二話目 魔法少女は弟子を作りたい
「そうだ、弟子を作ろう」
天啓だと思った。どうしてこんな簡単なことに今まで気が付けなかったんだろう。
自室のベッドの上で、思わずガッツポーズをしてしまった。
「美羽、どうしたポム?」
「ポムム、私、弟子を作るよ」
「……急にどうしたポム」
ポムムは不思議そうに窓際を漂っている。
どうやって浮いてるんだろうな、って思ったこともあったけれど、今となってはどうでもいい。
ついに、魔法少女を辞めるための思い付きを手に入れたんだから!
「私が才能があるから辞められないって、ポムムは言ったよね?」
「そ、そうポム」
「ならさ、私の代わりになる子を育てれば、魔法少女を辞めても構わないってことだよね?」
「……それは、その通りポム」
よし! 言質を取った! これには思わずもう一回ガッツポーズしちゃう。
要するに、私が凄くて辞められないって話なら、私よりも凄い子を見つけるか育てればいいんだよ!
まあ、私なんて所詮ステッキで敵を殴るしかできない魔法少女だからね。他の凄い魔法を使える子なら、真面目にやればすぐに私なんて越えられるはず!
そうと決まれば、さっそく準備をしなくちゃ。
「美羽、どうするつもりポム?」
「さっそく心当たりがある子に連絡をしようと思って」
魔法少女はメディア露出が激しいから、メンタル面で不安定になる子が多い。
だから、先輩魔法少女は近隣で生まれた新しい魔法少女の子たちと繋がって、色々と支援してあげるのが慣習になってるの。その繋がりで、私も当然何人かの連絡先は知っている。
「心当たり? 美羽ほどの才能がある子は心当たりがないポムけど……どの子に連絡を入れるつもりなんだポムか?」
「ふっふっふ。いるじゃない、今話題沸騰中の紅蓮の魔法少女!」
その華々しさからメディアに引っ張りだこ。今最も熱い魔法少女と言えば……。
「もちろん、クリムセリアだよ!」
スマホを取り出し、魔法少女用に開発された専用のアプリを起動する。
機密性は抜群! 漏洩の心配もない特殊仕様!
年が離れすぎてるから話題についていけてなくてって理由であんまり使ってなかったけれど、今こそその真価を発揮するときが来た!
「ほいほい、クリムセリアに『最近調子どう? 少しお話できるかな?』って送信!」
「要件に対して気軽過ぎるポム」
「まあまあ、いいじゃんいいじゃん。まずは世間話からでも――っと、さっそく返ってきた。どれどれ……」
返ってきた内容を見て、表情が強張ってしまった。
クリムセリアから返ってきたのは、短く一文だけ。『助けてください』って。
◇ ◇ ◇
「……はぁ。魔法少女、辞めようかな」
誰にも相談できないまま、私は学校からの帰り道で一人愚痴をこぼす。
ある日、助けを求める声が聞こえたことから始まった魔法少女生活は、思ってた通りの華々しさと、思ってた以上の大変さに包まれてた。
「どこを見てもクリムセリア、クリムセリア。私、そんなに強くないのに……」
そう、私は魔法少女クリムセリア。名前は緋乃芹香。
炎を操る魔法を使えて、紅蓮の魔法少女だなんて大仰にもてはやされちゃってる。
最初のうちは、その、ちやほやされて気分も良かったし、敵も倒せてたから人の役に立ててるって実感もあったから良かったの。でも、最近は敵も強くなってきている気がして、段々と倒すのに時間がかかっちゃって。魔法少女としての無力感を感じてるの。
でも、周りの期待はずっと同じままで、このままいくと、私がいつか魔人に負けちゃうときが来た時……それまでの期待が全部ひっくり返るんじゃないかって。
魔法少女が魔人に負けるのは、別に珍しいことじゃないって先輩も言ってた。そういう時は、すぐに近隣の魔法少女が助けに来てくれるから大事には至らないそうだけれど。
国の偉い人も、魔法少女が行方不明になったりする事例はないって言ってた。
そうだもんね。もしもそんなことあったら、話題になってないはずがないもん。
でも、そうだとしても、私は怖い。今は応援してくれてる声が、いつか罵声に変わるんじゃないかって。
