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成人済み魔法少女@引退したい ~最強魔法少女は無自覚に人々を惹きつける~  作者: パンドラ
第二章 プリズシスタ編

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二十話目 魔法少女は知りたい

『クリムセリアの弟子入りの話は私も聞いてるよ。ルミコーリアさんに弟子入りしたんだよね』

「その方に弟子入りをして、わたくしは周りと交流したほうが良いと言われましたの」

『そうなんだね。それで連絡してきたんだぁ。プリズシスタはB市付近だもんね。クリムセリアはA市で、私はC市付近だからってことかぁ』


 家に帰った後、さっそく魔法少女アプリでやり取りの続きをすることにしましたわ。

 相手の魔法少女の名前はセレネシア。人の心を落ち着かせる鎮静の魔法が使えるらしいですわ。

 年はわたくしの二つ上。十五歳で、高校生一年生だそうですの。

 なんだか、あれほど躊躇っていたのがおかしいぐらい、実際に話してみればスムーズに会話ができております。


『私はあんまり戦うのに向いてないから、ルミコーリアさんには時々お世話になってるよ』

「はえっ!? そうなんですの?」

『うん。私の魔法は戦闘向きじゃないからね。あの人は面倒見がよくてね』


 確かに。C市には他にも魔法少女はいますけれど……わたくしたちが本日留守にしたように、必ずその市に住んでいる魔法少女がいるわけではありませんものね。

 魔人の登場のタイミング次第では、近隣の市から魔法少女が救援に来ることもあるはずですわ。


「では、セレネシアはどうやって戦ってますの?」

『私はあんまり戦いが得意じゃないね。必要な時は戦ってるけれど、他の魔法少女頼りが多いかな?』


 戦わない魔法少女、ですの?

 魔法少女ですのに?


『今、魔法少女なのに戦わないんだって思ったでしょ』


 うっ、チャットでのやり取りなのに見透かされておりますわ。


『戦うばかりが魔法少女の仕事じゃないよ。確かに、それがメインに扱われてることは否定できないけれども』

「……そうなんでしょうか」

『ルミコーリアさんは、プリズシスタが真っ先に私に連絡することも見越してたんじゃないかな?』


 そうなのでしょうか。考えてみれば、そのような気がしなくもありません。

 だって、A市の二人と知り合ったのですから、近隣のC市の魔法少女に連絡するのは自然ですもの。他にもD市とも接しておりますけれど、可能性は低くありませんわ。

 実際、セレネシアを選んだのにも理由がありますもの。

 ……優しい人だと、噂を聞いていたものでして。その、それでも怖かったのが実情ですが。


『環ちゃん。本当にそれ言ってるの?』


 過去の声が、脳裏に呼び起されます。

 小学校にて友達を作ろうと話しかけた時の言葉。わたくしが、どれだけ愚かなのかを教えてくれた子の言葉を。

 あの時は、どうして失敗したんでしょうか。


 ピロンという通知の音で、わたくしは現実に引き戻されます。

 いけませんわ。人とチャットながら会話している最中に物思いに耽るだなんて。


『それでも戦うことを選んだプリズシスタは偉いと思うな』

「セレネシアは、普段どうされてますの?」

『ん、お医者様に協力して、病院を回ってることが多いかな。後は、学校を訪問して子供たちの相手をしたりしてる』

「魔法少女のイメージアップ活動をなさっているのですね」


 現在、社会における魔法少女のイメージは非常に良いものです。

 魔人と戦って守ってくれるというのもありますが、社会的には写真集を出したり、セレネシアがおっしゃったように社会奉仕をしたり。ただ魔人と戦うだけの存在ではありません。


