ご飯を食べよう
「さあクレア。どんどん食べていいからね」
俺たちは宿を取るとすぐに食堂に向かった。
そして、色々料理を並べてもらったのだ。
クレアはそれを驚きながら眺めていた。
「お、お兄ちゃん。このご飯、あたし食べていいんですか?」
「うん、いいよ。好きなだけ食べな」
「ふあぁ〜」
俺が笑って進めると、クレアは目を輝かせた。
パンにスープにサラダ。
それと肉。
肉は多めだ。
育ち盛りだからな、タップリ取ってほしい。
クレアは俺たちを見回すと、
「ほ、本当にこれ食べていいんですか?」
不安と期待が入り混じった声で訪ねてくるクレアに、俺は憐憫の気持ちを少しだけ滲ませて笑って見せた。
「ああ。好きなだけ食え」
ゴクリと喉を鳴らし、もう待てないとばかりにクレアは料理に手をつけた。
可哀想に、こんなまともな料理は初めてだったのだろう。
本当に幸せそうに食べる姿を俺たちは黙って見守った。
クレアはとうとう涙を流しながら食べ続ける。
「美味しい。美味しいよぅ〜」
堪らなく、この子を抱きしめてやりたい衝動に駆られるが、今は食事中だ。
俺たちも遅まきながら食事を取る。
「足りなかったらまた注文するからどんどん食べな」
「は、はい!」
口の周りに食べかすをつけながら、それに気づくこともなく、クレアはただひたすらに料理を食べ続けた。
「う、ぐ・・・」
はち切れんばかりに腹を膨らませたクレアはベットの上で倒れ込んでいた。
元々胃も小さくなっていたのだろう。
クレアの限界は結構早く来た。
それでも本人によれば一週間分は食べたと言うので、これまでどんな食生活を送ってきたのかが窺える。
「すいません。動けません」
クレアをこの部屋まで運んだのは俺だ。
この子は食堂から動けなくなっていたから。
「いっぱい食べたわねクレア。今日は私と一緒に寝ましょうね」
「あ、あたしは床でも全然」
「ダメよ。何言ってるの?」
ステラは首を振ってクレアの発言を取り下げた。
「今までそうしていたのね。これからはずぅっと貴方の寝床はベッドよ」
「いいんでしょうか?」
「当然でしょ」
「あ、あたし、こんなに幸せでいいんでしょうか!?」
その言葉に俺は絶句した。
ただ食事を取って、そんな高級でもないベッドで寝るだけ。
ただそれだけでこんなに幸せと言うクレアのこれまでの生活が不憫でならなかった。
俺はそっとクレアの手を握る。
「お兄ちゃん?」
「これからはこれが当たり前になる。幸せはまた別にとっておかないとな」
「あたしには夢みたいです」
さらさらと頭を撫でてやると、クレアは嬉しそうに目を細めた。
そして夜。
クレアの件で大変だったが、ステラの護衛の任務を忘れてはいけない。
俺とアルトスはこれまでと変わらずに交互で見張りをしていた。
もうステラが狙われることはないとは思うが油断は出来ない。
ステラはエルフの姫。
VIPなのだ。
アルトスは先に眠らせて、俺はステラたちの部屋の前で筋トレをしつつ、クレアのこと、そして奴隷のことを考えていた。
クレアの様な不憫な子供の奴隷がこの国には沢山存在するのだという。
正確な数は分からないが、奴隷だけで千人を軽く超える数らしい。
日本人の俺からしたら奴隷など信じられないことだが、この国には平然と存在する。
奴隷制に強い嫌悪感を抱き、俺はこの気持ちを整理することができずにいる一方で自分の変化に戸惑ってもいた。
俺は元々こんなことで義憤に駆られる性格ではなかった。
それどころか、おそらく昔の自分であったならこの奴隷制度を受け入れ、いや、喜んで女性の奴隷を買って性の捌け口にしたのではなかろうか?
そんな自分を想像し、吐き気を覚えた。
「クズだ」
改めて老師に感謝した。
健全な精神に育ててくれた師に心からの感謝を捧げると共に、これからの事を考えていた。
奴隷制度などという悪法をこのまま許すのか?
偶々目についたクレアだけを助けて満足か?
このまま何事もなく、ステラたちとエルフの里に向かうのか?
俺の中で大きな名状し難い思いが渦を巻いていた。
その時、女子部屋のドアが開いた。
「セイマ」
「ステラ、どうした? 眠れないのか?」
ステラが部屋から出てきた。
その目は何かを決意した様な、そんな強い眼差しをしていた。




