第5話 菜草兄妹の秘密
「櫻様、あなたの春は今年もお見事でした」
「あやめちゃんがいるからがんばれるんだよ」
「あやめだって櫻様がいるから頑張れるんです」
2人は花舞櫻と菜草あやめ。春の神の妹とその従者だ。
しかし、2人の楽しい時間はすぐに終わってしまった。
ーバァン
発砲音がしたからだ。
あやめはすぐさま櫻の手を引いた。
「櫻様、逃げましょう。多分、賊です」
「あやめちゃん…まもってくれる…?」
「はい。同じ失敗は二度と繰り返しません。あやめは櫻様に忠誠を誓っているのですから。櫻様のためならいつでも死ねるんです」
「だめだよ。ふたりでにげるの」
「そうでしたね」
「……」
「……」
無言のまま歩いていると、櫻が転けてしまった。
しかし、誰も銃を撃たない。
あやめの前にある光り輝く世界は闇に染まってしまった。
追いかけられているのは主人じゃないと。
自分であるのだと。
なのに、なのに主人を危険地帯に連れ込んでしまったことを後悔する。
「どなたの差金ですか!?」
あやめは叫んだ。一応知っておきたかったのだ。
しかし、無言のまま。
「聞かなくてもわかる。お父様だろう?」
悪い笑みを浮かべたあやめは鞘から出しかけていた刀をしまった。
「櫻様、ここから先は夏のお二人にお頼り下さい」
「あ、あやめちゃんは!?あやめちゃんはどこにいくの?あぶないよ…」
「ちょっと実家に帰るだけです。しかし、実家なんて本当に久しい」
あやめは父の手下のほうをむき、一括した。
「捕らえたいのは櫻様じゃないのなら…この私を連れて行きなさい」
しかし、誰も動かない。
「聞けェッ!これは星華からのご命令だ!」
「せい…か?」
「櫻様、ここから一番近いのは秋の国です。秋の国へ行ってください」
「いや…いや!あやめちゃんとわかれたくない…」
「手下共!この小娘は見逃せ。私を実家に帰しなさい」
* * *
その少し前、夏の国。
「朝日、私ちょっと気になることがあるんだけど…」
「私もある。でも、ゆりからでいい」
櫻が繋いだ2人の仲は良好なものとなっていた。
「噂なんだけどね、今日帝州にいったあやめさん。あの人、皇家の娘じゃないかって」
「私も思った!あやめさん、金髪金眼だったと思う。金髪金眼って、神話ではその土地の長に渡されてたから、その土地が大和ならもしかしたら天皇家の人たちなのかなって」
「噂では天皇家には十数年前に消えた息子と娘がいたんだって」
「あやめさんが櫻ちゃんの従者になったのは…少なくとも話の文脈からして13年以上前だと思う…」
「でも、あやめさんの性格からしたら、髪の毛の色を染めたりとか普通にしそうじゃない?特に珍しくもない色にしたり…」
「なにか、理由があるのかもよ。染められない理由。もしかしたら神話になってるかもしれないし…」
「そういえばさ、大和の国の神話って推定では半分くらい見つかってないんじゃなかったっけ?」
「そうだよ。もしかしたらその中に理由が隠されているのかもしれない。もし、隠したくなるような内容なら、見つかってないんじゃなくて意図的に誰かが隠してるのかも」
「知られて困る…天皇家の人間?」
「天皇家の人間なら、むしろ誇りに思うんじゃない?どうやっても天皇家ってわかるし。どんなにわかりづらい格好をしてても見たい人たちは頭を下げてくれるってこと」
「なら、誰が…?」
「あくまで予想だから、本当に見つかってないだけかもしれないけどね。とにかく、あの金髪金眼を調べないわけにはいかないよ。ちょっと聞き込みしてくる!」
「あっ!ちょっ!」
走って宮を出て行ってしまった朝日の後を追いかける羽目なってしまうのであった。
* * *
「もうすぐ、春か」
冬の神・凍宮白城はテレビでお花見中継を見ながら言った。
「風吹か…。彼奴は力を無くしたんだろう?」
「その通りです」
答えたのは従者・雪谷冷寒だ。
「現在は…⬛︎様が春の力をお持ちとのことです」
「……」
白城は外を見た。まだこの辺は春が来ていない。一面雪景色だった。
「本当なら、今、隣には⬛︎がいるはずだったのに…」
「……」
『まて、風吹』
『こちらは仇を打ちのめすためにきた。お前らの要望なんて聞けない』
『その娘は母親とは違う。⬛︎には何の罪もない』
『母親の遺骸でもとってけっつうことか?』
『母親と⬛︎は違う!なぜ勝手な母親の代わりが⬛︎なんだ!』
『自分か⬛︎、どっちが大切か?』
『それは勿論⬛︎だ!』
『なら妥当だろ。冬の力を持つお前を連れて行かないだけマシだと思わないのか?』
『マシとかそういう問題じゃないんだ!』
ーこれは夢だ。
すぐにわかったのだ。これは夢だと。
過去の過ぎ去ったはずなのに。一度も、忘れられていない。
ー⬛︎、待っていろよ。
耐えていてくれ。俺が迎えにいくまで。俺が大切な妹を迎えにいくまで…
基本、話し言葉で書いています。
変に格式張った言葉遣いにすると、口の悪さや性格によって変わる話し方を楽しんでもらえなくなるので。