 魔法という特殊能力を使って、人々の生活を豊かにしている側面もありますもの。

 人によっては児童労働だなんていう方もおりますが、形態としてはボランティアに近いですわね。

 写真集などを出してる方は、モデルや芸能人のような扱いでしょうか。クリムセリアとかそうですわね。


『違うよ、やりたいからやってるの』

「ですが、立派なことですわ。魔人と戦うよりも、忙しいはずですから」

『ありがとう。でも、怖くても魔人と戦ってる方が立派なことだよ』


 怖くても、ですか。

 本当に、セレネシアはこちらの内心を見抜いているかのようですわね。

 

『言おうか迷ったんだけど、実はルミコーリアから少し連絡貰ってたんだよね』

「え、そうなんですの?」

『うん。詳しい内容は教えられないけれど、もしもプリズシスタから連絡が来たらよろしくしてあげてって』


 ――本当に、立派な方ですわね、ルミコーリアは。

 わたくしの内心の恐怖も見透かされていただなんて。そんな気配、出したつもりはなかったのですけれど。


『ねぇ、色々とプリズシスタの事を教えてほしいな』

「どうしてですの?」

『んー? 年長者としての勘、かな? なんか、放っておけなくて』


 放っておけない。つまり、未熟者として認識されているわけですか。

 この少しの間のやり取りでも、それがにじみ出てしまっていると。


『ねぇ、どうしてプリズシスタは魔法少女になって魔人と戦おうと思ったの?』


 ……表示された文面に、わたくしはしばし硬直します。

 どうして魔法少女になろうと思ったのか? どうして魔人と戦おうと思ったのか?

 思わず視界にノイズが走ります。

 答えなければ。わたくしがやるべきだと思ったからだと。

 ――本当に? あの輝きを目の当たりにして、まだそう言い切りますの?

 この体たらくから、まだ目を逸らし続けますの?


 画面をタップする指が止まりました。

 どうしてでしょう。書くべき内容は明白ですのに。

 ルミコーリアには高らかに宣言できたでしょう? あれは嘘偽りだったというのですか穂坂環。


 ……わたくしの逡巡は、またしても外部からの刺激によって中断されてしまいます。

 部屋の扉がノックされました。


「お嬢様。千恵でございます」

「――千恵。入って頂戴」


 部屋の扉が開かれて、千恵が入ってきます。

 その表情は硬く、決して良い話ではないということが分かります。


「……(たける)様がお呼びです」

「お父様が? わたくしを」

「はい。食事を共にするようにと」

「はい?」


 思わず素っ頓狂な声が出てしまうほど、驚きです。

 お父様が?


「い、今参りますと」

「はい、お連れ致します」


 千恵に連れられて、移動を開始いたしました。

 お父様が待っているとの事なので、手早く外に出て車に乗り、目的地へと移動します。

 そうだ、この隙にセレネシアに返信をしなければとスマホを見ます。


「お嬢様……その、どうですか?」

「あっ。えと、上手くやれていますよ」


 千恵に話しかけられて、スマホを取り出そうとした手をそっと止めます。


「セレネシアでしたよね。お嬢様が選ばれた、最初の相手は」

「ええ、そうですわね」

「事前の情報では心優しいと評判でしたが……?」


 事前の評判など当てにならないことを、わたくしたちはよく知っております。

 おりますが、今回はその通りでしたね。間違いなく、彼女も善良な方です。


「大丈夫ですよ。何もされてませんから」

「それなら良いのですが……」


 この様子を見るに、千恵はわたくしが人と関わること自体に反対なのでしょうね。

 付き人なので従ってはくれていますけれども。まあ、これまで見たものを考えれば、分かる気はします。


『友達って、何なのか考えたことある?』


 ――あの子の言葉は、未だに私の胸に刺さってる。

 わたくしが犯した過ちは、消えてくれはしない。

 友達だなんて、本当にわたくしが作れるのでしょうか。

 わたくしは、あの輝きを前にしても、魔法少女をしていてもいいのでしょうか。


 だって、わたくしはどうしても不出来なのですから。

 結局のところ、その日のうちにセレネシアに返信することはできないままでした。

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