だ」
「みなさん、ごきげんよう」
彼のシールドの外から陽気そうな落ち着いた声が聞こえた。
ワンピースを着た小さな少女である。彼女の周りには少女と青年がついていた。少女の手にはハンドガンが握られている。彼女がエクレアを撃ったのだろう。
「元気そうだな、マカロン」
「まあ、元気ね。確かに。ところでそこの青年は誰?見たことが無いのだけれど」
「***です。マカロンさんとは貴方のことですか」
僕は自己紹介をした。すると同時に少女が両手にハンドガンを持ち僕らに向けてぶっ放した。強固のシールドがそれら全てをあらゆる方向に跳ね返す音がする。
「やっぱり、常にシールドを張ってるみたい。怪物だから体力だけは腐るほどあるんだろうね」
「セリヤも元気そうじゃねえか。落ちこぼれ少女を連れてのこのこと散歩か」
マカロンの側に立っている青年が馬鹿にするように叫んだ。するとセリヤは腰を思いっきり曲げて右腕を大きく振りかぶる。すると轟音とともに右手の直線上の気圧が婉曲し、地面を深く切り裂いた。マカロン達三人は別に驚く事なく一斉に各々の方向へ跳ぶ。その内青年だけがこちらに向かってどこから出したのか分からない斧を掲げて猛スピードで走ってきた。
「今日は貴様の脳みその色をたしかめにきたんだよぉ!」
僕達の前に出たセリヤは青年の瞬間で下ろした斧を優雅に避け、腹部にけりを入れ込んだ。青年はそれでも怯まず斧を横向きにスライドさせる。が、セリヤは青年を無視し少女の方へ走って行った。
「セリヤぁぁぁぁぁぁ!こいつらを置いていっていいのかぁぁぁ!?」
「***、後は任せたよ」
僕はエクレアを手で後ろに避け、戦闘体勢を整えた。武器はない。が、怪物化さえすれば攻撃は出来る。
「私が戦いましょう」
エクレアは僕の手を退け、太刀を抜いた。メイド服に刺さっていたらしいが、正直気にしなかったのが怖い。
エクレアは僕を置いて青年の横に瞬間移動し、剣を振った。青年は流石というべきか、容易にそれを斧で守る。甲高い金属音が僕の鼓膜を削ったように感じた。
「エクレア!よけろ!」
僕はすぐに右手だけを怪物化させ、二人に向けて思いっきり振り放った。エクレアは言葉を失ったような表情になるがぎりぎり左側へ瞬間移動をした。
僕は残った青年に向けて怪物化した右手を叩きつけた。青年は汗をかきながら寸前で避けるが、僕は力任せに迷わず地面にたたき付ける。怪物化の痛覚遮断で全然痛くはないのだ。そして僕は残った左手でホッとしたような表情を浮かべる青年に伸ばし、まるで何かを手の平の中で潰すようににぎりしめた。。
するとエクレアと青年は信じられないような表情になった。青年の下半身が後方へ吹き飛んだのだ。青年は何かいいたげの表情を浮かべたが、抗えぬまま下半身と上半身を分けられた。内臓と血液がまるでくす玉をあけたように吹き出してくる。エクレアはその酷さに思わず目を閉じた。上半身は最期まで何かを求めていた様だが、一度地面に落ち、跳ね上がると動かなくなった。
これを地面の津波と怪物は呼ぶ。
怪物化した右手はいつもの右手より何億倍もの破壊力を持っている。
よって、砂で津波を作ることなど容易なのだ。
砂の津波はマグニチュード25以上の津波といわれ、人間の体など一瞬にして分解する。
その上針などとは違い多方向から圧力をかけるためシールドでの防御の圧迫力が強いのだ。よって、そんじゃそこらのシールドや盾などを壊すどころか貫通する。
それだけではない。怪物はその津波の向きまで冷静に変更することが出来る。よってもう一つの手で行き先を変えることが出来るのだ。そう、怪物は。
―――矛盾だらけのモノなのだ。
僕は怪物化を解除して彼の死を確認した。僕はこんな事が出来る。人間には出来ない。
それは僕が怪物であるという事を証明する最も価値の高い根拠だった。
「ボーッとしないでください***様。助けて頂きありがとうございます。次はセリヤ様をお助けください」
「分かった、行こう」
僕は脚を怪物化させ、戦闘を繰り広げる少女二人に突っ込んで行った。顔に当たる風が痛い。僕は半眼でセリヤの前を越え、体を曲げてマカロンという少女にけりをかました。ダッシュで威力を増し、首を吹き飛ばす予定だった僕の漆黒色の右足はマカロンの出したシールドに容易に跳ね返された。まさかの出来事に僕は体勢を壊すが、なんとかこける事なく地面に擦りながら着地した。
少女は先程から防御貫通弾と思われる銃弾をセリヤに撃ちまくっていた。セリヤは華麗に銃弾の雨を避けている。
「あの子を倒したの?***君。やるわね、怪物にしては」
マカロンは全身の周囲にシールド張りながら和やかに行った。僕はマカロンを睨む。
「怪物だから、殺せたんですよ」
「怪物の、すごさって奴かしらね」
僕は脚の怪物化を解除し、セリヤの横に移動した。それを見たセリヤは僕にもシールド内に入るようにシールドを広げた。
