がっかりS級
身体はすぐに動いてくれた。
デサイヤがアルトスの腹に剣を突き刺す瞬間に俺が服を引っ張る。
剣はアルトスの脇腹を掠めて通り抜けた。
「ぐあああ!!」
アルトスは悲鳴を上げて転がる。
「しっかりしろ! 傷は浅い」
「うぐっ、何故助けた・・・?」
「ああ? 身体が動いただけだよ。いいから下がれ。ステラに診てもらえば助かる」
「ま、まだだ。まだ私は」
「邪魔だってのが分からないか!!」
「なっ!?」
キツく言ってやるとアルトスは硬直する。
リーゼがやって来てアルトスを引っ張り、ステラの所に連れて行き、ステラが魔法を使う。
これで大丈夫だろう。
「なんだぁあいつは? 道化か?」
「お前には関係ない」
デサイヤは鼻で笑う。
「まあ、そうだな。俺はテメェら全員をぶっ殺すのが仕事だからな」
仕事、か。
「誰の依頼だ?」
こいつはプロの暗殺者じゃない。
冒険者だ。
それに余裕のつもりか随分とおしゃべりだ。
もしかしたら情報を聞き出せるかもしれない。
「それを知ってどうするぅ? お前はここで死ぬんだぜ?」
ふん。
もう勝った気でいるな。
「死ぬ前に冥土の土産って奴さ。聞かせてくれないか?」
何やらツボにハマった様で、ぶふふと笑い出すデサイヤ。
「面白れーなお前。まあいいか、聞かせてやるよ。俺の雇ったのはデブホイって商人だ」
「商人?」
予想外な職業の人間に狙われてたんだな。
「何故商人がステラを狙う?」
「エルフが堂々と参入して来ると、密輸品が売れなくなる。それに、市場を独占されることを恐れたんだろうぜ。エルフの特産品はデブホイの商会で取り扱う商品と被るからなぁ。エルフの姫が死んで、関係が拗れてくれれば万万歳。もし戦争にでもなれば武器防具も飛ぶように売れるって寸法だろうぜ」
「そんな、理由で・・・」
そんな理由で人を殺すっていうのか?
この世界の命の価値はそんなに軽いのか?
分からない。
それとも俺が甘いのか?
「そんな理由で殺そうとしてるのか? お前もそれで納得してるのか?」
「金さえ貰えりゃ俺は何だっていいのさ。俺には金が全てだからな」
そんなことを堂々と言う奴がホントにいるのか。
ドン引きだぜ。
俺の頭は徐々に冷めていった。
「聞いておきたいんだが、これはギルドから依頼されたものか?」
「ああ? ギルドが殺しの依頼なんて仲介するわけねーだろ。デブホイから直接依頼されたものだよ」
「そうか、それを聞いて安心した」
もし冒険者ギルドが殺しなんて依頼を普通にしてくる組織だったとしたら、俺はギルドに失望し、辞めていただろう。
「俺からも聞きたい。お前が護衛になった冒険者なんだよな?」
「そうだ」
「ほほん。じゃあ、デブホイが雇った暗殺者や山賊もお前がなんとかしたわけかぁ」
こいつ今聞き捨てならないことを言ったぞ。
「山賊と言ったか? あの山賊に裏から手を回したのはそのデブホイって商人なのか?」
繋がったかもしれない。
あの山賊が何故ステラのことを知っていたのか。
どうしてあそこで待ち伏せできたのか。
「らしいぜ。情報を渡したらしい。まあ、デブホイとしてはエルフの姫がこの旅で消えてくれれば死のうと奴隷になろうと構わなかったんだろうよ」
やはり、そういうことか。
「情報をありがとう。参考になった」
「ああ、じゃあもういいか? 安心して死ね」
「死ぬ気はないけどな」
「はっ! このS級冒険者デザイヤ様に勝てると思ってるのかぁ?」
「負ける理由を考えるほうが難しいな!」
俺はそう言って剣を構える。
それを見て、デザイヤの顔色が変わった。
腰を低くし、完全に戦闘態勢に入る。
その顔は真剣で、先程までの余裕はない。
「てめえ、ただもんじゃねーな」
「さあどうかな? 怖くなったか?」
「ほざけ!!」
デザイヤが斬り込んでくる。
振り下ろす剣を躱す。
次も躱す、その次も。
「くっ、この」
その次もスラスラ躱していく。
これも受けるに値しない。
「くそが!!」
デザイヤはリズムを変える為か、前蹴りを繰り出してくるが、それをバックステップで躱し、伸びた足目掛けてかかと落としを見舞った。
「ぐああああああああああ!!」
デザイヤの絶叫が響く。
*********
なんなんだこいつ。
デザイヤは痛めた足を押さえて下がる。
自分の剣が通じない。
構えを見た瞬間から間違いなく達人であると悟った。
警戒もしていたし、本気で攻めた。
しかし、疾風怒濤の攻撃をヒラリヒラリと躱され、一撃を食らってしまった。
今なら判る。
こんな奴が相手では、山賊や並みの暗殺者では相手にならないだろう。
「・・・お前、名前は?」
「セイマ」
全く知らない、無名の人間だ。
こんな奴が無名?
一体今まで何をしていた奴なんだ。
セイマはだらんと剣を下げる。
「降伏しろ。そして、全てを洗いざらい告白するんだ」
酷くつまらなそうにセイマはそう言った。
「何!?」
「残念だ。お前なんかがS級なのか。もっとやり合えると思ったのに。本当にがっかりだよ」
「な、なんだと!!」
既にセイマに殺気はない。
本当にデザイヤに興味を無くしてしまったのだろう。
デザイヤからすれば腹立たしいことこの上ない。
「お前、S級の中で最弱だろ?」
「なっ、俺が最弱だと!!」
今までそんなことを言われたことは一度もない。
屈辱だった。
頭の血管がぶち切れそうだった。
「そう願う。こんなに弱いんじゃな。話にならない。やる気が失せた」
頭が真っ白になった。
冒険者になりたての頃から才能に恵まれ、あっという間にS急に上り詰めたデザイヤにとって、ここまでコケにされたのは初めての経験だった。
「・・・この俺が、弱いだと!?」
「吠えるなよ。雑魚」
読んでくださりありがとうございました。
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