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成人済み魔法少女@引退したい ~最強魔法少女は無自覚に人々を惹きつける~  作者: パンドラ
第二章 プリズシスタ編

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二十二話目 魔法少女は聞きだしたい

 次の日、特訓だなんて雰囲気はどこにもなくて。

 必要なのは、話を聞くことだと判断した私は、いつものカフェに二人を呼び出した。

 今回は芹香ちゃんは呼んでない。彼女がいたらできないような話もするつもりだから。


 いつものコーヒーを飲みながら待っていると、店の前に一台の高級そうな車が止まった。来たかな。

 二人が降りてくるのを確認して、一安心。環ちゃんと、もう一人はトリムシスタかな。

 このまま会えなくなる、なんてことも想像できたからね。


「……美羽さん」

「環ちゃんこんにちは。奥の部屋に移動しようか」

「……はい」


 環ちゃんの表情は暗い。

 一方で、トリムシスタの表情はどこか嬉し気にも見える。少なくとも、残念がっている様子はない。

 ふうむ。なるほど、そういうことね。


 ひとまず、一般客に聞かれることがないように奥の個室に移動して、二人に何か頼むように促す。

 私はもう一杯コーヒーを頼むことにした。


「それで、そっちの子はトリムシスタだよね。名前を伺ってもいいかな?」

「はい、綾織千恵と申します」

「千恵ちゃんでいいかな? よろしくね」

「よろしくお願いいたします」


 変身時と印象は変わらない。一歩引いた立ち位置で、従者然としている。

 さてはて、どちらかというと、千恵ちゃんを説得できるかどうかが肝になりそうかな。

 状況が私の想像通りなら、だけれども。


「それで、どうして魔法少女を辞めるって話になったのかな?」

「……お父様に、バレましたの。その、魔法少女をやっていることを」


 身内バレか。

 危険だから辞めさせたい、そんなところかな。これもよくあることだね。

 魔法少女は基本的に子供だから、親の都合には逆らえない。


「危険だから辞めろって?」

「直接は言われませんでしたが、『穂坂家の娘としての自覚は本当にあるのか』、と」

「家がおっきいんだっけ」


 黙って頷かれる。これに関しては調べればすぐ出てくる情報だから、環ちゃんも驚いたりはしないね。


「他にはなんて言われたの?」

「……負け続けてて全戦全敗と呼ばれてることも言われました」

「それで、辞めろって?」

「なんで続けてるのかって。報われる気配もないのに、傷つきながらって。それで、さっきの言葉を――」


 穂坂家の娘としての自覚はあるのか、と。なるほどねぇ。

 ……確かに、聞くだけ聞くと、辞めろと言っているように聞こえる。

 でも、おかしいな。違和感がある。


「直接辞めろって、言われたわけじゃないんだね?」

「…………はい」


 やっぱりそうだ。

 今のところのお父さんの印象は、厳格そうな人。そんな人が、自分の要求を明確に伝えないことがあるだろうか。

 ひょっとすると、これは環ちゃんの意思を確認しているだけなんじゃないかな?

 もしもそうならば、話はガラリと変わる。変わるんだけれど……その前にやるべきことがある。


「わかった。ありがとう。そのうえで聞くね、環ちゃんは魔法少女を辞めたい?」

「……辞めるべきだと、思います」


 また『べき』か。この子は本当に、難儀な子だね。思わず苦笑いしてしまう。


「責めるわけじゃないよ。でも、私はどうすべきかは聞いてないんだ、どうしたいかを聞いてるの」

「すべきならば、わたくしの気持ちだなんて関係ないではありませんか!」


 せきが切れたように環ちゃんが叫ぶ。

 ある意味、私の予想は正しかったみたいだ。

 この子は、ずっと抑圧と共にある人生を送ってたみたい。


「わたくしは穂坂家の娘です! そのための人生で、それ以外の人生など歩めません! 穂坂家の娘としてやるべきならば、わたくしの意思なんてどこにも――必要ないではありませんか」


 後半は吐き捨てるようになっていて、諦めの感情がにじみ出ていた。

 本当に、可愛そうな子だ。魔法少女は人々を救うけれど、同時に救われるべき子が多くいる。

 根本の話、危険な目に遭っても他の人を助けたいだなんて、正気の沙汰じゃない。

 クリムセリアは憧れを原料にして、その狂気に踏み入れた。

 じゃあ、プリズシスタ。あなたの狂気は、一体何?


