19.
―――イナの射撃が響いた同時刻。
「…いやー…居ないな、その…リーヴィア?って人。」
「………」
気が付くと王達は、リアルト橋を越え何処かも分からない街並みに出ていた。
「Siete armato, a quanto vedo. Posso parlarvi?」
話し掛けてきた者は、イタリア警察であった。
やはり目立つのかひまりの腰に指している刀による職務質問は免れない…
「えっちょ、あたしイタリア語話せないんですけど!?」
「…何故此処に来たのだお前は…余が翻訳する、話せ。」
「え!あ、えと!じ、じゃぱにーずこすぷれ?いっつあ、さむらい!」
口は回る、されども進まず。
動揺の最中ひまりは刀身を顕にする。
「これただの鉄棒なんだよ!のっと危険物!」
メカニカルな見た目の鞘とは裏腹に、刀身は非常に粗雑な、装飾すら成されていない鉄屑であった
「…勘違いするような物を持ち歩くんじゃない、だそうだ。」
「さ、さーせんした…」
じゃらじゃらとキーホルダーやら何やらを鞘に付け鳴らすひまりと、手ぶらの王…
2人は更にヴェネツィアの奥へ進み、迷っていく。
「…お前、嘘を吐いたな。」
「あ、バレた?」
交わす言葉は軽薄、しかし真意が見えない。
「特注なんだよね、このキーホルダーを嵌めると…」
路地裏に輝く火花、ロックされていた黒い刀身が異音を立て姿を見せる。
「改めて自己紹介でもしとくか、あたしはひまり、明朝家って知ってる?」
「見れば分かる、他とは異なる立ち姿…明朝家とやらの継手だろう。」
「そそ、明朝流居合抜刀術って言うんだけどさ。」
居合抜刀術、それは鞘に収めて帯刀した状態より、鞘から刀を抜き穿つ動作で相手に一撃を与える古来から日本に伝わる武術…
「―――下がりな。」
が、明朝家に伝わるそれは、他を凌駕し一切合切が異なる術である。
「明朝流居合抜刀術が一本目…"圧壊抜刀"」
その閃光は他を闇に包むには充分過ぎる輝きを放つ、僅か刹那に鞘へ収められた刀身は、圧縮されたガス爆発機構により射出される。
一目で分かる腕毎吹っ飛ぶ威力、しかしそれを可としているのは、ひまりのしなりのある腕である
「明朝流居合抜刀術が二本目…"千変万化"」
咄嗟に王は身を屈める。
蹴り、峰打ち、太刀捌きの連続、正に千変万化の連撃が火花を散らす嵐が王の背の後ろで巻き起こっている。
「………逃げ、られたか」
乾いた舌打ちが響く、刀身の熱で赤に染まり融解した壁が温風を通らせていた。
「大丈夫か?ちょ〜っとお子様には刺激が…って訳でもなさそうだな…」
冷えた外気温が刀身に当たり、煙を発する、その奥では張り裂けんばかりに笑みを浮かべる王が居た。
「良い、面白い物を見た。」
「あんた…"そういう"モンだろ?ならさっきのが何か知ってるか?」
刃が仕舞われ、再度鉄屑に見えるよう刀身が固定される。
表情と語気は未だ柔らかい、しかしひまりの瞳は、奥が冷たく温度を失っていた。
「ああ知っているとも、しかしまさか神秘の担い手でもないお前が、ただの剣士であるお前が対抗出来るとは思わなんだ」
「…神秘?なんか絶妙に舐められてる気がすんだけど…まいいや。」
ひまりの手で掬われたそれは、黒色の汚らわしい粘着性の液体…
「何故ここに居たのかは知らん、が先の者は聖遺物喰らいと称す怪異だ。」
「"聖遺物喰らい"?まーなんとも珍妙な…」
ついに現れたる聖遺物喰らい、姿こそ見せないものの確実な実在の証拠が排水路に落ちていく…
「で、言うにそのリーヴィアだっけ?そいつとさっきの泥マンを殺しに来た訳か?」
「是、お前の名付けた名称はどうでも良いが協力者が必要だ、それも歴戦のな。」
「ふーん…あたしをナンパしようってか?」
笑みをこぼすひまり、これまでのらりくらりと放浪してきた彼女にとって、この誘いは…
「うし!あたしも行くぜ、終わったら美味いピザ屋教えてくれよなー!」
好奇心を掻き立てる、自由への扉であった。




