強欲のデザイヤ
ある屋敷で男は歓喜していた。
ようやくだ。
ようやく待ちに待った男がやって来たのだ。
その男とはS級冒険者デサイヤ。
二つ名は『強欲』のデザイヤ。
金に汚く、また金の為なら汚れ仕事でも喜んでやるというS級の中でも異彩を放つ爪弾き者である。
だが、男のように公に出来ない仕事を頼む人間というのは何処にでもいるものだ。
デサイヤは金に汚いが、仕事はきっちりこなすことでも有名で、だからこそ最高ランクまで到達出来たのだと評判である。
爪弾き者でありながら、冒険者ギルドの間では疎まれる存在でありながら、それでもS級に存在し続ける実力者。
デザイヤの必殺スキル『爆刃』は、あらゆる物を瞬く間に切り裂くとして恐れられている。
「で? 俺に消して欲しいってのは、エルフの姫なんだなぁ?」
デサイヤはへらへらと笑いながら男に問いかける。
「そうだ。その女をなんとしても殺して欲しい!」
「ふん」
デサイヤは鼻で笑う。
「こんな小娘一人を始末できなかったのかぁ? おいおい、ヤキが回ったようだな」
小馬鹿にされたことは屈辱だが、ここでこの男に仕事を降りてもらうわけにはいかない。
男はぐっと我慢して説明する。
「その、手強い護衛がいるんだ」
「手強い?」
男は頷く。
「冒険者ということだが、よく知らん。だから有名どころではないと思うが」
「強いってのかぁ?」
「強い! わしが今まで雇った奴らは軒並みその男にやられたらしい」
悔しさでぷるぷる震えながら男の顔は歪む。
デサイヤはそんな男の心情にはまったく興味が無いようで、冷めた目で見ていたが、ニヤリと笑う。
「指定の金額はちゃんと払うんだろうな?」
デサイヤが吹っかけてきた金額はべらぼうな値段だった。
男としては痛い出費だが、あの姫を確実に殺せるというのならば惜しくはない。
それ程に姫が生きていると不味いのだ。
男は頷く。
「ああ、しっかり払う」
「はっ! なら安心しろよ。そいつは必ず殺してやる。その護衛も一緒にな」
男は椅子に深く座り込んで安堵のため息をつく。
これで安心だ。
デサイヤは癖のある男だが、こいつに任せておけば問題ない。
確実にエルフの姫を葬ってくれるだろう。
「そいつらがいる場所はわかってるんだろうな?」
「ああ、把握している」
「へへ、上等。じゃあ早速教えろや。さっさと片付けてくるからよ」
デサイヤは知らない。
まさか、最上級冒険者の自分があんな目に合うなどと、考えもしなかったのだ。
警護に付いて数時間。
皆んなは既に寝静まっている。
こんな上等なホテルで襲撃を仕掛けてくる奴がいるとは思いたくないが、そもそも常識のある奴が暗殺などしないだろうし油断は出来ない。
特にこの最上階は大きなバルコニーもあるから外にも注意を向けないといけない。
あれから結局アルトスもステラ達女性の部屋に泊まった。
俺一人が中にいるのが痛く気に入らないらしい。
アルトス、こいつどんどん変になっていってるな。
こんなにも追い詰められているのか。
その原因が俺にあると思うと、ちょっと悪い気がしてくる。
この旅でステラのアルトスに対する評価はかなり下がっただろうし、こんな態度を続けていたらますます下がる。
こいつもステラを大事にしたい一心なのに。
気持ちが沈みかけた時、バルコニーに誰かが登って来た。
マジか。
ここ、最上階だぞ?
可能性としては有り得ても、まずないと思っていたのに。
「皆んな起きろ!!」
大声を張り上げて全員を叩き起こす。
飛び跳ねて起きた三人はキョロキョロ辺りを見回す。
「何事だ!? 敵襲か!?」
アルトスが叫ぶと側にあった剣を握る。
「ああ、その通りだよ。外だ」
三人が外に注視すると、侵入者はニタリと笑った。
俺は窓を開ける。
「何者だ?」
俺が警戒して問うと、その男は再びニタリと笑う。
「何者だ? おいおい、冒険者のくせに俺を知らないのかよ? はは! こいつはモグリの新人君だぜ」
有名人か?
男を観察する。
身長は百七十ちょいで俺と大した変わらないくらい。
中肉中背だが、相当鍛えてる。
黒をベースにした格好で手には剣を携えている。
前に戦った暗殺者とは違うな。
その道のプロではない?
有名人らしいからな、顔の知れた暗殺者などいないだろうし、そうじゃないのか。
俺をモグリと言ったな。
なら、こいつは冒険者?
それも有名な冒険者となると・・・。
「S級の冒険者か?」
「ご名答。S級冒険者のデサイヤ様だ。聞いたことくらいはあるだろう?」
「知らないな」
まあ、俺が知っている冒険者など、アズルさんくらいのものだが。
気分を害したのか、デサイヤは顔を歪ませる。
「マジでモグリだな。せめてこの国で活動しているS級冒険者くらい知っておけよ」
「ご忠告痛みいるよ。で、その有名人が何のようだ?」
デサイヤは笑う。
「決まってるだろ。そのエルフの姫を殺しに来た」
剣をステラに向けるデサイヤ。
俺も刀を抜く。
一瞬即発の雰囲気の中、アルトスが俺の前に出る。
「下がれ。姫様は私が護る!」
「アルトス!?」
何をしてるんだこいつは?
「下がるのはお前だ。相手は最上級冒険者だぞ。お前じゃ話にならない」
「アルトス下がりなさい!」
俺ばかりか、ステラにも諭されると、アルトスの顔は大きく歪む。
「黙れ黙れ!! 貴様の様なハッタリを効かせただけの下衆にこれ以上好きにさせてたまるか!」
ハッタリ?
何を言ってるんだこいつは?
俺の今までの戦いを全て八百長か何かだと思っているのか?
ちょっと考えればそんな筈はないと分かるだろうに。
アルトス、お前そこまで歪んじまったのかよ?
「はは! なんだなんだ? 仲間割れか? いいぜ、どうせなら二人で来るか? まあ、結果は一緒だろうがなぁ」
「黙れ賊が! 貴様は私が始末する。おおおおお!!」
「アルトス!!」
アルトスがデサイヤに斬りかかる。
何だそのなよっとした剣は?
そんなので人が斬れるかよ。
デサイヤもニヤニヤして剣を動かす。
やばい、やられる!
読んでくださりありがとうございました。
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