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成人済み魔法少女@引退したい ~最強魔法少女は無自覚に人々を惹きつける~  作者: パンドラ
第二章 プリズシスタ編

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十九話目 魔法少女は繋がりたい

 帰りの車の中、わたくしはじっとスマホの画面を見つめます。

 そこに映るのは魔法少女アプリの画面。SNS機能も持つこのアプリには、魔法少女なら誰もが登録されておりますの。

 表示されてるのは、隣町のまともな交流もない魔法少女の名前。その方に、メッセージを送ろうとして……どれ程の時間が経過したことか。


「……環お嬢様」

千恵(ちえ)……」


 トリムシスタの姿を終え、今はわたくしのお付きである彩織(あやおり)千恵が、こちらの様子を窺ってきております。

 考えていることはわかっておりますとも。

 お互いに産まれてからずっとの付き合いですもの、わからないはずがありませんわ。


「わたくし自身で、やった方が良いと納得した上での行動です」

「どうか、ご自愛ください」


 千恵はわたくしについてはなんでも知っております。

 だから、わたくしが自身から他者と関わろうとすることが何であるのかも。


『お前は人と違うのだということを自覚しろ』


 アプリで文字を打とうとするたびに、お父様の言葉が聞こえてくるかのよう。

 手が震えて、自分がしていることが正しいのかわからなくなります。


 私が生まれた穂坂家は、いわゆる財閥系の家系とでも呼べばよいのでしょうか。日本有数とは言えずとも、他の方々とは確かに環境の違う家でしょう。

 事実、わたくしは生まれた瞬間に付き人がいるということに何ら疑問を持たずに過ごしてきましたもの。


 小学校も、財力のある家の子が集まるようなところに入りました。だからでしょうね、気が付くのに遅れが生じたのです。

 わたくしたちは、普通であってはいけないのだと。


『人を使う意識を常に持て。不出来なお前でも、その程度はできるだろう』


 これも、お父様の教えです。他人とは対等ではなく、扱うものなのだと。わたくしたちは選ばれたものなのだと。

 今ならわかります。これは前時代的なものなのだと。同時に、それがまかり通る環境にわたくしはいるのだと。


 わたくしが魔法少女に憧れたのは、幼稚な反発心なのかもしれません。

 だって、その……どうしても、羨ましかったんですもの。

 対等に話し合って、笑い合って、友達という関係性が。


 わたくしには、穂坂家の人間には、許されないのです。対等な友達だなんて、必要ないのですから。

 あるのは、使う人と使われる人。もしくは、より上を目指すための取引相手。


 思わず苦笑してしまいます。ルミコーリアにはあれほど元気よく返事をしておきながらこの体たらく。笑い話もいいところですわ。


「いざ、となると中々踏ん切りがつかないものですわね」

「当たり前です。お嬢様は今、初めて、対等な人間関係を築こうとなさっているのですから」


 対等な、人間関係ですか。

 友達とも少し違う、不思議な関係ですわね。かといって、取引相手とも違う。

 人の下につくことはすんなり受け入れられたというのに、対等となるとここまで恐ろしくなるものですか。


『環ちゃんっていっつもそうだよね! 何もわかってない!』


 ――いいえ、きっと実績があるからこそすんなり受け入れられただけなのでしょうね。例え、相手が最年長の魔法少女だとしても。

 矮小なわたくしの心根など、よく知っておりますとも。


「学園では、お互いに魂胆が分かっているからこそ付き合える。ルミコーリアには、弟子を取るような人物であることを知っていたから声を掛けられた。ですが、何もわからない相手には何も話しかけられない。何と臆病な人間なのでしょうね、わたくしは」

