アルトスの葛藤
「おおーー」
思わず唸った。
王様が予約を取ってくれていた宿は、ホテルといった方がいい作りになっており、美しいシャンデリアなどが光を放ち、壁に掛けられている絵画などもおそらくは値の張る真作とお見受けした。
俺からするとレトロな雰囲気のホテルだが、まあ、この世界だと最新の流行をいっているのだろう。
隅々まで掃除が行き届いており、床のタイルは綺麗に光っている。
ここを無料で泊まれるのか。
リッチ!
ザ・リッチだ。
ステラも人間が作った最高級のホテルは珍しいのか、キラキラした目で見回している。
アルトスは咳払いをしてステラに注意を促す。
「ようこそおいで下さいました。我が宿で一番高級な二部屋をご用意しております。ごゆるりとお寛ぎ下さい」
完璧な営業スマイル。
滑らかな動作から荷物を持つ気配り。
プロだ。
これまでの宿では有り得ない最高のおもてなし。
このホスピタリティの高さたるや、なんだか自分が王様になったような気分にさせてくれる。
案内されるまま最上階に来た俺達を待っていたのは、勿論最高の部屋だった。
うわ、ふわっふわな絨毯。
寝れる。
ここで寝れるね!
前世でも経験したことのない極上の気分に浸れるホテルに泊まれる喜びで俺の心はもう王様気分よ。
「じゃあ、今日はもうゆっくり休んで、明日、のんびり帰りましょう。それじゃああたし達は隣の部屋に行くわね」
「お待ちください姫様」
ステラが自分達の部屋に行こうとしたらアルトスがそれを呼び止めた。
「先程、この男が聞き捨てならない言葉を吐きました。帰りも護衛をする、と。それはどういうことですか?」
ああ、言ったね俺。
しまったな、ステラはタイミングを見計らって言うつもりだったのだろうが俺がぽろっと言ってしまった。
まあ、明日には言わなければならないのだし、いいか。
「あ、うん。帰りもセイマに護衛を頼んだわ」
「聞いておりません」
「今言ったわ」
「・・・本当にまたこの男を雇うと?」
「うん。またセイマに五十万渡してね。お父様にも会ってもらおうかと思ってるから」
「なっ! こ、この男を王に会わせると? 里の中に入れると申されるのですか!?」
アルトスは信じられないとばかりに叫ぶ。
「だって、これから里はこの国と交流を始めるのよ。里に人間だって入ってくるんだし、セイマはいいテストケースになるんじゃないかしら?」
愕然としたアルトスは、手をブルブル震わせながら握り締め、白い顔を真っ赤にしながら気持ちを押し殺しているように見えた。
俺が里に行くのがそんなに嫌か?
まあ、嫌なんだろうな。
こいつは人間が嫌いで、その中でも俺のことが大嫌いみたいだし、この間ステラにきつく言われたからあまり反論はしないけど、本当は断固反対と大声で叫びたいんだろう。
(まさか、本気なのか姫様は! 本気でこの人間を里の中に入れるつもりなのか? しかも王に紹介だと? こんなハッタリをきかせただけの小狡い人間を? 何故こいつだけ特別扱いする? まさか、まさか姫様はこの男のことを?)
眼を充血させて俺を睨むアルトス。
こわっ!
なんかホラーっぽくてこわっ!
「文句は受け付けないわよ。これは決定事項だから。あ~疲れた。お風呂入って眠りましょう」
「ああ、また扉の前で警護するよ」
「ええ? ここは大丈夫じゃない?」
確かに最高級の宿だ。
警備もしっかりしているだろうが、この間来たのはプロだったからな。
「一応、護衛にはつくよ。何があるか分からないし」
「そう? じゃあまた部屋の中で護衛してよ」
「え? いや、どうかな」
この間は襲われた当日だったから仕方なくってところあったし、そう何度も女性の部屋に入るのは・・・。
「『また』? それはどういうことですか姫様!?」
うわー、アルトスがめっちゃ睨んでる。
あいつこの間はふて寝してたから知らないんだよな。
「部屋の中で護衛してもらおうと思って。この間は窓から侵入してこようとしたでしょう? この宿なんかバルコニーあるし」
確かにあるな。
外からの侵入は簡単そうだ。
「こんなケダモノの男を女の部屋に入れるなど言語道断です!」
「ケダモノって・・・。それに貴方も入るのよ?」
「私はいいのです。寝ている女性に手を出すなど有り得ません。しかし、この男は!」
「自分はいいって・・・この間はなんにもなかったわよ。ねーセイマ」
うお、ここで俺にパスを渡してくるか!
「あ、ああ。そうだな」
睨んでる。
アルトスめっちゃ睨んでる。
「とにかくこれは決定です。あー、リーゼ、お風呂入りましょう。疲れちゃった」
「はい、姫様」
アルトスの苦言を聞き流し、ステラは部屋に行ってしまった。
残された俺とアルトスは、気まずい沈黙の中にいた。
「俺も風呂入ろうー」
ここの部屋には風呂もついてるしね。
「待て貴様」
アルトスに呼び止められ俺はなるべく気軽に返す。
「ああ、アルトスが先に入るか? じゃあ、その間俺はステラの警護に」
だが、とてもそんな気楽な言葉を続ける雰囲気ではなかった。
アルトスはバックから大量の金を取り出すと、問答無用でそれを俺に渡す。
「ん? これって五十万よりも多くない?」
かなりの重さだ。
依頼料よりは随分とある。
まさか、アルトスがステラが言ったよりも多い金額を渡してくるとは夢にも思わなかったけど。
「いいのか? こんなに貰っちゃって?」
尋ねると、アルトスは真顔でこう言った。
「これで姫様から離れろ」
「は?」
何を言っているのか分からなかった。
ステラから離れろって言ったのかこいつ?
要約するとステラ達から手を切れってことか。
一体何を考えているんだ?
「お前は護衛を放棄し、何も言わずにここから立ち去った。姫様にはそう伝える。だから行け」
「断る」
「行けと言ってる!」
「断るよ」
俺はそう言うと、金を半分ほどアルトス目掛けてぶん投げた。
驚いてアルトスは無意識だろうが思わず金を受け取ってしまう。
「なっ、貴様!」
「一度引き受けた依頼だ。必ず遂行する。途中で放り出すようなこと出来るか」
アルトスは金を握り締め、ブルブルと震える。
「貴様は、姫様といるべきではない」
「それはお前が決めることじゃない」
そう、ステラが決めることなのだ。
誰かと誰かが一緒にいるのかは、当人達が決めればいい。
周りがどうこう言うべきではないと俺は思う。
アルトスは俺をステラから引き離したいが為に、少し狂ってしまっている。
「このことはステラには黙っておいてやる。先に風呂に入って頭を冷やせ。俺はステラを見ている」
こいつとの関係を改善するのはもう不可能に近いな。
これからまた旅を続けなくちゃいけないっていうのに、これから先、一体どうすればいいんだ?
暗雲が立ち込めるスタートとなりそうで、早くも憂鬱だった。
勢馬がステラ達の部屋に行った後、アルトスは一人項垂れていた。
「姫様。何故、あんな奴を・・・認めない。私は絶対に認めないぞ」
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