三日目
え、選ぶかも…
「護様、起きてください。」
「おはよう、メイア。ありがとう、起こしてくれて。」
護はメイアの声で目を覚ました。まだ外は暗く、日は出てない。
メイアがコップに水を入れて、護に手渡す。ひんやりとしていて、護はぼんやりとしていた意識をはっきりさせる。
「護様、こんなに早くお目覚めになられてどうなさるのですか?」
メイド服姿になったメイアがそう尋ねる。
「鍛えてみようと思う。ガンドルフさん達が朝練習しているみたいだし、教えてもらえることがないか行ってみたい。」
「護様の現状を見る限り、できることはほとんどなさそうですが。」
メイアは窘める口調で言った。護のステータスは初期値で最底辺であり、歩くことすらふらついている状態である。毎日鍛錬をしており、朝から激しいガンドルフ達の訓練で為になることは、ほぼないと、メイアはそう判断した。
護はそうか、と思う。どれだけ体を動かせるかは本人が一番よく知っていた。
メイアは護の両肩に手を置き、
「護様、強くなられたいのでしたらレベルを上げるのが一番でございます。ですが、今すぐ街を出て狩りに行くわけにもいけません。ですので、散歩に行きませんか?」
「散歩?」
メイアが全く関係のないことを言い出したので、護は聞き直す。
メイアは、『アイテムボックス』からリストバンドを二つ取り出して護に渡した。
護は『真理眼』を使用する。
パワーバンド (STR+1 腕の筋肉に負荷 手軽に腕力等を鍛えたい人向け)
「私の友人から譲り受けたものです。私には必要ないものでしたが、今の護様には必要なものだと思われましたので。」
何故、メイアの友人がこんなものを持っていたのか疑問を感じるが、護は早速両手首辺りにつけてみる。すると魔力がパワーリストから流れるのを感じる。また、腕を動かすたびに、一回腕立て伏せをしたような負荷がかかる。
「魔道具か。」
「その通りでございます。使い捨ての魔石を利用したものになります。着けただけで鍛えられるものですが、ステータスをレベルで上げた方が上げ幅が大きいので利用しませんでした。」
(メイアの言っている感じだと、筋トレによる上げ幅は小さいのか。レベルがある世界だし、そんなものかねぇ。)
この世界において、筋トレは主流ではないと思う護であった。
メイアから再び杖を貸してもらい、部屋から出る護とメイア。宿舎の入り口から出ようとすると、受付にはケレスが居た。
ケレスは護たちに気付くと、豪快な笑みを浮かべる。
「朝から睦ましいねぇ。こんな朝早くからデートかい。ちょっと待ちな。」
ケレスは二階に上がっていく。そして中々降りてこない。
「護様、戻ってこないようなので行きませんか?」
メイアは護の腕を掴むと歩き始める。護はそんなことを言い出したメイアに驚きながら引っ張られるまま歩き出す。
「護さん、おはようございます。…メイアさんとどこに…?」
「あんた、侍女だけじゃなくて、セレスも連れていきな。」
ケレスがセレスを連れて戻ってくる。セレスは慌てて身支度したようで、髪が乱れている。
護の目には心なしかセレスがメイアに羨望のような眼差しをしているように気づく。
羨望の対象になっているメイアはセレスの視線を無視すると、そのまま護を連れて行こうとする。
「止まってくれ、メイア。セレスも一緒に来るか?」
護がセレスの様子を見ながら、メイアを止める。護の勘がそうするべきだと告げていた。
メイアは顔色を一つも変えなかった。しかし、不満気な目線を護に向ける。
(メイアの視線が辛い。二人きりの方が良かったのかなぁ。ただ、セレスの様子もどこか危うい感じがするし、放っておくのは不味いかもしれない。)
セレスが護の元に行くまでには、いつもの様子に戻っていた。微笑む姿は可愛いと思う護。
メイアは不機嫌なオーラを出しつつも護の隣はキープする。そのため、セレスはメイアの反対の護の隣に並ぶ。
そんなメイアとセレスを交互に見て護は思った。
