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成人済み魔法少女@引退したい ~最強魔法少女は無自覚に人々を惹きつける~  作者: パンドラ
第二章 プリズシスタ編

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二十三話目 魔法少女は問いかけたい

 次の日、平日だけれど、私はルミコーリアに変身した状態で環ちゃんたちと一緒にいた。

 周囲の人々から視線が注がれている。魔人がいないのに、変身した魔法少女がいるのが不思議なんだろうね。

 写真とか撮影されてるから、一応それには応える。魔法少女のイメージ活動は大切だから。

 一緒にいる環ちゃんたちは変身してないまま映っているけれど、これから行く場所を考えれば大きな影響はない。

 せいぜい、あるとしても私の印象が落ちるぐらいだ。


 ……緊張してきた。大きく息を吐く。

 冷静に考えて、魔法庁の人たちも偉い人なんだけれど、これから会うのは一般的には会う事が絶対にない人だ。

 しかもこっちはまともなカードすら用意できてない。百戦錬磨の相手にどうしろっていうんだ。

 じゃあやらない? その選択肢は一番ありえない。私は年長者として、環ちゃんたちを導かないといけないんだから。


「お父さんには話を通してくれてるんだよね?」

「は、はいですわ。昨日のうちにこの時間に来るように、と聞きだしましたわ」

「忙しいはずなのにありがたい話だね」


 ほぼ無名に近い魔法少女が、会社のトップの人に話だなんて。あんまりある話じゃないよ。

 ああ、でも昔にテレビに出てみたいんですけどどうすればいいですかって相談して回ってる子はいたなぁ。懐かしい。


「それじゃ、そろそろ約束の時間の十五分前かな? 行こうか」

「え? いいんですの?」

「いいんだよ。もう十分話題になった」


 三十分前に会社のビル前にたどり着いて、そこで待機して人が集まるのを待つ。

 人が集まって、話題になったら、機を見て建物の中に入る。

 間違いなく話題になるだろうね。魔法少女が、関係者を連れて会社に入っていくんだから。

 これは私ができる、最大限のあがき。予想が正しければいいけれど、違った場合の保険も必要だからね。


 ビルの中に入って、受付の人に用件を伝える。

 魔法少女ルミコーリアが、穂坂武氏に会いに来ましたと。アポイントメントも確認取れたようで、私たちはとある一室に案内される。

 そこは取引先と使うような一般的な応接室ではなく、明らかに高級感の漂う部屋だった。

 少しの間待っているように言われたので、事前に決めてたことを再確認する。


「それじゃあ、お父さんとは主に私が話すから。環ちゃんたちは、できるだけ口出しはしないようにね」

「……はい。でも、認めて頂けるのでしょうか」

「そうなるように最大限努力するよ」


 嘘じゃない。

 それに、私が気にしてるのは環ちゃんのお父さんだけじゃない。

 ……トリムシスタ、千恵ちゃんもだ。

 ノックの後、部屋の扉が開かれた。


「お待たせしたようで申し訳ありません」

「いいえ、不躾な唐突の申し出、受けていただき大変恐縮です」


 できる限り丁寧に。礼節を欠かしていいことはない。

 ただ、向こうはそうは思ってなかったようで……。


「――失礼。では、お座りください。用件を伺いましょう」


 今、絶対に見た目と言葉遣いのアンマッチ差に違和感を覚えてたね。

 そりゃそうだ。今の私は明らかに娘よりも一回り幼い少女なんだから。

 思ったよりも普通の感性をしている人みたいだ。より勝算が高まった。というよりも、私の予想が正しい可能性が高まった。


 お互いに椅子に座る。二人は私の両隣に。

 この程度では顔に出さないか。


「その様子ですと、やっぱりご存じのようですね」

「……ええ。お話とはそのことについてですか?」

「その通りです。仮にも師匠となれば、弟子の面倒を見るのは当然のことでしょう?」


 できる限りの笑顔で答える。

 それでも、環ちゃんのお父さんの表情に大きな変化はない。

 彼は何かを考えてるようで、少し考える素振りを見せた後に、今度は向こうから口を開いてくれた。


「ルミコーリアと言えば、我々の間では有名人ですよ」

「そうなんですか?」

「ええ。伝説の魔法少女と名高い人物にお会いできて光栄です」


 伝説の、魔法少女?

 ちょっと待って、そんな風に呼ばれてるだなんて初耳なんだけれど。

 環ちゃんもそうなんですか? みたいにこっちを見ないで、私も知らないんだから!


