誘い
海から帰ってきた鏑木は思わぬ誘いを受けることになる。そこで取った鏑木の行動は……
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「霜月?どうした?」
「それはこっちのセリフ。どうしたの。こんなところで独りで。失恋でもしたの?ちーちゃんと珠里ちゃんのどっち?」
「そんなんじゃねーよ。新道がさ……」
「新道くんがなに?」
「ああ、いや。なんでもない。風が気持ちいな」
「そうね。星空も綺麗」
「ああ。そうだな」
本当に綺麗だ。地元の空も綺麗だが、こっちの空は波の音も相まって際立って綺麗だ。そんなところに霜月と二人きりなんで不思議な気分だ。
「ねぇ……鏑木」
「なんだ?」
「……私じゃダメなの?」
「……ああ」
「なんで?」
「そうだな……。近すぎるからじゃないか?」
「そっか……」
静かだ。俺たちの声と波の音しか聞こえない
「あー……スッキリした!」
突然、霜月がそう言った。
「どうした?」
「どうもこうもないわよ。今フラれたのよ私。長年の片思い、初恋の人にフラれたのよ?これでスッキリしないでなにでスッキリするのよ」
「それもそうだな……。なぁ霜月……」
「ダメ!謝らないで。あと、こっちを見ないで」
それからすぐに霜月が走って離れてゆく足音がした。
「本当に綺麗だなぁ……」
まさか霜月がなぁ。まぁ、正直なところ、そんな気はしてた。でもこの日が来ないように絶妙な距離を取れていると思っていた。アイツはきっとこういうことに慣れていない。そして俺の気持ちも知っていたはずだ。それなのに……。
「あーあ。先輩、ダメだったみたい」
「そうみたいね。この後、どうする?見なかったことにする?」
ウッドデッキの欄干に肘を置いて両手で顎を支えながらちーちゃんと珠里ちゃんは話していた。
「いや!見なかったことになんて出来ない!(このナイス尻を見なかったことになって出来ない!)」
「ウタマロ先輩……。流石に気持ち悪いです」
次の朝、皆、微妙な距離感で朝ごはんを食べることになった。俺は昨日の出来事を新道にもマロにも話してないのに、なぜか知った感じで皆まで言うな、という対応を取ってくる。霜月はいつもと変わらないように見えるが、俺には分かる程度いぎこちなさがある。ちーちゃんと珠里ちゃんは昨晩のことは恐らく知っているようだ。今日は午前中までこっちに居て午後に帰ることになっている。気不味い。激しく気不味い。新道!チャンスだぞ!頑張れ!お前がどうにかしろ!トイレに立った新道を追いかけそう言ってみたが流石に上手く行くはずもなく更に気不味さは増していった。
流石にみんなで海に出掛けて騒ぐ雰囲気でもないのでペンションで時間を潰すことになった。
「ねぇ、先輩。なんでダメだったんです?」
朱里ちゃんがウッドデッキに居た俺に聞いてくる。
「なんていうかなぁ。霜月は近すぎてそういう対象に見れなかったんだよ。なんか兄妹みたいな感じでさ。上手くいかないもんだなぁ。この夏は結構なんでも上手く行ってたはずなんだけど」
「人の心なんて上手くできるはずないじゃないですか。それと……鏑木先輩はちーちゃんが好きなんですか?」
「なんで?」
「だってずっと見てるじゃないですか」
「そう?朱里ちゃんのことも見てたけども。逃げられてた気もするけど」
「先輩、目線が露骨なんですよ。流石に分かりますって。ウタマロ先輩ほどじゃないですけど」
「バレてたのか」
「バレますって。あと、さっき近すぎるのはダメって言ってたじゃないですか。例えば、例えばですよ?私とかちーちゃんとかの距離感ならどうなんですか?」
「さあ、どうだろうな。正直、言われてみないと分からないかな」