(メイアにはあれを聞かないといけないし、セレスもどこか地雷がありそうで気をつけないと。はあ、やっていけるかなぁ。)
護は夜調べたことを思い出しながら、まだ暗い街を三人で歩くのだった。
「大丈夫か、マモル?疲れているみたいだが。」
食堂でガンドルフが護の疲れた顔を見ながら言った。
「大丈夫です。思ったより歩くのだけで厳しかっただけですから。」
(それだけじゃないけど。結局、メイアはポーカーフェイスでどこか怖かったし、セレスは気分が良さそうだったし。ギャップがひどすぎて疲れる…)
内心ため息をつく護。メイアとセレスで温度差を感じられるほど空気が変わっており、その板挟みにあった護は心が疲労していた。おまけにパワーリストの効果での負荷で体も疲れているのである。
護の隣には黙々とポーカーフェイスのまま、食事をするメイアと、少しご機嫌なセレスが座っており、ガンドルフはそのことに気付く。
「まあ、なんだ、相談したいことがあるなら言ってこいよ。」
「ガンドルフ、それは私の役目です。…護様、相談なら是非とも私に」
メイアがポーカーフェイスを保ったまま、ガンドルフには冷たい声音で、護にはいつもの口調で言う。
「お、応。」
「あ、ああ。」
ガンドルフは気圧されて頷くしかなかった。護も釣られて頷く。
その後は何事もなく食事が進んだ。
食べ終わった後、行動の打ち合わせに入った。
「さて、どうする?」
ガンドルフは護たちに尋ねる。
「護様のレベル上げでしょうか。このままでは日常生活にも支障をきたします。」
「護さん…今朝もふらついてました…」
「今日は冒険者ギルドに寄ってから、狩りさね。」
「そうと決まれば、動くか。お嬢、教会の方はどうだ?」
「…大丈夫です。」
こうして冒険者ギルドに行き、その後は護のレベリングと決まった。
この会話中、護は冒険者ギルドに想いを馳せる。異世界の定番がどうなっているのか楽しみになるのだった。
冒険者ギルドは、王都には二つある。詳しくは東西の中央通りに一つずつ位置している。何故二つかというと、王都は結構広いのに加えて、人口も多い。そのため、当初、東の中央通りに一つあったが、物や人を捌ききれなくなってしまった。対策として同様の規模のギルドハウスを西の中央通りに設置したのである。ちなみに、薬屋よりも王城よりに建設されている。
そう説明をメイアから受けながら支えられている護は胸を高鳴らせる。
(異世界といったらやっぱり冒険者ギルドだよな。龍志たちはもう利用したのかな。)
ここにはいない龍志たちの顔を思い出しながら歩みを進める。
薬屋を通り過ぎ、王城もそれなりの大きさを訴えかけてくるようになったころ、冒険者ギルドが見えてくる。建物は三階建てあり、明らかに薬屋よりも大きかった。
「大きい。」
「王都でトップクラスの高さを誇る建物の一つです。加えまして、地上と地下には訓練場があります。」
「こっちは後でできた分、東よりも広いし大きいぞ。」
護がポツリと零した感想に、メイアとガンドルフが捕捉する。
早速入ってみると、エントランスがあり、正面に受付、両脇に二階への階段が設置されていた。
ピーク時ではないが、受付には多くの武装をした人たちが並んでいた。
そしてここでもなぜか、オッサンが受付嬢の隣におり、受付をしている。並ぶ人がおらず退屈そうに受付嬢に媚びを売っている冒険者を冷めた目で見ながら待っていた。
受付のオッサンがガンドルフ達に気付き手を振った。
「久しぶりじゃねぇか。今日はどうした?」
その声で並んでいた冒険者がガンドルフ達に気付くと、その場が喧騒に包まれる。
護の耳には、「あれって、『堅牢』の二人じゃね?」「アクスドーラ夫婦だよな。」といった声が入ってくる。どうやら二人はかなり有名なようだ。
オッサンの受け付けに護達は進んだ。
「ここにいるマモルの登録を頼みたくてな。」
オッサンの目が護の顔を捉える。眼光が鋭く、ケレスにじっと見られていた時よりも怖い。
「登録ならタダだが、見込みあるのかこいつ?今のところ最弱じゃねぇか。」
