第14夜
腰に鈍い痛みを感じてアレックスは目を覚ました。やはり、ソファでは多少の寝づらさは仕方ないのだろう。
目を開けると、ソファの腰掛けが視界を埋める。
部屋のベットではサーシャが眠っているので、昨晩は仕方なくリビングのソファに横になったのだ。
もぞもぞと芋虫のように動きながら反対側に寝返りを打つ。二度寝をしようと目を閉じるが、春とはいえ薄いブランケット1枚ではまだまだ寒い。はみ出した足先をこすり合わせる、朝露のように冷えていた。
寒さに思わず体をおこすと、ブランケットを被ったままキッチンに向かう。
コンロにあった鍋の蓋を開けるが中は空っぽで、うっすら昨日のスープの汚れがついているだけだった。
仕方なく、壁にかけられたミルクパン(鍋の一種)に牛乳を注ぎ火にかける。牛乳が沸いた頃に、レオンが伸びをしながら出てくる。
「ったくそれでもイタリア人かよ」
「うるさい」
インスタントの珈琲に湯気のあがる牛乳を注ぐ。ハンドベルのような、マグカップの中をスプーンが叩く音が響く。くるくるとまわる白い牛乳が茶色くなったところでカフェオレの出来上がりである。
「イタリアの朝はエスプレッソだろ」
「俺はカフェオレが好きなの」
一口すすり、小さくアチッと言う。息を吹きかけるアレックスを後目にレオンは冷蔵庫を漁る。
「なんか食うか?」冷蔵庫の中を眺めながらたずねる。
「俺はいいよ」
熱いマグカップをもったまま、アレックスはコンロからどく。冷蔵庫の前のレオンの足元をつつき、彼のはいていたスリッパを奪うと、脱げないように半分すりあしでキッチンを出ていく。出来立てのカフェオレをすすりながら階段を上り、ドアの前で止まる。
自分の部屋をノックするというのは奇妙なものだった。
ズッとひとつすすって、コンコンとふたつドアをノックする。
返事はなかった。
ドアを開けると昇ったばかりの眩しい朝日が、カーテンの全開に空いた窓から差し込んでいた。こんなに眩しいのによく眠れたものだ、とアレックスは半分関心するぐらいだった。カップを起き、寝息をたてるその顔を側で見下ろす。
似てるな、と心の中でつぶやく。
やはり似ている、髪の色は違うがその鼻筋に大きな瞳と陶器のようにつるりと白い肌はスカーの言う通り彼女に瓜二つである。人形のようだった“彼女”のように、サーシャもまるで人形のようなのである。
薄く、瞳が開く。“彼女”のものとは色が違うアイスブルーの瞳が眩しそうに目を開けた。
「……アレックス?」
「起きたか」
仕度をしろ、と言って部屋を出ようとするアレックスにサーシャは寝ぼけた返事をする。
「仕度をしろって言ったんだ、王都へ出掛けるぞ」