そうなったとき、私はどうすればいいんだろう。今はクリムセリアが私だって知られてないけれど、今はネットで特定とかする人たちも多いし。でも、雑誌のインタビューとかは断れないし。テレビとかも、必要なことだって偉い人が言ってたし。
「誰か、助けてよ……っ!」
この不安をぶつけられる相手は、どこにもいない。お母さんにだって言えない。お父さんにも。魔法少女やってるだなんて、危ないから辞めなさいって言われるだけだもん。
私が、緋乃芹香がクリムセリアだって知ってる誰かに助けてもらう? 誰がいるって言うの。
同じ魔法少女の同期の子たちからは、私だけが目立ってるみたいに思われてるのは知ってる。だから、私は目立ちたがりの嫌な子だって、相手にしてもらえるはずがない。
魔法少女になる子たちは、どこか心の底で物語の中の魔法少女のようになりたいって思ってる子たちだって教えてもらったことがある。物語の主人公になりたいんだって。
……物語の主人公に、今一番近いのは私だ。だから、みんな私を羨んでる。
なってしまうと分かる。この座は、みんなが思ってるほどいいものなんかじゃないんだって。
嫌だ、嫌だ。捨ててしまいたい。全部やめて投げ出したい。
でもでもでも、投げ出せるわけがない! だって、私には守りたいものがあるんだから。
ああ、そんなことを考えながら歩いてたら、いつの間にかに、家の前までついてたみたい。
「あら、おかえりなさい」
「……ただいま」
玄関を開くと、すぐにお母さんの優しい声が聞こえてくる。
ああ、大好きな、私の優しいお母さん。
「どうかした? 元気がないけれど、学校で何かあったの?」
「――ううん! なんでもないよ! それよりも、お腹空いた、晩御飯何ー?」
「もう、帰ってきたばっかりでしょ。先に宿題は」
「ちぇー。わかったから、先にやってくるね!」
お母さんの前では、明るい元気な私でいないと。心配はかけたくないから。
靴を脱いで、パタパタと小走りで私の部屋に駆け込む。
部屋の扉を閉めて、一人部屋の中。学校のカバンを床に置き、扉を背中につけて、ずるずると座り込む。
私の家は、殆どお母さんと私だけ。お父さんは仕事が忙しいらしくて、あんまり帰ってこられない。休みの日とかには帰ってきてくれるけれど、平日なんかは全然無理みたい。
お父さんは優しくて私たちの事を愛してくれているからこそ、仕事を頑張ってくれているの。ってお母さんは言ってた。その分、お母さんは家の事を何も心配しなくていい様にしてるんだって。
同級生の子たちを見ていると、私は恵まれてるなぁ。って思う。運が良いって言うのかな。
特にお金に困ってないし、お母さんもお父さんも優しいし、不仲でもないし。不満なんて、どこにもない。
魔人の被害にあって、家族が亡くなった子だっている。何か一つ間違えば、それが私の家族だったかもしれない。
……そう、私は恵まれてる。だから、余計に思うんだ。私は頑張らないといけないって。
魔法少女クリムセリアがみんなの希望になってくれてるのなら、私は頑張らないといけない。逃げちゃいけない。それが義務だから。責任を果たさないといけない。
どんなに怖くても、どんなに辛くても、それを内に押し殺して、私は頑張るべきなんだ。
もう誰かの家族を犠牲にしないためにも。私の家族を守るためにも。
ぎゅっとその場で膝を抱えて座り込む。
耳の奥では、私を責める声が聞こえてくる気がした。
「わかってる。わかってるよ。でも、怖いのはどうしようもないよ……っ」
お母さんには聞こえないように声を押し殺して。
弱音を吐くぐらいは、許してほしいと願いながら。
――そんな時だった。
ピロンとスマートフォンが鳴ったの。
何だろうと思って通知を見ると、そこには魔法少女始めたての時にお世話になった先輩の名前――ルミコーリアさんの名前が表示されてた。
『最近調子どう? 少しお話できるかな?』っていう、今の私を見透かしたような文面を見て、私は涙をこらえきれなかった。弱い私が、耐え切れなかった。
だから、送ってしまった。『助けてください』って。縋れるものを、見つけてしまったから。