鑑定系のスキルの使用したのかは分からなかったが、護はそう判断される。実際この場にいる冒険者で最弱になるので間違っていない。
「無理かどうかはこれから分かる。とりあえず頼む。」
「お前さんが言うならしょうがないか。」
オッサンは登録用紙と水晶を取り出す。護に用紙から渡していく。
「坊主、登録用紙は書けるか?書けたら、水晶に手をかざせ。」
登録用紙には名前と性別、所持している一般スキル、種族を書く欄がある。
護は一通り書き終わると、水晶に手をかざす。水晶に手を触れた途端、体に力が流れるのを感じる。
「護様、ステータスを確認されてはいかかがでしょうか。」
オッサンに登録用紙と水晶を渡し、メイアの言われた通り確認してみる。
職の欄は相変わらず空白のままだが、職スキルの欄に『アイテムボックスLv1』が追加されていた。
「メイア、俺の所持金を出してくれるか?」
メイアから所持金を受け取ると、内心で『アイテムボックス』と唱える。すると、空間が歪んだ。護は迷うことなくその中に、所持金を入れてみる。するとステータスのように『金貨47枚、銀貨30枚』と表示される。
「アイテムボックスさね。マモル、職は変更できたのかい?」
エトリアの問いに護は首を横に振る。一同は各々困ったように頭を押さえる。
「登録は終わったぞ。って、どうした?坊主、これがお前のギルドカードだ。詳しい話はガンドルフ達に聞け。」
登録手続きを終わらせたオッサンからギルドカードを護は受け取る。ガラスのような材質で出来ているようだが、落としても割れそうにないくらい頑丈である。白色に赤の字で名前と種族が書かれている。
ギルドカードに書かれている情報が少ないのは、ランクを知るためだけに使われている節があるからである。ランクはギルドカードの色で判別でき、メイアやガンドルフ達は黄色に緑の字で、セレスは緑に橙の字で書かれている。
身元の偽装が起こってもおかしくないはずだが、これは最初の水晶に触れたときの魔力をまとめる魔道具があり、ギルドカードには所持者の魔力を持つ性質があるため、その魔力を照会することで防いでいる。MPからINT関係なく魔力を引き出せるので、INTがゼロな護でも登録することができた。
ちなみに、人、種族によって魔力の波長などが異なるため照会することが可能になっている。
「早速依頼を受けて狩りに行くか。」
ガンドルフに連れられ階段を挟んで、受付の隣にある掲示板へ行く。
ランクを示す色ごとに依頼が仕分けされている。一番依頼数が多いのは緑であり、黄以上は数えるほどしかない。白は次のランクである青よりかは多かった。
「護様、これとかはどうでしょうか。」
メイアは一つの依頼書を手に取り護に見せる。
依頼の内容は、ホーンラビットの討伐。周辺で数が増えており、農作物に影響が出る前に間引いてほしいという依頼だ。5匹の討伐で銀貨1枚、それ以降一匹ごとに銅貨30枚の追加がある。
ホーンというからには角があるのだろう。突進を受けたらひとたまりもないが、メイアがサポートに入るだろうし、問題はなさそうだ。
「一度に受けられる数は決まっているのか?」
「はい。三つが限度でございます。」
「他に同時にできるのは?」
「そうですね…。後は薬草の採取といったところでしょうか。」
「ホーンラビットと薬草の採取の二つぐらいにしておこう。」
護とメイアがどれを受けるか話している間、セレス達の方でも依頼を選ぶ。こちらはセレスに合わせたランクの依頼を選んでいるようだ。
「決まったぞ。」
「こちらも決まりました。」
「護は武器の選定とかがあるだろうから、別行動になるな。死なないように気をつけろよ。」
「はい。」
護とメイアは受付で依頼の受理手続きを完了した後、セレス達三人と別れて、工業区に向かう。
工業区は南東に位置しており、武器や防具、魔道具などを生産する職人が集まる場所である。商業区に比べて武装をした人たちが圧倒的に多い地区である。