「――環ちゃん」

「……はい、何でしょうか」

「あなたが魔法少女になろうと思った理由は、一体何?」


 この問題を解きほぐすには、はっきりさせるしかない。

 魔法少女という狂気に踏み入れるきっかけとなった、その感情を。


「それは、わたくしがやるべきだと思って……」

「本当に? なら、私たちを見たからこそ、自分がやる必要がないから辞めようって考えになるんじゃないかな」


 でも、そうは言わなかった。親に言われたからこそ、辞めるべきだと思ったと環ちゃんは語った。

 私は今残酷なことをしている。自分にすら嘘を吐いている子の、嘘を暴こうとしている。

 自覚はある。心は苦しい。けど、やらないといけない。

 この子が魔法少女を続けるために。あるいは、気持ちよく魔法少女を辞めるために。


「残酷だけど、はっきり言うよ。プリズシスタが辞めても、現状大きな影響はない」

「えっ」

「トリムシスタだけでも戦えるし、トリムシスタが一緒に辞めたとしても、まあ私がその都度全力で走れば何とかできると思う。少しぐらい被害は増えるかもだけどね」


 距離がある分、A市内よりもたどり着くのは遅れるからね。でも隣の市だから全力出せばそんな時間はかからない。せいぜい数分の差だね。

 二人と私の実力差を考えれば、なんなら私が一人で管理したほうが被害が抑えられる可能性すらある。これに関しては、口には出さないけれども。


「だから、環ちゃんがやる必要はどこにもない」

「そ、それは」

「聞き方を変えようか? 環ちゃんは何のために魔法少女になったの?」

「何の、ために」

「そう。目的は、なに」


 動機と目的は似てるようだけど、実際には違う。

 動機はどうしてそうしようと思ったのかというきっかけで、目的はどうなりたいかの最終到達地点だから。

 目的から動機は生まれる、より根本に近い問いだね。


 沈黙が場を支配する。時折場を終わらせようとしてるのか、千恵ちゃんが発言しようとするけれど、私が目でそれを制する。

 この答えは、どっちに転ぶにしても出さなければならない。


 どれだけ時間が経ったのか。ようやくのことで、環ちゃんは言葉を発してくれた。

 顔は伏せたままだから、表情はわからないけれど。


「……対等に、なりたかったからですわ」


 これから紡がれる言葉は、この子の聞かれたくない本音だ。

 だから、私は黙る。この子の悲鳴を、ちゃんと聞くために。


「魔法少女になれば、匿名性が保持されますわ。そうしたら、誰もわたくしだとわからなくなる。わたくしの生まれも、育ちも、何もかもが分からなくなる」


 泣きそうな声で、ぽつぽつと語る環ちゃん。

 心配そうな千恵ちゃんが、隣でどうするべきか手を彷徨わせている。


「そうすれば、そうすれば、きっとわたくしにだって……友達ができると思ったのですわ」


 魔法少女になれば、特別になれるからなるという子は多い。

 けれども、環ちゃんは普通になりたくて魔法少女になったんだね。


「そうです! そうですわ! やるべきだなんて嘘でした! 打算でしかありませんでしたわ!」

「お嬢様……」

「千恵にまで付き合わせて! でも、わたくしは魔法少女としても不適格で、魔人すら倒せない、何もできない、こんな魔法少女が他のキラキラしてる魔法少女と対等だなんて、到底思えなくて……」

「――だから、これまで二人でずっと抱えてたんだね」


 顔がこちらを向いた。涙でぐちゃぐちゃで、とてもお嬢様がしていい表情ではなさそう。

 私は微笑む。それだけ悩んでて、よくこれまで頑張ったね、と。


「わかった。じゃあ、魔人を倒そう」

「――え?」

「計画を変えよう。トリムシスタの力を借りるのもなしだ。正真正銘、プリズシスタの力のみで、魔人を倒そう」


 私のこの言葉には、千恵ちゃんも驚いたみたい。

 二人の大きく丸くなった目が、私が破けてしまいそうなほどじっと見てきている。


「そんなの、できるはずが――」


 環ちゃんの言葉には、期待がにじみ出ている。

 口では否定してても、希望を捨てられずにいる。

 私はその希望を肯定してあげよう。大丈夫、あなただって、立派な魔法少女なんだから。


「できるよ。セレネシアに話を聞いたんじゃない? あの子だって、魔人と戦って、きちんと倒してる」

「あっ……」


 そう、魔法が戦闘向きじゃなくても、魔人を倒すことはできる。

 じゃあなんでそれを教えなかったのかというと、トリムシスタとの組み合わせ前提で考えていたから。トリムシスタと協力すれば、プリズシスタが直接戦える必要はどこにもないから。


 今回のこの問題は、プリズシスタが一人で乗り越えなければならない。

 だから、その手助けをしよう。

 私は、この子の師匠なんだから。


「で、ですが、お父様は……」

「ああ、その件に関してだけど」


 私の予想さえ正しければ、何とかできる。

 でもなぁ、あんまり魔法少女の行動としてはよろしくないんだけど……話を聞いてもらうためには、利用するしかないよね。


「環ちゃん、これは提案なんだけれど」

「はい」

「私を――いいや、魔法少女ルミコーリアを、お父さんに紹介してくれないかな?」

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