「セリヤ、今日こそ殺してあげるわ。そして私の世界を築くのよ」
「君の世界とは何なのかな?僕の死に何か関係があるのかい?」
「あるわよ、貴方は怪物だもの」
マカロンは軽い詠唱魔法をを放った。それだけでセリヤのシールドにひびが入る。みしみしと僕の前で彼の盾は限界を伝えていた。
「セリヤ、何か勝利の策はあるのかい」
「残念ながら、だね。僕はいままで彼女の体に触れたことすらないんだ。勝策なんて、論外さ」
僕はそこで右腕の袖をまくった。セリヤとエクレアは不思議そうに見た。僕は彼等を見て言う。
「僕が突っ込もう。君達は何かと動いてくれ」
「馬鹿か、マカロンのシールドは絶対だ。誰にも破れないぞ」
「それでも素直に負けるよりはマシだろう?僕は最期に君の武器となろう」
「ねえ、***」
エクレアは走り出そうとする僕の右腕を掴んで囁いた。僕は首を傾げてエクレアを見る。
「最期のメッセージでもくれるのかい」
僕がそう言うと、彼女は小さく頷いた。沈黙の空間が僕ら三人の間に流れた。彼女は僕に笑みを浮かべた。
「もし貴方がこの世にいなくなって、別の来世を迎えたとしたら、私は何としても貴方を探し出すから。貴方を探して、貴方を救ってあげる」
唖然とする僕の前でエクレアは覚悟を確定させるように頷いた。セリヤはその後ろで物知り顔を浮かべている。でも彼も同感を伝えてくれているような気がした。
これが『友』というものだろうか。
それとも、『家族』というものだろうか。
彼等は会ったばかりの僕を守ってくれるというのだ。
そんなのって、やっぱり、むずがゆいけど。
―――嬉しいや。
「見つけてくれることを待ってるよ。僕は君達を忘れない。だから、君達も僕を忘れないで欲しいんだ」
「うん、忘れないから。私たちは必ず君を見つけるよ。ねえ?セリヤ」
「ま、せっかく出会った怪物なんだ。運命を感じない訳でもないな」
セリヤは剣をぬきながら呟いた。エクレアもやれやれとした様子である。
「じゃあ、僕は行くよ。君達は…」
「勿論僕も行くけどね。僕だって怪物なんだから」
「私もお供致します」
セリヤとエクレアは小さく笑って武器を抱えた。僕とセリヤは同時に右手を光らせる。
「さあいこう、怪物よ。***、君と並べることを誇りに思うよ」
「ああ、セリヤ。最期は美しいまま滅そう」
「なんだそれ」
僕らの周りの空気が焦げた。
「「…怪物化」」
痛い。
痛かった。
何を喰らったのかは分からない。
でも、何かに貫かれたのは分かった。
それと、僕が倒れている事も。
地面は冷たかった。
その上いつの間にか痛覚遮断が切れている。
駄目だ、このまま死ぬのだろうか。
僕の横にはエクレアが倒れていた。
きっと息の根はもう切れているのだろう。
ごめんね、エクレア。約束が守れなかったようだ。
とりあえず立とう。
ぐっと僕は脚に力を籠めた。
が、力はなぜか入るどころか出て行ってしまっているようだった。
僕は不思議に駆られて見ると、僕の腹の下に何かしら柔らかいものが存在することが分かった。
なんだ、これ?
僕はそれに触れた。
柔らかい。黄色い液体が中から吹き出してきた。
まるでそのもの自体が呼吸をしているようだった。
そしてそれは僕のなかで食べ物を今まで消化していた、
腸だったのだ。。
なぜ僕は生きている?
死ねよ。
死んでくれ。
怪物は死ねないのか?
ならそんなスキル、いらないから。
もう、この現実から僕を
―――消してくれ。
「消せるでしょう」
僕のまえにはマカロンがいた。見下ろすように、血を吐く僕を睨んでいる。
声を出そうとするがかすれて出ない。首筋に増えると、鼻血と同類とは思えない粘着性の強いジャムのような血液が大量に付着した。
「ああ」
「貴方の持ってる薬を喉に通すだけ。それで、私の世界に来れるもの」
僕は必死に強烈な痛みの中彼女を睨んだ。喉はだんだんと治癒されていく。
僕はようやく声を出せるようになった。体は動かせないが。
「…じごぐに…おぢろ」
「よくできまちた、***君。さ、死になさい」
彼女は僕のポケットから薬を取り出して喉に詰め込んだ。彼女の服の袖にも血液がかかった。それでも彼女は気にした様子はない。
「待て、マカロン。彼には、関わるな」
そんな時、セリヤがマカロンの肩を掴んだ。マカロンは手を払い強烈なプラズマ魔法を放った。セリヤの体が痙攣し動かなくなる。
ああ、と声が漏れた。
「ふざけるな、ふざけるなぁぁあああああ!」
僕の怒りはMAXに達していた。怒りの力で彼女の肩を掴む。すると彼女のシールドが作動し、僕は二十メートル程地面を引きずって滑り倒れた。
彼女の口元は「馬鹿ね」と最期に動いたように僕は感じた。
「面倒だから、貴方の記憶は消させてもらうわよ。それと、貴方の名前の存在を消させてもらうわね」
閲覧ありがとうございます!