二人は王城の周りを通り、メイアがいつも懇意にしているという中央通りから外れた店に来ていた。
「いらっしゃい。おや、メイアじゃないか。隣にいるのは旦那さんかい?」
「いえ、新たなご主人様になります。」
店に入って早々、そんなやり取りが行われる。メイアに声を掛けた女性は四十代半ばといった感じで美人だった。その女性は首をかしげ、疑問を口に出す。
「王様に仕えなくていいのかい?あれだけ王様にご執心だったのに。」
メイアは淡々としたまま答えた。
「王様の命により、護様に仕えておりますので。それに、護様の下で過ごすのも悪くないと思っております。」
女性は何か納得したようである。女性は二人を奥へと案内する。工房には槌を振るう音が鳴り響き、三人の男と一人の女性が未完成の獲物を完成へと導いている最中だった。
「あんた、お客だよ。メイアと新たな主人だってさ。」
声は聞こえているはずだが、声を掛けれた当人は無視して槌をひたすら打つ。見た目は筋肉達磨というのが似合うぐらい鍛えられており、頭にはタオルといった様子だ。
その職人は打ち終わると、汗を拭って護達を見据える。
「久しぶりだな。そのひょろっとしているのが仕えるべき相手か。今の状態だと装備できるような物はなそうだが。シュリア、初心者用の軽いナイフを見繕ってやれ。」
女性もといシュリアにその男はほとんど興味がなさそうに言うと、再び作業に戻る。
シュリアはやれやれと首を横に振ると、「すまないね。こっちだよ。」というと初心者用ナイフのところへと案内する。
様々な種類の武器が置かれている部屋へと案内された二人は色々見て回る。護は一つ包丁よりも刃渡りが長い短剣に目がいく。
『真理眼』を使用し、その短剣の性能を見た。
銘 (軽く丈夫。組成、鉄:ミスリル=8:2 初心者用)
短剣を手に取ってみる。今の護では振り回すことはできないが持てないほどではない。
「それは、旦那が打った弟子への手本用の短剣だね。中々良いものを見つけるじゃないか。」
「これにします。」
「気に入ったかい?錆止めのオイルと砥石もつけておこうか。手入れの仕方はメイアに聞くといいよ。防具はユリスに特注で強化服を作ってもらいな。」
料金は全部込みで銀貨10枚。護の選んだ短剣単体で銀貨15枚するものだが、良い目利きをした者へのサービスとなっていた。
店を出ていく際、シュリアが顔を真剣なものにして、
「メイア、死なせないように。大事にしなよ。」
「分かっております。」
メイアの返事に満足したのか、シュリアは笑顔で二人を店から見送るのであった。
二人の目的地は王都アズべリアから南東にある近郊の村の1つであり、農作物が豊富に採れる地域にあたる。徒歩で片道一時間ぐらいの場所にある村だ。
二人は目的地に向かうため、西の門から出ていくことを選択する。門は入場する時は検問を受ける必要があるが、出ていく時は検問などもなくスムーズに動けるように出入口が分けられていた。門の外には幅三十メートルの堀があり、底が見えないほど深い。
馬車が二台並んでも余裕がある石造りの橋を渡り、護が見渡すと、周囲は所々に森がある以外はほとんど平坦な平野になっていた。遥か遠くには二千メートルを越す山々がそびえ立っている。
「護様、失礼します。」
光景に目を奪われている護を、メイアは抱え上げる。そう、お姫様だっこでだ。
「ちょっと待ってくれ。どうしてお姫様抱っこにする。急にどうしたんだ?」
メイアは一旦護を降ろす。そして首を傾げる。
「私のステータスであれば走ればすぐにつく距離ですので、抱えて走ろうかと。おんぶでは安定しませんから、だっこで運ばせて頂こうと思っていたのですが。」
メイアのステータスをフル活用すれば三十分もかからなくなる。メイアの選択肢に歩いていくという、普通なものはなかった。上級者になると緊急の依頼で長距離を短時間で移動する必要が生じる。メイアの場合、王城勤めでそういうことはほぼ無かったが、癖になるぐらいまで迅速に移動する鍛錬をしていた。
