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Taboo(タブー)  作者: ゼルダ
第2章【Behind the smile】
18/18

第18夜


「それじゃあお二人さんお別れだ、それと帰りの迎えはいらないから」ビスがナイトリーの言葉に頷く。


「待てよ」


その長い黒髪をひるがえし去ろうとするのを、アレックスがとめる。


「急に表れたと思ったら、なんだよこれ」


許可証を指してアレックスが厳しい表情を向ける。空気が一瞬はりつめた。


「俺はあんたに最初から踊らされてたって訳か」

「だから“プレゼント”さそれは、昨夜の礼だ」

「礼だと?」


それ以上は何も言わず、ナイトリーは背を向けて去っていく。追いかけたところで魔法を自由に使える彼を捕まえて白状させるのは無理だろう。アレックスは気に入らない臭いを嗅いだ犬のように鼻を鳴らして、その背中を見つめる。何を考えているのか分からない男である。いや、男かどうかさえ分からないのだ。ナイトリーはあまりに謎が多く危険な人物だ。

そもそもこの許可証、まるで始めからアレックスがここに来るのを分かっていたように準備されたものとしか考えられない。アレックスが王都に来たのは、神父の助言を聞いてのこと。そして神父に会うよう促したのはナイトリーだ。

アレックスが神父の元へ行き、呪いを解くために王都に出向くことを計算高い彼は昨日の時点ですでに予測していた。



では“お礼”とはなんのことだろう、昨夜と言っても舞台の代役のことではなさそうだ、むしろ昨日の夜は神父に会うために彼の劇団のメンバーであるビスに車の足を頼んだ。借りがあるのはこちら側のように思えるがーー。


アレックスの眉がピクリと上にあがる、胸騒ぎがした。

“お礼”とはビスのことか? ビスを寺院に連れたことにわざわざ礼を言ったのか? いったい何なんだ。


「あ゛ーもう訳わかんねえってアイツ」


くしゃくしゃと頭をかきむしりながらアレックスが苛立ちの声をあげる。心配そうに見つめるサーシャの視線に気づき、落ち着きを戻す。どうせ考えたところで今は分かるはずもない。そんなことよりもさっさと呪いを解くことに体力と時間を使うのが賢明だ。

曲がり角に消えていくナイトリーをアレックスが険しい表情で見送る。奴に謎が多いのは今も昔も変わらないのだ、この呪いさえなければ誰が関わるものか。


「んじゃ、俺もここらで」


そそくさと帰ろうとするビスだが、それを止めるように全開に開けられた車の窓にアレックスが顔を乗り出す。


「っていうかそもそも何しに来たんだよあいつ、まじでムカつく、なんなのあれ説明もなしに」

「俺にグチを言われてもな、それより早いとこ帰らしてくれないか」


ビスがアレックスを押し退けて、そわそわと窓の外を気にかける。ビスは猫が苦手なため野良猫がいないか確認しているのだ。

そんなビスがわざわざローマに来た、だがナイトリーが一緒にいたとなると、先ほど本人も言っていた通りナイトリーの送迎がその理由だろう。国の重役である彼はよくローマに足を運ぶ、先ほども王都に向かったと考えられる。ナイトリーは立ち入りが厳しい王都の宮殿に出入りできるは数少ない人物なのだ。


「“円卓の騎士”とやらの召集がかかったのか」アレックスがビスの耳元で声を潜めて、訊ねる。

「俺は何も聞かされてないけど、まあ団長がローマに来るっていうとその可能性が高いな」


そうか、とアレックスが力なく答えて車から離れる。


円卓の騎士とはナイトリーのような国の重役達によって結成された組織の通称である。太陽が呪われてから世界が終焉へと向かい始めている今、実質的に国を動かしているのはこの円卓の騎士のメンバーだと言われている。

彼らは太陽が呪われる以前は高位の聖職者だった者達ばかりだ。彼らによって、呪いによる世界腐食の進行は現在ほぼ停止していると言える。しかし呪い自体を解くにはまだ至っていないのだ。

アレックスにかけられた13の呪いの経過は、しばしば円卓の騎士の会議の議題に上がる。アレックスは太陽に呪いをかけた男と繋がる唯一の生存者であるからだ。


そしてそれは、今はもう死んだ“彼女”も同じこと。


その“彼女”にそっくりなサーシャがアレックスの前に表れたのだ。偶然にしては出来すぎている。恐らくこのことはナイトリーの口から議会で報告されるだろう。

騎士団がそれによってどう動くかは、まだ予測できない。


一抹の不安を抱えて、走り去るビスの車を見送る。


騎士団の人間がサーシャに接触してくるのは時間の問題かもしれない。

アレックスはサーシャの名前を静かに言う。自分の名を呼ばれた飼い犬のように、サーシャはアレックスに向かってなんの疑いもなく首をかしげて返事を返した。


「なあ、お前はこの先どうしたい」

「私はーー」


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