壊滅
「ふ、ふざけんじゃねー! 手前こんなことしてタダで済むの思ってんのか! 俺はブッハ=ニルデラートだぞ!」
「それはもう聞き飽きた」
男は肩をすくめて首を振る。
「ここに来るまで散々聞いた。こんなことしてタダで済むと思っているのか、ってな。だが、俺はこうして五体満足だ。いつになったら何か起こるんだ?」
「舐めんな! 舐めんなーー!!」
ブッハは机の引き出しからナイフを取り出すと男に向かって斬りかかった。
が、男はナイフを持った手を捻るとナイフを奪い取り、その手に突き刺した。
「ぎゃーーーーー!!」
ナイフを抜いて叫ぶブッハであったが、男は眉一つ動かさず、静かに告げる。
「黙れ」
その一言でブッハは押し黙った。
そして、実感した。
支配されている。
この支配者である自分が、この場では蟻の如くちっぽけな存在のように支配されている。
この、絶対的な支配者によって。
こんなことになっているというのに、構成員は誰一人やって来ない。
改めて実感した。
やられたのだ。
自分以外の全員がたった一人の男に倒されたのだ。
「さて、じゃあまずは金目の物でもいただこうか。資金はいくらあってもいいからね」
そう言うと男は辺りを探索しだした。
隠し金庫の場所が割れるまで大して時間はかからなかった。
しかし、金庫はぶ厚い鉄製である。
「残念だったな。その金庫の鍵の場所は俺しか知らねえ。死んでも喋らねーぞ!」
「えい」
バコン!! という音と共に金庫が拳で破壊された。
もう空いた口が塞がらない。
男は金庫に入るとそれ程大きくもなさそうなアイテムボックスに次々と金品を投げ入れていく。
「や、やめろー! こんなことして、こんなことして・・・」
こんなことしてタダで済むと思っているのか。
そう言ってやりたかった。
だが、言葉が出てこなかった。
今、これ程虚しい言葉もないだろう。
男は金品を全て袋に収納すると、満足そうに頷く。
「悪党は銀行に預けずにたんまり持ってる。これまで貰ったもの全部合わせると三十億にはなるかな」
構成員は全員倒された。
活動資金も奪われた。
もうブッハには何も無い。
男はゆっくりとブッハの近くに寄る。
「さて、お前はこれまで何人殺して来た? 直接と命令して殺した人数合わさると何人になる? 百か? 二百か?」
数えてなどいないが、それを超える人数は殺して来ただろう。
自分の様な闇の住人もいれば、善人だっていた。
泣き叫ぶ女子供も容赦なく殺してきた。
だが、それを正直に言うのはあまりにも怖い。
この男の気分を害するのはわかっているからだ。
「沈黙は肯定と見なす」
「・・・殺しは数えきれないほどやってきた。それが暗黒街のやり方だ」
「そうか。慈悲を与える必要は無さそうだな」
男は剣を抜く。
ブッハは荒々しく息をしながら懇願した。
「助けてくれ・・・」
「それが最後のセリフか。案外陳腐だったな」
この日。
長年暗黒街を支配していた闇の帝王ニルデラートファミリーが壊滅した。
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