急ぎの依頼では無い筈だが、徒歩の選択肢が思い浮かばないのはそんな生活と無縁だったせいかもしれない。
「歩いていかないのか。」
「歩きですか?昼食までに終わらせて一旦戻ろうかと思っておりましたが…。それに今の護様だと一日かけても終わりませんよ。…どうなさいますか護様?」
「う、それはそうだな。でも、メイアの力を借りても依頼の達成になるのか?これだと本人の力とは言い難いと思うぞ。」
メイアは呆れた顔になる。ため息を一つつくと、
「冒険者の心得に『手段は問うな』というものがあります。試験では自身の実力が必要になりますが、依頼の達成には助っ人を呼んでも、強力な魔道具を使っても、問題はないとなっております。」
護は考えてみて、納得する。命を落としてしまっては元の子もない。依頼が優先であり、実力が足りなければ、他の力に頼ることも選択肢に入れるのは当然である。
「変なことを聞いてしまった。頼む、メイア。さっさと終わらしてしまおう。」
「かしこまりました。」
メイアは護を抱えあげると、地面に少しのめり込むぐらいの力強さ踏み込み走り出す。
急激な加速に護は声なき悲鳴を上げるのであった。
~三十分後~
「いました、あれがホーンラビットです。」
村長からの情報を基に畑から少し離れたところに二人は来ていた。
そこには体長五十センチメートルほどのウサギがおり、その額には三十センチメートルぐらいの角がある。見渡す限りに五十は超えるだろう数が居る。
「かなり多くないか。村長の話だと、かなり数が減ったらしいけど。」
「繁殖力が強い種ですからね。ああ見えても魔物ですし。一匹捕まえてきますね。」
「えっ。」
護はメイアの気配が急に薄くなり、一瞬認識できなくなる。そしてメイアは足音すらなく一番近いラビットに近づくと、角と後ろ脚を掴み護の元まで戻ってきた。
「さあ、護様。倒してみてください。心臓を一突きすれば死にますので。」
メイアは当たり前のように前脚で足掻くホーンラビットを護の前に突き出す。
「位置が分からない。」
「失礼しました。そうですね…。『火よ』」
ホーンラビットのふさふさの毛皮の一部が焼けこげる。ホーンラビットがさらに暴れるがメイアは気にしていない。焼けこげた部分をどうやら一突きしろ、ということらしい。
護は買ったばかりの短剣を取り出すと、『真理眼』を併用しながら一突きにする。短剣の切れ味は良く、ラビットに突き刺さる。護の目にはホーンラビットのステータスが浮かんでいた。
ホーンラビット Lv5
LP 0/40 MP 15
STR 13 AGI 18
TEC 10 END 17
INT 7
スキル
どうやら上手く刺さったらしい。ホーンラビットはすでにこと切れており、護のアイテムボックスに仕舞い込む。
護は体に力が少しみなぎる感じを覚える。短剣を振り回すのはまだ無理だが、倒す前よりも軽く持てる。
「護様、大丈夫ですか?人によっては初めて生き物を倒したときに吐かれたり、気分を悪くなされたりすることがありますますので。」
「ああ、大丈夫だ。どうやらレベルが上がったらしい。他のも狩ろう。」
護はステータスを見ながらそう言う。一応レベルでは格上の相手と戦ったため、それなりに上がっている。
メイアは「かしこまりました。」とだけ言うと次のラビットを用意する。護が急所を突き仕留める。何回か急所を外し仕留めそこなったりしたが、問題なく終わった。結果的に十五匹仕留め、切り上げる。
「レベルはどれくらい上がりましたか?」
村長に切り上げる旨を伝えた後、メイアに抱えあげられて戻る途中メイアが護に尋ねる。
「Lv10になったよ。Lv8を越したあたりから上がり方が悪くなったけど。」
「かなり早い上がり方ですね。普通ならLv6,7ぐらいまでしか上がりません。体は上手く動かせますか?」
「正直、力の入れ方とかが上手くいかない。ステータスを見たら、この世界に来た時よりも上だし、もう杖は要らないかな。」
「昼からは体に慣れるようにしましょうか。上手く制御できないままだと危ないですから。」