「その呼び方は寡聞にも存じ上げませんが、こちらもお会いできて嬉しいです」

「なるほど、八年前の災害を一人で治めただけのことはあるようですね」

「――あの時は、みんなが弱らせてくれていたからですよ」


 八年前の災害。まだ魔法庁が本格的に動いてないときに起きた、最大の魔人被害。

 周辺の魔法少女総出で対処して、やっとの事で倒せた魔人がいたという話だね。

 確かに私がとどめを刺したんだけど、あれは先に他の子たちが弱らせてくれていたからで、私の功績じゃない。

 そんな私の内心を見抜いているのか、環ちゃんのお父さんは軽く笑ってみせた。


「そういうことにいたしましょう。では、場も温まったことで、本題をお願いできますか? 大変申し訳ありませんが、この楽しい時間を楽しみ続けるわけにもいかない身でして」

「それは失礼いたしました。では、さっそく本題に移らせていただきます」


 息を一度大きく吐く。

 さて、ここからだ。


「どうして、娘さんに本心をお伝えしないんですか?」


 率直に、直球に、いきなり本題を叩きつける。

 隣から驚愕が伝わってくる。対して、対面している彼は冷静だ。

 むしろ、疑問を感じていると言ってもいい。


「と、言いますと?」

「正直なところ、話を聞かせて頂いた限り、娘さんとあなたの間で重大な誤解が生まれているように感じたので、この度この場を設けさせていただいた次第です」

「ふむ……」


 私に注がれていた視線が、隣に移る。


「環」

「は、はいですわ!」

「何か私に言いたいことはあるか」


 環ちゃんからすれば、本当に初めて言われた言葉だったのだと思う。

 何を言われたのか、しばらくわからない様子だったから。


「どうした。あるならば、言え。遠慮することはない」

「……では、お願いがあります、お父様」

「なんだ、言ってみろ」

「どうか、魔法少女を続けることを認めてください!」

「ああ、構わん」


 あっさりと言い渡された言葉に、彼女の時間がしばし止まる。

 決死の一言ではあったはずなのに、すんなり受け入れられて混乱しているみたい。

 ここは私が繋ぐかな。


「いいんですか?」

「何がですかね?」

「穂坂家の娘として、ですよ」


 私のこの言葉で、何が勘違いされていたのかに気が付いたみたい。

 頭の回転早いなぁこの人。こういう人じゃないと企業のトップには立てないのかな。


「環」

「はい!」

「お前は穂坂家の娘であることを何と考える」


 この問題の根幹の問いだ。


「えと、それは、穂坂家の娘として恥ずかしくない振る舞いを……」

「恥ずかしくない振る舞いとは、なんだ」

「え……」


 彼からため息が漏れた。

 本当に、こんなすれ違いが起きているだなんて考えもしていなかったのだと思う。

 対面すれば分かる。この人は頭がいい人だ。


 頭がいいからこそ、劣等感に縛られた人の事が、意識するまでわからない。

 いいや、隠してた環ちゃんの演技も優れてたのかな。

 何にしても、悲しいすれ違いだと思う。


「……穂坂家の娘として生まれた以上、お前には義務がある」

「義務、ですか」

「そうだ。人の上に立ち、人を導く役目だ」


 私にはよくわからないけれど、生まれで色々と人生は左右されるのは分かってる。

 こういう家に生まれた子には、生まれたなりの人生があるんだろうね。


「魔法少女として人々を救う。大いに結構」

「では――」

「だが、全戦全敗とはなんだ」


 環ちゃんのお父さんの目が鋭くなる。

 威圧。一瞬、私も引いてしまいそうになるほどの貫禄がある。


「魔法少女は一歩間違えれば命を落とす。人々を導く役目がありながら、その命を軽んじる。その行いは、本当に穂坂家の娘としての自覚があったのか」

「あっ……」

「改善もせず、ただむやみに繰り返す。それは、穂坂家の娘として正しい姿勢だったのか?」


 穂坂家の娘として。

 この言葉は、決して環ちゃんの行動を縛るだけの言葉ではなかったんだ。

 ただ、気が付いていなかっただけ。

 不器用なお父さんなりの、激励の言葉だったことに。


「穂坂家に生まれた以上、お前には様々なしがらみがある」

「……はい、存じておりますわ」

「疎ましく思うことは構わん。だが、責任から逃げることは許さん。私からは、それだけだ」


 その言葉は、暗に責任を負う限り好きにすればいいという言葉で、本当に不器用な親子だと苦笑いしてしまう。

 フォローしておくかな。


「環ちゃん」

「はい? 何でしょう、ルミコーリア」

「要するに、お父さんは勝てるように頑張ってって応援してくれてるんだよ」


 私の言葉が想像の範囲外だったらしく、勢いよく顔をお父さんの方へ向けた。


「……無理はするな」

「――っ! はい!」


 良かった。全部丸く収まりそうだ。

 しかし、これが親子かぁ。

 ……いいなぁ。


「ちょっとお待ちください!」


 一人の子が、声を荒げた。

 ――やっぱり、あなたは納得しきれないよね。

 千恵ちゃん。トリムシスタは。

 あなたは、プリズシスタに戦ってほしくないみたいだったから。

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