温泉
珠里からの相談を受けた鏑木は、より距離を近くしようと温泉に誘う
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「この世界は僕の言うことに逆らうことは出来ないように出来てるんだ」
「えっと……それはどういう事ですか?鏑木先輩はこの世界の創造者とでも言うのでしょうか?(また冗談を言ってる。この人は相談を真面目に聞くことは出来ないのかな)」
「そう。海の帰り、電車で寝てるときに夢で見た。あと、珠里ちゃんもそうみたいだよ?」
「すみません。流石に意味が分からないんですけど」
「じゃあ、試してみよう。珠里ちゃん。俺と付き合って」
「イヤです」
「あれおかしいな(実際に夢で見たから成功すると思ったんだがな)」
それから家に帰ってからもドキドキが止まらない。危なかった。あの時は思わず「いいよ」って言いそうになった。なんとか踏みとどまったけども。しかし、何で鏑木先輩の言うことは断りづらいのか結局分からなかった。単純に私が実は鏑木先輩が気になっているとか?いやいやいや。そんなことは……。でも。実際に付き合ってみたら何か分かるかな。
その前に、ちーちゃんに相談の結果を伝えなきゃ。
「いやー。まさかこんなことになるなんて思わなかったよ~。これも鏑木のおかげだよ~」
テンションの高いマロから電話がかかってきた。というよりちーちゃんスゴいな。時間的に聞いてすぐに告白したことになるだろこれ。案の定、鋼のメンタル、マロは素直に受け入れたようだけど。しかしなんで俺のおかげなんだ。
「なんで俺のおかげなの?」
「なんでって。ちーちゃんに俺に告白するように言ってくれたんでしょ?」
「ああ、そういうことか。じゃあ、逆にちーちゃんから珠里ちゃんに俺に告白するように言ってみてよ」
なんて頼んでみた。まぁさっきの感じじゃ無理だと思うけど。とりあえず残りの夏休み中に珠里ちゃんをどこかに誘ってみよう。そうだなぁ。なんか眺めのいいところがいいかな。
「先輩」
「ん?なにかな珠里ちゃん」
「なんで温泉なんですか?なんでそんなにエッチなんですか?しかもほったらかし、ってデートに誘った女の子をほったらかしにする温泉なんですか、ここ」
「別に混浴じゃないし、いーじゃない。それにここ、本当に眺めが最高なんだよ。それを珠里ちゃんにも見せてあげたいと思ってさ。」
先輩から遊びに行こうって言われてこの前のこともあるし、了承したのは事実だけども。何で温泉なんだろう。そんなことを考えながら温泉に向かう。
「わぁ……」
びっくりした。富士山がよく見えるし、街も一望できるし、本当に眺めの良い温泉だ。いつも変なことばかり言ってる先輩の事だから、湯上がりが見たいだけで適当なところだと思ったのに。先輩も良いところあるじゃん。これは断らなくてよかったかな。湯上がり後は案の定、お風呂入った女の子は最高だとか言われたけども。
その後は揚げ卵とかいう珍しいものを食べたりフルーツ公園でパフェを食べたり、本当にデートみたいなことをした。
「ここから紙飛行機飛ばしたら気持ちいいだろうなぁ」
「なに考えてるんですか。小学生ですか」
先輩は相変わらずだ。でも、ここからの夜景は綺麗なんだろうなぁ。日が暮れるのが遅いしその時間まで……。なんて私は何で先輩ともっと一緒にいたいって思ってるんだろうか。
帰り道の時間、先輩はまた寝てしまった。この人、本当によく寝るなぁ。寝てる間に私は考える。この人と仮に付き合ってみたらどうなるんだろう、とか、私は本当は先輩が好きなんじゃないかとか。
「先輩。私と付き合ってみます?」
熟慮の結果、とりあえず付き合ってみたら何か分かるだろう、ということで例のコンビニ近くの稲荷神社に到着したときに思い切って言ってみた。思ったよりも恥ずかしい。
「いや、棒でつき合うとかそういうのじゃないです。私だって恥ずかしいんですから真面目に答えて下さいよ」
「いいよ。というより、この前フられたと思ってたんだけど。あの相談はやっぱり自分のことだったのかな?」
「違います。あれは本当にちーちゃんの相談事でしたよ。それで、返事はOK、でいいんですよね?」
「大歓迎です。とても嬉しいです。本当に」
先輩が珍しく優しくてまじめな顔をしている。こういう顔も出来るんじゃない。でもよかった。ここでフられたら私、バカみたいだったし。
夏休み明けに、ちーちゃんに霜月先輩への説明をどうしたものか相談した結果、ここは真正面からストレートでいった方がよいという結論になった。霜月先輩は鏑木先輩が珠里ちゃんを選んだのなら仕方がない、とあっさりした回答だった。流石に寂しそうだったけども。
それからは霜月先輩はばつが悪いということで誘っても乗ってこなくなってしまった。今は鏑木先輩と私、ウタマロ先輩にちーちゃん、新道先輩の5人でいることが多くなった。新道先輩は霜月先輩のこと、諦めたのかな?流石に聞けない。
まぁ、鏑木先輩と付き合うのは案外心地良かったしこれで良かったのかな、と思い始めた矢先、事件は起きた。
次回、人の心、お楽しみに