急激なレベル上昇は体と精神のずれが発生する。制御が上手くできず、ドアノブを壊したりといったことが起きる。戦闘中に起これば、予想以上に間合いを詰めたり、威力が高すぎる魔法が発動するため、かなり危険なものだ。ただし、こんなことが起こるのは低レベル帯である。上級職になればなるほど、今までのステータスに対しての上昇値が微々たるものになるのでそこまで影響がない。
道の途中で薬草を採取しながら、帰る二人であった。
~五十分後~
二人は昼のピークが終わったころにアズべリアに入ることができた。門は混んでおり、入場するまでの時間を長く感じた護である。ちなみに、杖は要らなくなって普通に歩けている。
先に西の冒険者ギルドにホーンラビットを討伐、薬草の採取の報告に向かい、そこで報酬と引き換えにラビットや薬草を素材引き取り場で渡した。なお、ホーンラビット一匹はメイアの『アイテムボックス』に入っており後で調理するようだ。
その後、商業区に向かい「クイッソン ラグー」という店名の煮込み料理がかなり美味しい店で昼食を済ませた二人は、教会に戻っていた。
訓練場の一角を借りて、護は木製の短剣を手に同じく短剣を持っているメイアに打ち込む。メイアはあっさり木剣で弾くと、足を払う。
「護様、立ち上がってください。早くしないと、死にますよ。」
メイアはそう言いながら、木剣を護に向かって振り下ろす。護は転がることで何とか回避したが、メイアの蹴りを諸に喰らってしまう。
護は痛みと戦いながら、立ち上がる。手加減してもらっているのは分かっている。だが、あまりの痛さに護の体は逃げろと訴えかけてくる。それを心で抑え込み、木剣を構える。
メイアの提案により、実戦形式をとることになってしまった護はメイアの扱きに必死に耐えている。
護は基本の足運びを教えてもらった後、ひたすら転がっていた。足払いだけではなく、ステータスの差でまともに受けられないことも転がる原因になっていた。唯一の救いはまだ護が視認できる範囲で動いてくれるところか。
「護様、体の方はどうでしょうか?」
「痛いことを除いては、大分慣れた。」
「折角ですので、痛いことにも慣れてしまいましょう。」
メイアの方から切り上げが迫る。護は体を横にずらして躱そうとするが、それを読んでいたかのように軌道がずれ、護を追いかける。護は後ろに咄嗟にのけ反って回避する。しかし、もう一歩踏み込んだメイアの反対の拳が護の肩を捉え、二メートルほど吹き飛ばした。
肩が外れたため、入れ直し水薬で治療する。そして再び対峙する二人。
そんなことがかれこれ一時間ほど続けられた後、終わった。
そんな二人を見ていた見習い騎士たちは、護を尊敬する目になっていた。ぼろぼろになり吹っ飛ばされても立ち上がり続ける姿は彼らに火をつけることになる。そのおかげで翌日から地獄を見る羽目になるのだった。
「メイア、あんた何かしたのかさね。あんたを見る目が明らかに違うよ。」
夕食の際、見習い騎士たちが恐れるような目でメイアを見ていることに気付き、エトリアがそう声を掛けた。
メイアは教会に戻ってきてからの事情を話す。三人(ガンドルフ、エトリア、セレス)は見習い騎士達の視線に納得する。いずれは通る道とはいえ容赦のなさに同情するしかない。
「護さん…。体の方は…?」
若干顔色が悪くなっているセレスが護に聞く。
「痛みもないし、問題ないよ。」
護は安心させるように穏やかな表情でそう答える。
LPが減るほどの怪我を負っていたが、水薬で回復している。痛みは夕食前まで続いていたため、回復は出来ても痛みまでは緩和できないと護は理解する。
ちなみに、ぼろぼろになった服から着替えており、メイアがほつれた部分を直すためにその服を預けていた。
「にしても、Lv10か。いくら低いからとはいえ、上がりが早いな。」
護を除いた一同は頷く。ホーンラビットを十数匹倒して誰もが護のようにレベルが上がれば苦労しない。
