この子は連れて行く
「あいてててててて!!」
腕を捻られた男は堪らず悲鳴を上げた。
俺は掴んだ腕を離して男に睨みを効かせる。
「な、何をしやがる!?」
「奴隷だろうがなんだろうが、こんな小さい子を鞭で叩いて恥ずかしくないのかお前は!」
「黙れ! 俺の奴隷だ。どう扱おうが俺の自由だ!!」
「あんたねえ!」
激怒しているステラは男をぶん殴ろうと拳を握る。
男はそれを察して、体を硬直させた。
「この、クズ!」
殴られた男は大して打たれ強くなかったようで、よろよろと倒れる。
「ちくしょうが! なんで俺が殴られなきゃならねーんだよお! それもこれもテメェのせいだぞ奴隷! 覚悟しやがれ帰ったらたっぷりと教育してやるからな!」
「ひ、ぃ・・・」
また鞭で叩かれるのかと、女の子は震え上がった。
それを見て不快感を感じない奴はいないだろう。
少なくともまともな感性を持つ者なら、この男を嫌悪する筈だ。
俺も殴りつけたい衝動に駆られるが、俺が殴ったらこいつ死ぬな。
なので違う方法でこの子とこの男を引き離す。
「この子は連れて行く」
「は?」
男はポカンとして俺の言葉を聞いた。
「この子は俺が連れて行く。もうお前の好きにはさせない」
「セ、セイマ。本気?」
ステラは驚いて尋ねてくるが勿論本気だ。
この子とこの男を一緒にしていたら、誇張なくこの子は死ぬかもしれないから。
「こいつがいなくなったら、奴隷がいなくなるんだよ」
「お前が働けばいいだろう」
「俺には俺の仕事がある。家事は奴隷の領分だ」
簡単にはこの子を手放さないらしい。
俺は次元収納袋から百万ルピンを取り出した。
「これで手を引け」
「こんなに、ひ、百万はある、か?」
奴隷の相場は知らないが、こんな小さい子だ。
奴隷商も高値では売らないだろう。
この金で十分元は取れると思うのだがどうだろうか?
「本当にこれを俺にくれるのか?」
「ああ、これでこの子は諦めろ」
じっと金を見つめた男はニタリと笑って金を掴み取る。
「もう返さねーからな。この金は俺んだ」
「ああ、それでいい。行け」
俺は顎をしゃくると男は金を握りして去っていった。
俺は女の子に近づくとしゃがみ込んで女の子と視線を合わせてニコリと笑った。
「もう大丈夫だよ」
「・・・」
まだ状況が掴めないらしい。
女の子はポカンとして俺をマジマジと見つめている。
話さなきゃいけないことは沢山あるが、先ずは何を置いても。
「ステラ。この子の傷を治してくれないか?」
「あっ、そ、そうね」
鞭で叩かれて、この子の体にはあちこちミミズ腫れが出来ている。
話すのはこの傷が治ってからだ。
「さあ、大丈夫だからね。お姉さんに任せなさい」
「・・・あ・・・」
ステラが手を近づけるとびくりと女の子は震えた。
「ステラ。手は下から出してあげて。上からだと多分叩かれるイメージがあるんだ」
「あ、ああ。そうね」
ステラは極めて優しく手を差し出すと、傷口に治癒魔法をかけて彼女を癒す。
その間特にやることもなく俺はただ二人を見つめていた。
「セイマ殿。この子をどうするのですか?」
リーゼが尋ねてきた。
「んー、そうだな。あんな男の所にいるよりは何処かの孤児院にでも預けてあげたいんだけど」
俺が連れて行くのもやぶさかではないが、この旅にこの子を連れて行っていいものか悩む。
ただ、あの男から助けたのは英断と思うが。このままあの男の側に置いておけば、近い将来この子は壊されていただろう。
「ふざけるなよ貴様!」
アルトスが不機嫌そうに俺に食ってかかる。
ああ、こいつはこうなるだろうな、さて、どう納得してもらおうか。
「貴様は姫様の護衛だろうが! 何を勝手に奴隷などを買っている? あの娘をどうするつもりだ。まさか、連れて行くのではあるまいな?」
「悪かった。ただあのままには出来ないだろう? このままじゃあの子何されるかわからなかったぞ」
アルトスは鼻を鳴らす。
「ふん。確かにあの男はクズだったが」
アルトスもあの男には不快な思いをしたようで、反論はしなかった。
多分、この子がエルフだったら激怒していたんだろうな。
「さあ、終わったわ」
どうやらステラが治療を終わらせてくれたようだ。
見れば先ほどまでの腫れを引いて問題なさそうだが、やはり痩せているな。
もう少し肉がついていてもいいだろう。
おそらく碌な食べ物を食べさせて貰っていなかったのではないだろうか?
改めてあの男に殺意が湧く。
「大丈夫か? 他に痛い所はない?」
女の子はコクりと頷く。
まだ、怯えは完全に無くなっていないが、傷を治療されたことで俺たちが酷い目に合わせる人間ではないとわかってもらえただろうか?
「あ、あの、ご主人様」
・・・ん?
ご主人様って俺のことか?