「お嬢様……」


 本当に、ため息も出てしまいます。

 たかだかこの程度の事もこなせないわたくしは、本当に不出来で仕方がありません。

 特訓も、ルミコーリアがあっさり提示した答えにわたくしはたどり着けませんでした。

 実に不出来。恥ずかしい限りですわ。


 幻影の使い方も、教えられて初めて気が付いたことばかり。もう一年以上付き合っている能力を、本日見たばかりの人に教えられるだなんて。

 ルミコーリアのような方こそが、本当に才能がある方なのでしょうね。

 クリムセリアのような輝きも、きっと天性のものなのでしょう。


「お嬢様、諦めるという手もございますよ」

「いいえ。それだけは、選ぶわけにはいきません」

「お嬢様……」

「ありがとう、千恵。あなたがわたくしに気を使ってくださってるのはわかってますわ」


 でも、やらなければなりません。

 魔法少女という役職だけは、わたくしの意思で選んだものなのですから。

 自ら選んだ道すらまともに歩めない人間に、一体何ができるというのでしょう。

 お父様の操り人形? 使われるがままの駒? それを是としないからこそ! 魔法少女に憧れたのではありませんか!

 自分の意思で、誰かの心を守れる魔法少女に!


 決死の覚悟で書いた文章は、差しさわりのないものでした。

『B市の魔法少女であるプリズシスタです。いきなりで不躾ですが、少々お時間いただいてもよろしいでしょうか』

 後は送信ボタンを押すだけですの。


 深呼吸を、大きく一回、二回。

 心に決めて、送信ボタンを――。

 不意に、スマホが鳴りました。何とタイミングの悪いことか、電話です。


「は、はい!」

『どこで何をしている』

「……お父様」


 隣で千恵の息を呑む気配を感じました。

 お父様はわたくしが魔法少女をやっていることは存じておりません。

 ですので、必死に誤魔化す術を考えます。


 もしも知られればどうなるか。辞めさせられるに違いないでしょう。

 当然です。人を使うべき穂坂家の娘が、自ら危険なことをしているのですから。

 そんなもの、他人にやらせればいいと言われるに決まっております。

 

「その、最近できた友達と、少し遠出を」

『友達だと? お前に?』

「……はい」


 咄嗟に出た嘘は、なんとも無様なもので。

 いたことがない存在と一緒にいた? おかしな話ですね。


『相手の家はどんな家だ』

「家、ですか」

『まさか、知らずに付き合っていたわけではないだろうな』


 存在しない相手の家だなんて答えられるわけがありません。

 それでも、沈黙はもっともまずい選択肢。何かは答えなければ。


「……普通の、その、一般家庭だと」

『そうか』


 それだけ言われて、しばしの沈黙が続きます。

 切られないということは、まだ何か言いたいことがあるという事。試練はまだ終わっておりません。


『お前には、穂坂家の娘としての自覚はあるか』

「もちろん、ございます」

『にも関わらず、一般家庭の人間と友達になったと。その意味が分かっているのか?』


 ああ、やはり許してはいただけないということでしょう。

 わかりきっていたとはいえ、遠ざかる友達という言葉の輝きに、胸の奥に荒涼感が広がります。


「お嬢様、私が代わりに――」


 静かに首を振って、千恵の提案を拒絶します。

 わたくしならともかく、千恵が失態を犯したとなれば、何が起こるか分かったものではありません。


「わかっております」


 確かな意志をもって、わたくしは答えました。

 心臓はバクバクと高鳴っており、もしかしたら電話越しに聞こえてしまうのではないかと心配になるほど。


『……返事ばかりはいいな。さっさと戻ってこい』

「はい、わかりました」


 その一言と共に、電話は切られました。

 ……ひとまずは、何とかなったという事なのでしょうか?


「お嬢様、大丈夫ですか?」

「はい、何とか……なったのですかね?」


 一息つきます。今回は見逃していただけた、ということなのでしょうね。

 ですが、一般家庭の人と友達になる意味とは、いったい何なのでしょうか。

 物思いにふけっていると、ピコンと手元で音が鳴りました。


「あっ」


 電話に出たことで忘れていましたけれども、ちょうど魔法少女アプリでチャットを送ろうとしていたところだったのでした。

 思わず凝視してしまったアプリでは、すでにメッセージが送信されてしまった後で、何ならばさっそく相手から何か入力しているのが分かる仕様にすら困惑させられます。

 で、ではもしかしたら長々と文章を書いては消してを繰り返していたのを見られていた可能性があるということですの!?


「あっ」

「あっ」


 ピコンともう一度音が鳴って、帰ってきたメッセージは、『急にどうかしたの? 大変なことがあったの?』だなんて、とても優しい言葉でした。

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