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死神が、来た

「おい、ドワルド! しっかり報告しやがれ!」


 ニルデラートファミリー傘下の組員の一人ドワルド。

 ファミリーの中でも知られるバリバリの武闘派である。

 そんなドワルドが今は酷く小さくなってしまっているではないか。

 ブルブルと震えながら、顔面蒼白にして、ぽつりぽつりと話し始めた。


「男が一人。来やした。そいつは見張りの組員を問答無用で倒して、俺たちは戦闘体制に入って戦いやしたが」


 顔を上げ、今にも泣き出しそうにドワルドは半笑いしながら続ける。


「なんにも、なんにも出来なかった。獲物の短い奴はあいつの間合いに入った途端斬られやす。投げナイフも弾かれる。間合いの長い奴は気づいた時には目の前にいて、どうすることも出来なかった。魔法も効かなかった。あいつの剣は魔法を斬りやす。全て無駄でした」


 ブッハは唸る。


「囲んじまえば良かっただろうが」


「やりやした! けど、けど、いつの間にか斬られてやした。信じられやすか? いや、実際見てもまだ信じられねえ。囲んで斬りかかったのに、前は勿論、後ろの奴も斬られてるんでやす。訳がわからねえ!」


 ドワルドはガタガタ震える右手を震える左手で押さえながら口を舐める。


「あいつは淡々と俺たちを斬って、金目の物と奴隷を連れて出ていきやした。なんにも、なんにも出来なかった。俺たちはもう、駄目です。無理でやす。あいつに立ち向かう気力が湧かねえ。たとえ、ニルデラートファミリー全員が総出でかかっても勝てねえ。そう、確信しちまった」


「ふざけんじゃねー!! そりゃ俺たち含めてって意味か? こっちにはまだ三羽烏(さんばがらす)だっているんだぞ!」


「三羽烏でも無理だ。あいつには、勝てねえ」


 三羽烏はニルデラートファミリーの特集構成員だ。

 ファミリー最大の戦闘力を誇り、三人揃えばSランク冒険者にも負けないと言われるニルデラートファミリーの守護神である。


 ブッハは思った。

 ドワルド(こいつ)は本当に駄目だと。

 三羽烏が勝てないと思えるなど、明らかに異常だ。

 もう立ち直れないだろう、と。


 その時、


「ボス! き、来た! きっとあいつだ! 男が一人乗り込んで来やがった!!」


 死神が、来た。


「ひいいいいーー!!」


 ドワルドは怯えた猫の様に丸まって、部屋の隅に移動してしまった。

 これがかつては自分にも堂々と意見するあの派閥最大の武闘派の成れの果てとは。


「来やがったか! ようし、全員出やがれ! そいつを殺すぞ!!」


 ブッハは既にかなりの興奮状態にあった。

 ここまで舐めた真似をしてくれたのだ。

 ただではおかない。


「見ていやがれ。半殺しにした後で家族、恋人、知人。まとめて目の前で殺してからじっくり痛ぶって殺してやる。必ず後悔させてやるぞ!」


 自分も行くべきか?

 いや、慌てるな。

 ここでどっしりと構えて報告を待つのもいい。

 そう思って椅子に腰掛けていると、ドアがキィと開いた。


「どうした? もうやっちまったか?」


 しまった。

 半殺しにしろという命令を伝えていなかった。

 殺してしまったか?


 現れたのは構成員の一人。

 しかし、一向に喋らない。

 不審に思って口を開けようとすると、


「ばけ、もの、だ」


 その場でバッタリと倒れてしまった。


「なっ、何してやがる!?」


 椅子から離れ、構成員に近づこうとすると、一人の男が立っていることに気がついた。

 背筋がゾッとした。

 まさか、この男が?


「邪魔するぞ」


 男はここがニルデラートの本拠地であることなど、まるで気にした風でもなく、ゆっくりと入って来た。

 それを見たドワルドが泣き叫ぶ。


「ヒイイイィ! ボス、こいつだ。た、助けてくれー!」


「あ、おい!」


 なんとドワルドはボスの自分を放っておいて一人で逃走を図った。

 本来であればあり得ない異常事態である。

 それ程までにこの男が脅威だとでもいうのか。


「手前何もんだ? 何処かの組のもんじゃねーよな?」


「お前を恨んでいる奴なんて、いくらでもいるだろ」


 勿論いる。

 しかし、実行に移すかは別問題だ。


「よくもここまで舐めた真似してくれたな? 何が狙いだ?」


「お前らがいると困るんだ。だから潰すことにした」


 まるでハエを追い払うくらいの気安さだ。

 完全に舐められている。

 血管が浮き出た。


「ふざけやがって! おい、何ここまで侵入を許してやがる!? 手前ら出てこい!」


 ブッハは大声で叫ぶが、誰もやって来ない。

 誰も返事をしない。


「おい・・・」


 もう一度呼びかけるが結果は同じ。

 まさか、まさか。


「全員寝てるぞ。お前以外はな」


「なっ! ふ、ふざけんじゃねー! そ、そうだ。三羽烏! 三羽烏何やってる!? 出てこい! こいつを殺せ!!」


 ブッハは切り札の三羽烏を呼ぶ。

 しかし、やはり出て来ない。

 間違いなくこの建物内にいる筈なのに。


「三羽烏ってあの黒いローブと黒いマスクをつけた厨二っぽい奴らか? あっちで倒れてるぞ」


「ま、さか。手前、三羽烏までも」


「他の奴らよりはいくらかマシだったな。まあ、だからどうしたって程度だったけど」


 まさか、じゃあ本当に?

 やられたのか、三羽烏が。

 この短時間で。

 あり得ない。

 ニルデラートファミリー最高戦力がいとも容易く!?


 正直ブッハは報告を話半分で聞いていた。

 あまりに現実感がなかった為、何処か他人事だった。

 だが、ここに来てようやく実感が湧いて来た。

 やられたのだ。

 構成員も三羽烏も、こいつ一人に。


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