「おそらく、職が無い代わりだと思います。ただ、変化薬が無いとレベルが上がってもステータスが役に立つところまでは長くかかるでしょうけど。」
ステータスの上がりが圧倒的に少ないため、同レベルの相手ですらステータスで負ける可能性が高い。それもレベルが上がれば上がるほど上位の職に就いている者達が多く、その差は大きくなる。おまけに変化薬での補正値を含めたもの以上の上がり方を上級職がすることを、メイアから聞いていた。
護は改めてハードモードだなと思う。死が近い世界でこのハンデがどのように働いてくるのかと思うとぞっとするのであった。
~夜~
お風呂上りで火照った体を冷ましていた護は修復された服を見つめる。ところどころ破れていたはずだが直っていた。
見つめ終わった時、メイアが昨日とは柄の違う寝間着を着て部屋に戻ってくる。
護はメイアの顔を見つめる。そして言葉を切り出す。
「今日も俺の横で寝るのか?」
メイアはいたずらがバレた子供のような顔をする。そして、先ほどの問いに答える。
「その予定です。」
その答えに微妙な顔をしながら護は『完全なる図書館の司書』を使用した時に調べていたことを話し出す。
「この世界には結婚式はないが、夫婦になるには『三日の夜伽』をするらしい。で、肝心の内容だが…」
「護様のお思いになっておられる通りでございます。あと一日で護様と夫婦関係になっていました。」
メイアはポーカーフェイスで感情が読み取りにくい。声のトーンからすると残念そうにしていると感じる護。
「メイア、なぜそんなことを?」
「単純に申しますと、不安なのです。他の男性を愛しながら、護様に仕えられるほど私は器用でございません。それに護様をないがしろにしてまで追い求めるものでもないと存じ上げております。でも、私にも家庭を築けるのであれば築いてみたいのです。ですから、いっそのこと護様と…」
(俺なんかよりも、メイアの幸せを追求してほしいところだが…言っても聞かなさそうだよなぁ。男なら据え膳食わぬは男の恥か。結婚かぁ、全然地球の方では夢のようなものだったからなぁ。)
護は自分がメイアが思っているような関係に応えられるか、不安を感じる。その不安を棚に上げて護は言葉を選択する。
「メイアの気持ちは分かった。でも、黙ってやるのは間違ってると思う。」
「申し訳ございません。護様に知られるとこうして止めらると分かっておりましたので。」
メイアはそう謝る。その言葉は震えを帯びていた。
そのことに気づき、護は決心する。メイアとの距離を詰めるという決心を。
「まだ戸惑いはあるけれど、メイアとなら。メイアの隣に入れるように努力はする。まあ、子供はまだいいかもしれないと思ってる。だから家庭を築くのは当分先にはなるけど、受け入れてくれるか?」
メイアはかなり驚くと、護に近づく。
「良いのですか?普通なら辞めさせられてしまってもおかしくないと思っております。ですのに、私を隣に?」
護は近づいてきたメイアを抱きしめる。初日と同じ甘い香りを感じるのに目を回すことはない。自分の摩訶不思議な体に困惑を浮かべながらも、メイアの赤い目と合わせる。
「受け入れてくれる?そうなら、是非とも隣に。ずっと傍にいてくれ。」
「かしこまりました。護様のお傍に。ありがとうございます。」
二人は見つめあうと、ベッドに倒れこみ口づけを交わすのであった。
A:なんちゃってQ&Aを始めるぞ。
Q:メイアとの距離が縮めまくってないですかね。てか、展開的に恋愛感情あるの?
A:うーん、信頼が近い関係かもしれない。
Q:随分熱烈な信頼関係ですね。
A:結局は男と女だったということである。
Q:逃げましたね。それよりも護、魔物平然と倒してますよね。精神に影響あってもおかしくない筈なのに。
A:それについては後々に勇者一行が出てくるから、その時に何故平然としているかは出そうと思うぞ。
Q:そうですか。(確か一章の閑話だったけ。)
展開が遅いことには目を瞑ってくれると幸いです。後は魔法の話をして進められるな…。