「なんで私達が先輩に告白することになってるんですか。それに例えばの話ですからね」
「わかってる。でももしどっちかに聞かれたら珠里ちゃんって答えるかなぁ」
「な……っ!にを言ってるんですか!だから例えばの話だって言ってるじゃないですか!それに、だからなんで私達が告白することになってるんですかっ!」
「いいじゃない。言うだけはタダだ。さて。そろそろ時間かな。電車に乗り遅れるから準備しようぜ」
帰りの電車は気不味かったのもあるが、疲れていたこともあってすぐに寝てしまった。寝ている間に妙な夢を見た。なんだったんだろうアレは。
「私、あの時なんであんなことを鏑木先輩に聞いたのかな」
横井珠里は考える。花火を見るのだって、この海に行くのだって正直乗り気じゃなかったのに鏑木先輩の誘いだと断れなかった。あの人は私にとって何なんだろう。もう一度会って確かめてみようか。
そんな時にちーちゃんから連絡があった。「鏑木先輩に相談があるのだけれど、自分で聞くのが恥ずかしいから私が聞いてきて欲しい」という内容だった。なんで私が……と思ったけども、鏑木先輩に会う良い口実なので了承した。鏑木先輩に利久堂の杏ソフトサンデーを食べに誘ってみたらあっさりOKを貰った。
「霜月先輩とちーちゃんも一緒に来ると思ってました?」
いつものコンビニで待ち合わせて会うなりそう言われた。考える。このシチュエーションはなんなのか。たぶん相談事の類なのは間違いない。言いにくいことの可能性が高いからライトな感じで対応しよう。
「いや。流石に霜月は来ないと思ったよ。ちーちゃんは一緒に来るかもって思ったけど。まぁいいや。今日はデートなの?」
「そんなんじゃないです。利久堂の杏ソフトサンデー、みんなが先輩に奢ってもらったってちーちゃんから聞いたんで私も奢ってもらおうかなって」
「なんで俺が……。でもいいや。海も一緒に来て貰ったし。本当は乗り気じゃなかったでしょ」
「そんなこと……ないですけど……(見透かされてる……この人なんで分かるんだろ)」
というわけで鏑木先輩と利休堂へやってきた。まずはちーちゃんからの頼まれごとを先にっと。
「鏑木先輩。相談があるんですけどいいですか?」
「いやー、まさか本当に珠里ちゃんから好きだって言われちゃうなん……」
「そんなこと言ってません。ちょっと相談なんですから真面目に聞いて下さい。」
「すまん」
「実はちーちゃんからの頼まれ事なんですけど……、なんかちーちゃん、ウタマロ先輩のことが気になるらしくて。でも一回断っちゃってるからどうすればいいか、という内容です。親友の鏑木先輩なら相談に乗ってくれるかな、だそうです」
「なんでそれを珠里ちゃんが?良くある私の友達が、の相談で実は自分のこととかそういうやつ?」
「だから真面目に聞いて下さい。違います」
「そうか。それなら簡単だ。素直に言えばいいと思うよ。あいつ、鋼のメンタルだから昔の事なんて忘れて大喜びすると思うよ。しかし驚いたなぁ。ちーちゃんが俺じゃなくてマロをなぁ」
「いつも思うんですけど、その自信はどこから来るんですか……」
「喉から?」
「喉からでも鼻からでも良いですけど、病気なのは分かりました」
「おー。よくわかったね。乗ってくれるとは思わなかった。気が合うね。あと他にも聞きたいことあるんでしょ?聞くよ」
だからなんでこの人は私の考えてることが分かるのかな。しかも、この人に言われたことは断りづらい。不思議なのは言われたことだけ断りづらいということだ。今日はそれを確認できれば良いのだけれど。
「率直に聞きますね。私は何で鏑木先輩の言うことは断りづらいんでしょうか?」
「また難しい質問をするな……。それはね……」
次回、温泉、どうぞお楽しみに




